「……え?」
今度は掻き消える事もなく声が出せた。見上げた視界にはどういう事か。何とツナの姿が映っていたのだ。
いや、あれは本当にツナだろうか。見間違うはずはないんだけれど、それにしたってどうしてツナが一人でこんな所に?
一人、また一人とどんどん男達を薙ぎ倒していく彼はあまりにダメツナと言われた少年の姿とはかけ離れてはいないだろうか。かつての私はツナがあんなにも鋭く、意志の籠った瞳をするなんて思いもしなかった。
私史上最高のヒーローが登場したにも関わらず、始終私はそんな事を考えていた。ふと静かになったと思えば数秒もしない内に影がおりて、特に驚くでもなく見ればそれはやっぱりツナのものだった。
どうしてか一言も話さずにロープを解いてくれるツナからは不安のようなものが伝わってくる。
変にお互い無言が続く中、先に声を発したのはツナの方だった。
「ごめん、怖い思いをさせて」
ロープの締め付けから解放されたものの、手錠の方は鍵を見つけなければどうにもならず、結局不自由が続いている。
呟いたツナの声に私は嫌な意味でドキリとした。
やばい。もしかしたらさっきの言葉は聞こえていたかもしれない。どうして私が、なんて今のツナに聞こえていたら最悪じゃないか。だって多分、この騒動の理由はツナと関係しているんだから。
そんな不安が過ったけれど、突然ツナが私をそっと抱きしめるものだから思考は全部吹っ飛んでしまった。さっきまでの冷たい地面や肌寒い空気と全然違う、じんわりと人肌の温かさが伝わってきた。
ねえツナ、私今聞きたい事がたくさんあるよ。
私の知ってるツナは喧嘩なんてできる強さを持っていなくて、そんな勇気すら持ち合わせていなかったはず。だってどこまでも君は普通なんだから。なんら特別な事はない、私や他の人達と何も変わらない。そうに違いないのに。
ねえ、君の手がそんなにも大きいなんて事私は知らない。別人みたい。そう、まるで別人だ。
ツナがどこか遠い存在になっていくような気がして、私は恥ずかしさも捨ててその温もりにしがみつきたくなった。けれどもどかしい事に私を拘束する手錠は解かれていなくて、まだ身動きが取れないでいる。
「ねえ依泉。オレはマフィアなんだ」
一瞬反応が遅れた。離れたツナが下手な苦笑をして、倒した男達の持ち物を点検していく。数分後一つの鍵を手にしたツナによって、ようやく私は自由の身となった。
「あの……ツナ、ありがとう」
黙って首を横に振ったツナはやっぱりいつもと違う。
本当の事を話そうと思うけど、聞きたくなくなったら直ぐに逃げてくれて良いからねとツナは念を押した。本人は自然と使ったのだろうけど、逃げるという言葉が少し胸につっかえてしまった私は逃げるもんかと腹をくくってその話に挑む事を決意した。
そしてもう一度口を開いたツナによって、私はこの世界の裏側を知ってしまう事になる。そして、今目の前にいる幼馴染みがそれに深く関係しようとしている事も。
「オレは依泉が好きだ」
「…………」
説明の後間もなく、ツナが発した言葉に私はぽかりと空いた口が塞がらなかった。何より最初に出てきたのは、今それを言うんだ。という事で。その考えこそ何より場違いだなんて事はこの時は全く思わなかった。
「えぇと…うん。私も好き、です」混乱して稚拙になってしまったけれど伝えれば、ツナが一瞬笑顔を取り戻す。けれどそれはまた萎れて苦笑のような苦渋のような、すぐに難しい顔に戻ってしまった。
「でもオレはボス候補だから、オレといるとまた危ない目に遭うかもしれないんだ」
それでも……とその先を躊躇うツナに、今しかないと思った私は直ぐに口を開いた。
「良いよ。それでも私はツナと一緒にいたいんだよ」
ねえそれに、次にこんな事があってもツナはまた助けにきてくれるんでしょう?
自分のできる最大限の笑顔は効果があったろうか。彼の瞳の色が緊張から安堵へ変わった。笑顔が戻る。
私はやっと自由になった手のひらでツナの両手を包んだ。色んな気持ちを送るつもりだったそれは私の思っていた以上に温かくて、じわりじわりと逆に私が安堵してしまう。
今度はきっとツナが元のしかめっ面に戻らないような気がするなんて、ただの自惚れにしかならないかもしれないけれど。
ベタで幸せな恋物語を描く二人
end.
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書いてるこっちが恥ずかしくなるだなんて、そんな!←
2009.11.06.fri
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