:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10)
*標的25『京子vsハル』パロディ。ヒロイン影薄め。ハルがよく出ます。


「あの日、あの時、もしも自分が違う選択をしていたら」

何十何百と数え切れない悔いの涙。
大き過ぎる後悔を積み重ねた先の未来に、幸はあるのか。



「―――ツナさん」

高い声が彼の耳に届く。10年前から変わらない、周囲を元気にできる明るいハルの明るい声。
けれど今日は彼女らしくない、いつもより低く小さな声。その原因は彼、沢田綱吉も分かっていた。

「やっぱりここにいたんですか」
「あぁ、ハルか」

並盛町の端には公園墓地がある。その大きさは周辺の町の中でも随一の規模で、まだまだ空きっぱなしの土地もたくさんある。それでもよく夏には肝試しなんかをする子どもを見かけるが、勿論成人して数年経った今、遊びの為にここまで来たりはしない。
すでに多少息を上げているものの減速する気配はない。一応は都会だというのにこの広い敷地内に明かりはほとんどなく、満天とまではいかないが空には綺麗な星達が煌めいている。歩き慣れた道のりを行ってしばらく、そこでハルはようやく探していた人物を見つけた。

「どうかしたの?」

少しだけ息を整えようとハルが呼吸を3度繰り返す内に、振り返りもせず俯いて声だけで相手を判断していた綱吉の方が声をかける。依然あちらを向いているので表情は見えない。
こんな時間に出歩いたら家族の人が心配するだろ、感情の籠らない声で言う彼は卑怯だ。綱吉がここにいるからハルも今ここにいる、これは仲間の皆の気遣いでもあり、それを分かっていてこんな事を言うのだ。

「ツナさんがいないって獄寺さん達から連絡があって、だからハルが来たんですよ」

綱吉とハルは恋仲ではない。実を言うと中学生の頃から今でもハルは綱吉を想っているが、それを表に出さなくなってからもう10年になる。綱吉は綱吉でずっと片想いすらしないままだった。
それでもこの日は他の誰でもなく、この二人が集まる。ここ数年はイーピンが加わる事もあるが、まだ未成年の子どもをこんな夜中に外出させる訳にもいかない。

二人は何を隠そう墓参りに来たのだが、本来明日来るべきである所を今日にしているのは、やはり他の人目を憚りたい思いからなのか。そう、明日は大切な二人の命日である。
綱吉の前には手入れの行き届いた墓石が仲良く2つ並んでいる。そこに刻まれた名前は…


「  、  !」


10年の歳月を経てもその日の事は鮮明に思い出せる。ハルは酷く顔を歪ませ、スカートの裾をありったけの力を籠めて握り締めた。

「あの……すみません。ツナさん、ハルはやっぱりあの時、」
「オレが悪いんだ!」

綱吉はつんざくような声で、ハルの言葉を遮った。
ハルじゃない、ハルじゃないんだ。オレのせいで……そこで途切れた言葉の代わりに嗚咽が耳に届く。ハルの頬に一筋の水滴が伝う。
一度も顔を上げない優しすぎる彼のものより、この涙はどれだけ安いだろうとは思っても、ハルがそれを口に出せるはずは無かった。





事は10年前の明日、世間は休日。


「良いじゃないですか!一緒にケーキ屋へ行きましょう!」

偶然商店街で会った綱吉に気を良くしたハルは、自分の買い物に彼を連れていく。上機嫌のハルは勿論、ノリ気でない綱吉も誰一人としてこの先の悪夢を知る人はいない。


「京子ちゃん、依泉!」
「……あ」
「ツナ君?」

何たって今日は自分感謝デーなのだ。
行きつけのケーキ屋さんへ行けば、綱吉の知り合い2人と出会った。片方はハルとも一度面識があった、綱吉の幼馴染みの依泉という女の子。もう1人は初対面だが、自分感謝デーをぴったりと今日に設定している綱吉のクラスメイト。ハルと気が合わない訳がない。

「それで?ツナは京子ちゃんが好きなくせに、ハルちゃんとデート?」
「違うって!」

ハルが無理矢理連れて来たんだと弁解すれば、依泉からはそっけなく返事が返ってきた。それに何となく敗北感を覚えた綱吉は仕返しのように「依泉こそ、こういう店来るなんて意外」と一言。

「失礼な!……って行っても京子ちゃんにお気に入りのケーキ屋さん教えてもらってる身だけど」
「そう!そうなの。だから別に毎日ケーキ3個も食べてるわけじゃないんだよ!」
「そうなんだ……」

ほのぼの具合に脱力感を覚えた綱吉は京子の天然性のボケにも、依泉の「頬緩んでるよ」という半分冷やかしの言葉に対しても声に出してツッコむ気すらしなかったらしい。
盛り上がる3人に放置を決め込まれ、そこにリボーンが登場。気が付く頃にはこのメンバーが綱吉宅を訪問する事が決定されていた。

1 / 2 | |

|


OOPARTS