綱吉の部屋ではプチパーティが開かれた。机には先程の店で購入したケーキの数々が並べられ、沢田宅のお世話になっている子ども達も含めると決して広くない室内はすでに満員状態である。
そんな中ケーキの味に感動したらしく、ひと筋涙を流したイーピンがお礼にと取り出したのは中華饅、もとい餃子饅である。ひとつふたつみっつとケーキを提供してくれた女性陣へ丁寧にそれを渡していく。

「うわぁ、」
「美味しそうです!」
「私ももらって良いの?」

綱吉は今はケーキを食べているからと気を使ったが、食べ盛りの乙女達にそんな理屈は通用しない。京子にハル、果ては少食なはずの依泉までがその大きく白い食べ物に目を輝かせた。
その姿に驚く綱吉をよそに、暖かな湯気を漂わせた餃子饅に被り付いた3人は間も無く―――倒れた。


「……え。京子ちゃん、ハル、依泉?」


突然の事に驚きを隠せない綱吉は、次に現れたビアンキの言葉に心臓が止まったような錯覚を覚えた。

「一種のポイズンクッキングね」

餃子饅というのは鍛練を積んでからこそ口にする事ができるものであり、それをただの一般人に与えて何もない訳がなかったのだ。
被害者3人に対して解毒剤は1人分。ビアンキの言った一人を選ぶなんて事は綱吉には決してできない。オロオロするイーピンを責める余裕すら見つからない。
3人は本当に、こんな事で死んでしまうのか。

「こうなりゃ死ぬ気の生命力にかけるしかねーな」

不意に聞こえたリボーンの声にそちらを向くと、ちょうどその小さな身体が二丁の銃を素早く構えたところだった。弾は勿論特殊弾で、これは同時撃ちをする事により、銃弾同士の共鳴で生命力を増幅させる効果を持つらしい。
つまり、3人は助かるの?
率直な質問にリボーンは綱吉を見る事もせず即答した。答えは否定だった。気休めを言われたような腹立たしさを覚え、彼が口調が強くなりつつ聞き返せば、「いくらオレが最強のヒットマンでも、人間に変わりねぇんだ」と当然と言えば当然の言葉が返ってきてはまた怒りが膨れ上がる。

「手は2つしかねぇのに、3人同時に撃てる訳ねぇだろ」
「……あ」

焦れったい言い回しに苛々していた気持ちは吹っ飛ぶ。綱吉は焦りからリボーンの持つ銃が二丁である事を忘れていたようだった。つまり、死ぬ気弾で助けられるのは2人かいないか、そのどちらかという事だった。

「ただし1人はイーピンの持つ解毒剤を飲ませりゃ良いんだぞ」
「あ!そうだった」

助かる兆しにホッと胸を撫で下ろす。のだが。

「ここが選びどころだぞ、ツナ」

再びどん底が待っていた。死ぬ気弾を撃つ2人を、どの組み合わせにするかを綱吉に選ばせようと言うのだ。何でもこの方法は双方の後悔がシンクロしないと効果を発揮しないらしく、元々の単独の力では致死までを回復するに足りないそうだ。
そんなの、無理だろ。
それが彼の第一の感想だった。この3人の中で、死に際に同じ事を考えるペアを選べだなんて。けれどここにいる中でなら誰よりこの3人の事を知っているだろうと、半ば脅されるようにして綱吉は思考を働かせる運びとなってしまった。

ハルと京子は今日が初対面だったから、自然とこのペアは外される事になる。ハルと依泉もそこまで親しくない。残るは依泉と京子だが、この2人なら仲も良い、今日だって2人で遊んでいた訳なのだから。
一番可能性があるんじゃないだろうか。

「イーピン、解毒剤をハルに頼む。リボーンは京子ちゃんと依泉を」
「それで良いんだな?」
「…………うん」

イーピンがハルに解毒剤を飲ませたのを確認し、綱吉はリボーンに目を向けた。
一先ずハルは大丈夫だ。問題は京子ちゃんと依泉。お願いだからこの2人の悔いが同じものであるようにと、綱吉はこの時人生で一番強く願った事だろう。



けれど思いは虚しく、2人はほんの少し身動ぎしたかと思うと、二度と目を覚ますこと叶わなかった。死ぬ気にすらならなかった。

「……失敗だな」


この時ほど、自分の無力さを思い知らされた事は後にも先にも無いのではないだろうか。
意識を取り戻したハルに全てを話せばわんわんと大粒の涙を溢し、綱吉も一緒になって泣いた。彼は京子の兄に顔が腫れるくらいまで殴られ、ふたりの両親が泣く姿を葬式で見て。
綱吉やハルの親がずっと頭を下げているのを2人はただ、一緒に謝り、涙し、悔いる事しかできなかった。


あの時、もしもオレが別の選択をしていれば
(あの時、もしもハルが無理矢理ツナさんを連れてケーキ屋へ行かなければ)

今も3人は笑い合えていたのだろうか?
(今もハル達は、仲良く笑い合う事ができたのでしょうか?)


あの日の間違った選択で、2人は命を落としたんだ。


渇れた心臓

2人の墓は隣同士ひっそりとたてられた。


2009.12.20.sun

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