:第31回(2010年1月期)JUMPトレジャー新人漫画賞佳作受賞された高橋ミツハルさん作「BITER」に感銘を受けてやってしまいましたよ!原作直後の設定で思いつき。

*そんな訳でこれより先を見る前に必ず原作を読みましょう。
*閲覧はPCからジャンプHPにアクセス→過去の佳作賞作品掲載ページの2010年分より。
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バクは人の「夢」を喰らう。それは睡眠中に見る夢の事ではなく、端的に言えば将来の夢。こうなりたいと願う希望の事だ。普段は姿形を人と同じにして近付き、夜眠りについた頃に標的の夢を奪っていくのだ。
子供ばかりに起こるその不可解な記憶障害に文部科学省が動くのはそう遅くはなかった。彼らは調査の内にある少年と出会う。これまでのように夢を忘れてしまったその子供は、しかし唯一その犯人の姿を起きて目で捉えていた重要参考人だった。
彼は大人には視認すらできないバクを相手に、文科省と手を組み戦う。全ては自分の夢を奪ったバクを捜しだしいつの日か取り返す為に。



自分の夢を取り戻した喜びもそこそこに、川上蓮菜の脳内ではひとつの可能性が思い出されようとしていた。先日彼女の夢を奪ったバク退治を手負いながらも終えた幼馴染みの定森哲勝は、突然に陰った蓮菜の表情に気付き首を傾げた。そわそわとしはじめた蓮菜を少しの間観察していたが、ようやく開いた口はそれでも少し申し訳なさそうに話し出した。

「……あ、あのねアキ。もしかしたら私の友達でバクに夢食べられた子がいるかもしれない」

ずっと前の話。絵を描くのが大好きだった友達の依泉が転校しちゃったんだけど、1年して戻ってきた依泉は描く事を止めてた。聞こうとしてもその話題にはちゃんと答えてくれないし、それでも聞こうとしたら今度は親に止められた。だから、以来その話は禁句になったの。
あの時は何が何だか分からなかったけど、今なら一つ可能性がある。依泉は絵を止めたんじゃなく忘れちゃったんじゃないかって。

「よし、確かめにいこう!」
「えっ!まさか今から?」
「うん。善は急げ!依泉ちゃんの家どこ?」
「あ、あっちだけど」

蓮菜は戸惑いながらも、言う事を躊躇った自分が早くも馬鹿らしくなっていた。バクと戦ってそんな怪我をしたのに、そのバクの話にここまで飛び付くとは。よもや数日とは言え昨日まで入院していた人間の行動力とは思えない。



「いらっしゃい蓮ちゃん!久し振りだね。……と、もしかしてアキ君?」
「久しぶり!依泉っ」
「定森哲勝ですはじめまして!」

ちょっと小洒落た一軒家が軒を連ねる住宅街。突然の訪問とは言え特に用事をしていた訳でもなかったらしく、話中の依泉は快くふたりを家の中へ招き入れた。
落ち着いた雰囲気を纏った、日本人らしい目鼻立ちのごく普通の少女だった。子供ながらにどこかフェミニン漂う雰囲気があったり、ちょっと良い感じなお家柄からどうしてこの二人がこんなに仲良しなのかと哲勝は思ったが口には出さないでおく事にした。

ふたりとは通う学校の違う依泉は、哲勝の方とは初対面だった。「蓮ちゃんから噂は聞いてたよ」と笑った依泉は、続けて先を促した。「今日はどんなご用件でしょ?」
茶化したような口調のそれでも、ふたりの表情は僅かに強張った。言葉に詰まった蓮菜に対して慣れたように哲勝が口を開く。

「依泉ちゃん。突然だけど以前絵を描く事を止めたって聞いたんだけど、その理由を答えてもらえる?3択だから1つ選んで」

勝手に話を進め出した彼を止める者はこの場所この状況にはいない。

「ひとつ、スランプだから。ふたつ、夢を諦めたから」

指をひとつ、またひとつと畳む哲勝に蓮菜がひっそりと息を呑み、依泉もいつの間にか笑顔を消していた。

「みっつ、思い出せないから」

回答までには少しの間ができた。

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