:SKET DANCE
:藤崎佑助


ここ開明学園には変わった部活がたくさんある。他校なら5〜7名必要であろう部員を、たった3名集めるだけで新しく創設を認められるのが良いんだか悪いんだか。
他にないようなユニークな部活や、ひどいものでは大した人数がいる訳でもなく男女で活動が全然変わってくるような運動部でもないに関わらず、部員の対立を理由にして内容が重複した部活すら作られている。そんなのは部内で勝手に派閥でも何でも作れば良いと思うが、私はそれをどうこうする教員や生徒会ではないので口には出さないでおく。

さて、制服の着崩しもかなり適当なところまで許されている学校方針。規則が緩い以外に個人的にその部活申請の緩さだけは感謝していたりする。
学園生活支援部という何ともボランティア臭漂う名称は置いといて、通称スケット団が成立したのはこの方針のおかげでもある。

「ボッスンに好きな人?」
「うん。スイッチなら知ってるかなって思って」

私は別にスケット団の部員ではないが、よくお世話になったり遊びに行ったりしている。今も部長と副部長が不在ながらも足を運んでいるのは何を隠そう相談があるからで、その内容とは想い人であるここの部長こと通称ボッスンについてだった。
いるのかいないのか、実際どうなの?と質問の先を促す。

「本人に直接聞いてみれば良い」
「無理だから聞いてるの!」

相談を受けた目の前のイケメン眼鏡のポーカーフェイスが、若干面倒臭そうな表情に見えたのは気のせいという事にしておく。便利屋とでも言うべきスケット団は雑用とかどうでも良いような依頼も多いが、文句を言いこそしてもだからと言って決して理由なしに断らない人柄の集まりは接してみれば途端その良さが分かる仕組みになっている。極端な話暇だから遊び相手になってと言えば初対面でも恐らく楽しく遊んでくれる。
少しの静寂の後に出されるスケット団メンバーからの返答はいつも冴えているから頼りになる。

「……ふむ。では、メールで聞いてみるのはどうだろう」

これはまた意外な答えが返ってきたようだ。正直メールはいくらでも修正ができる分、相手の反応を窺ったりするのには向いてないイメージがある。同じ理由でこちらとしても送信のボタンを押す勇気を出すのは、直接聞くよりも難しいんじゃないだろうか。そんな私は考えが表情に出ていたのか、スイッチが見透かしたようなタイミングで的確な説明を付け足した。

「俗にメールでは感情が読み取り辛いというが、内容以外にも読み取れるところはある。例えば、返信が来るまでの時間だな」

私のやる事は次のステップ通り。
まず相手が暇な時間を図り、メールを送る。次に何気ない会話で話を盛り上げ、相手の返信速度をなるべく上げる。食事時などは勿論避け用事などの被らないタイミングで、さりげなく好きな人はいるか聞いてみる。以上。
簡単な感じで説明されたが、これって私がボッスンの暇な時間帯を把握していないとできない訳で。若干私が逃げ腰になりつつあれば、「それはこっちで調べがついてる」だなんて頼もしいんだか恐ろしいんだか。少なくともスイッチが末恐ろしい人物なのは確実だ。

「でもそんなの、いてもいなくても、いないって言う事ない?」
「ああ。可能性はある。しかし読み取るのはさっきも言った通り書かれた文面じゃない」
「……時間?」
「そうだ。好きな人がいないなら、何も考えず冗談混じりくらいの気持ちで軽くいないと返事をするだろう」
「しかし実際にいるとすると、メールで打つのは恥ずかしい。嘘をつくべきか?真実を言うべきか?更に聞いた相手がその張本人だとすると、何でこんな事を聞くのか?この機会に告白するか?など、色々悩み打ち直す時間がかかる可能性は高い」
「……なるほど。つまり内容は気にしなくて良くて、返信が遅かっただけ好きな人がいる可能性が高くなるわけね」

カタカタとスイッチ特有の会話方法の為に軽快なリズムでキーボードを叩いていた先程までの音は止み、これで完璧だとでも言うように静かに頷いたスイッチに、何となくこの作戦でイケるような気がして自然と笑みが零れた。

「さっすがスイッチ!ありがとう、やってみる」



さてその翌日。スイッチ曰く今日のこの時間帯は予定がないらしいボッスンにさっそくメールしてみる。
“今暇?暇なら話し相手になって!”と少しだけ緊張しつつ率直に送信。暇な事を最初に確認しておく、これもスイッチの入れ知恵だったりする。時間があるのは聞いていたけれど思ったよりも早く返信が来て、内容も“オレも今暇すぎて死にそうだった!”ときたものだからなんだか幸先の良さを感じるのはさすがに楽観視しすぎだろうか。
少しの間適当に天気がどうとか当たり障りない会話を続けていたら、ある時点でボッスンが予想外の提案をしてきた。

“ていうか雑談なら打つの面倒いし、電話しねぇ?”

え?どうしたら良いのこれ。個人的にはメールよりも声を聞ける電話の方が断然素敵だ、けれどこれは作戦だ。一瞬のフリーズの後、ボッスンからのメールを置いて思わずスイッチを頼ると、驚くほど速攻で返事が返ってきた。スイッチも暇なんだろうか。
とりあえずメールに書いてた通りに、カラオケに行って今日は喉が痛いと言う設定にしておく事にする。勿論それでわざわざ疑われる事もなく、ボッスンからはすぐに了解の返事が来た。


“ところで、ボッスンって好きな子とかいるの?”

文字を打つのは案外普通にできたのに、送信ボタンを押そうとした途端やけに手が震えた。
自分ひとりなら正直真剣な感じを取り繕う為に“いるとしたらヒメちゃん辺り?”とか余計な一言を入れてしまいたくなるが、前もってスイッチに止められてしまっている。ていうかスイッチって思慮深いのが本当に凄いなぁと感心するけど、それを通り越してやっぱりちょっと怖いかもしれない。
なんて1人苦笑いを溢す私は端から見たら随分奇妙なんだろうけど、幸い場所は自分の部屋だ。そんな事を考えていたからか、予想外のタイミングで鳴った受信音には自分でもびっくりするほど飛び上がってしまった。

「ひっ!……え、ボッスン?」

私が深めの息を吐きながら携帯を閉じてから、1分も経たない頃だ。悩む時間なんて、ほとんど無いに等しい。
頭の中でリピートしだしたスイッチの「長ければ長いほど好きな人がいる」説が嫌な方向にしか進まない。無意識なのか携帯を開く手は随分とゆっくり動作した気がする。

“いるけど、急になんだよ?”

「……え?いるの?」

正直なところ、拍子抜けしたという言葉がぴったり当てはまる。あんなに考えを巡らせてくれたスイッチの作戦も、気持ちを荒波立てた私の内心も、彼のこの返答で全て台無しになったようだった。
とは言えボッスンがそんな事で嘘はつかないだろうし、目的は果たせた訳で、実際に好きな人もいるんだろうけど。ただ即答って事は脈なしって事になるのかな?それはそれでまた辛い。

1 / 2 | |

|


OOPARTS