「聞いてみただけ……、っと」

そっかーいるんだ。どんな子?と付け足しておこう。
そっかぁ、いるんだ。失恋って事かなあ。
今となっては随分無駄に張り詰めていた気持ちを落ち着かせてみれば、続く返信はそこそこ楽な気分で臨めそうだ。と思っていた私を次の返信でもまだ彼は落ち着かせたままにはさせてくれないらしい。

“そういう依泉は好きな奴いる?”

これは予想外。質問を質問で返されてしまった!
返信の為のメールを立ち上げた指が、そのまま素早く文章を作り上げてくれない。答えたくないからはぐらかしたとか、そういう事?思考はまた嫌な方ばかりを考えてしまっていけない。
早く返信しないと、と無理矢理思考を働かせようとするものの、その頭はさっき読んだばかりなはずのメールの内容にすら理解をなくしてしまったようで、やはり返信内容を考えるまですら相当時間がかかったかもしれない。

「いるって言うべき?いや本人にそんなの……でもボッスンは教えてくれたんだし。でも誰って聞かれたらどうしよう?」

恋は駆け引きなのだと聞いた。私はその駆け引きを上手くする自信なんてこれっぽっちもない。だから器用なスイッチに相談をした。
今だってどうすれば良いのか、頭が回らなさすぎてまたもスイッチに助言をもらおうかと思い始めた時だった。なのにそのチャンスは、突然鳴った着信音によって見事潰されてしまった。さっきまでと違う音楽は受信されたのが電話である事を示しているもので、その電話の主は思いもしない、今までメールでやりとりしていたボッスンだった。

「返事遅いけど、どうした?」

しまった。これじゃ私の方がスイッチの思惑通りだ。なんて場違いな考えなんだろう。
それよりもアドバイスを聞きそびれた事が何より重大だ。いやいや、やっぱりこれまで経過してしまった時間をどう誤魔化すかが一番の大問題だ。

「今、返すとこだったの!」
「ふーん。じゃあいるのか?」

へっ?と思わず間抜けた声が電話を伝って行ってしまった。それがせめて聞き返したのだと思われたなら良いものの、返ってきた声は心なしか弾んでいた。全部分かってる声だ、と反射的に思った。

「返すとこだったんなら、答えられるよな?」

これはまさか、ボッスンに嵌められた…んじゃない?冗談みたいに全身からじんわりと冷たい汗が噴き出し始める。

「返事が遅いと脈ありだっけか」
「違う違う、返事が遅いほど好きな人がいる可能性が高いだけだよ!……って何で知ってんの?」

昨日の話聞いてたからななんて、まさかまさかでそろそろ思考がショートしそうだ。いやそれじゃあ、一体いつから聞いてたのか?下手したらバレない為の回りくどさなのに、作戦実行前に全部バレてたって可笑しくない。

「メールだと感情が読み取り辛い〜とかなんとかってとこ?」

良かった。その辺からはボッスンの名前出してないよね……多分。一息の間を閉口と思ったのか、すぐにまた耳元で話が続けられる。

「さすがに自分が仕掛けた手に引っ掛かるなんてないかと思ったけど、引っ掛かってくれたみてーで良かった良かった」

からから笑うボッスンに今度は顔に熱がこもる。顔の見えない電話越しなのがせめてもの救いだ。

「まあこの場合スイッチに相談までして聞いてきた時点で脈ありって事で良いのか?」

いつもなら相手のテンポにあわせるのはボッスンの得意技なのに、今日はやけに饒舌と言うか、何となく圧迫感を感じる。ていうか聞いていたのは私のはずなのに、私はいつ主導権を渡したんだ?

「ていうか正直どうなんだよ?」
「ボッスンからかってるの?脈ありかとか、なんでそんなに聞くのよ」
「なんでって……お前だって聞いてるじゃねぇかよ」

そんなの誰彼構わず聞きたがる辺り、やっぱりボッスンて子供だ。私は言われた通りそういうちゃんとした理由がある訳で、まぁつまり図星とも言う。
とりあえずの返答は、当たり障りなく嘘にもならないけど正直でもない。捻くれてるのは承知の上だ。

「私は……ボッスンが人気者だから、好きな人とかいるのかなぁと」
「ふうん」
「ふうんって、なんでそんな感心ない風なの」

自分の事じゃん、なんて喉まで出かかった言葉は喉元に上手い事引っ掛かってくれた。
真剣な感じは出しちゃいけない、気付かれるのは嫌だ。無謀な賭けに出て勝手に撃沈してひとりで傷付きたくなんかないんだ。
だからなるべく呆れた感じの体を努めようとしていたのに。

「いや、俺は依泉の事好きだからさ」

子供のクセにどうしてこうも、人の心を掴むのが天才的に上手いんだろう。

「…………へ?」
「なんだよ、聞こえなかったのかよ?」

そう言いながらもやっぱり二度目を言ってくれる訳じゃないらしい。今頃電話の向こう側では口をわざとらしく尖らせているんだろう。

「で、依泉は何で聞いてきたんだったっけ?」

なんですかこれ。まじですかこれ。今さっきまで片想いでしかなかったのがこうも簡単に一瞬で両想いに早変わりするんだから分からない。
それにしたってもうボッスンには叶わない、やっぱり最初から全部バレてるんじゃないか。
この後の私の言葉は、まあ皆様ご想像の通りですって事で。


駆け引き割り出し

end.
‐‐‐‐‐‐
久々に夢小説らしいのを書こうとしたら、なんだかむず痒い感じになりました。似非ボッスンですねすみません。←

そしてまた題名が残念。
×−÷+ですがちょくちょく漢字が違うのは間違いじゃないです。

短編更新が何気に前回から4ヵ月振りでびっくり。←


2011.08.04.thu

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