以下書き忘れてた話。
本編に入れると都合が悪くなるので加筆。


潔癖な病室に、酷く依泉の笑顔が似合わないのは寧ろ安心できる。けれど実質問題安心してもいられないのはまだ続く不安のせいだ。

「すまん……俺のせいで」
「スミオ君が最近塞ぎ込んでたのと、関係あったりする?」

節目ていたスミオが、はっとして依泉を見る。しっかりと真剣な顔をしていた依泉も彼を見ていたらしく、ちょうど視線が交錯した。けれど依泉の視線は若干、鋭い。

「もしかして夢日記に何か書いてたんでしょ。だから避けて、だからごめんなんだ」

ドンピシャリと完璧に言い当てられてしまっては返す言葉もない。「夢日記を見せなさい」と親のような威厳を持って言った依泉に気圧されて、手に持っていた日記を素早く引っ手繰られるのに反応しきれなかった。怪我人のクセに動きが早い。とは言え普段のように内ポケットなんかに入れていたら、そうもならなかっただろうに。

「おい……ちょっと待て依泉、」
「うわぁ!なにこれ、呪い?」

内容の酷さはスミオ自身がよく分かっている。開いていたページに目を通すのを止めようとした声は遮られ、全く手遅れだったらしい。恐らくわざと大きく出した声がちょっと明るくて場違いだ。
力が抜けるようにベッド脇の丸椅子に座ったスミオに、それ以上依泉は何か言うことはなく、少しの間彼女が静かにページを捲る姿を見ているだけだった。
「ナルホドね。うん、これは避けるのも仕方ないみたい」なんてごくいつも通りの声色は、目を通し終わった後とは到底思えない。

「でも、どうして今日まで避ける必要があったのかな?」
「は?」
「だって、今日はもう誰も死なないんでしょ?」

スミオは明らかに意味が分からない顔をしている。ほら、と見せられたノートの左ページには昨日の日付で例の日記が書かれていた。右ページには、何も書かれていない。いや、ペンを持ちながら寝てしまった授業中のラクガキのような線が、薄らと残っていた。

「そんなはずは……今朝確かにペンを持っていたぞ!」
「これだけ毎日習慣だったから、クセになっちゃったとか?」

そんな馬鹿な話があるか?
正直思うのは仕方ない。勿論他のページにも何も書かれておらず、そうなるとそのふにゃりとしたラクガキが何よりの証拠だと思う他ない。

「じゃあ……誰も死なずに済んだのか?」

そうだね、と独り言のようだったスミオの言葉に依泉が静かに相槌を打つ。

「今日の事故は、やっぱりスミオ君のせいじゃないよ」

一人で長く背負い込んでいた冷戦はどうやら知らぬ間に終わってくれていたらしい。ああ良かった。これでもう元通りの日常だ。
クラスメイトも幼馴染みもお袋も、依泉ももう死んだりしたりしない。

「えっ?ちょっと、」

依泉の珍しい慌てたような声が最後に聞こえて、寝不足からか神経を張り巡らせていたせいか安心感からか、とにかく急激な眩暈と睡魔に襲われたスミオはそのまま数日深く眠り続ける事になり、依泉の退院していく姿を見る事もなかったとかどうとか。


2011.09.11.sun

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