「すまん依泉……俺のせいで」
こんな事になるんだったら、一緒にいられなくたって辛い思いをしたって自分の気持ちくらいはあの時正直に伝えるべきだった。
病院の白の中で眠る依泉を見つめながら、スミオは血の気がなく土気色をした顔で呟いていた。例え予知をなしにしたとしても、目の前で起きた事故の衝撃はあまりにも大きすぎる。
やらないで後悔するのは大嫌いだ、やって失敗するのなら後悔はどれほど薄い事か。そっと触れた指先がやけにひんやりとしている。
「好きだ、依泉」
久々の言葉だった。前は恥ずかしげもなくあれだけ毎日言っていたのに、しばらく言う習慣をなくせばこんなに重い意味を持つのかと思う。だからこそ、今じゃ誰彼構わず言う事はない。けれどだからこそ、たったひとりには何度だって言ってやるのだ。
「好きだ好きだ好きだ好きだ!だから早く目をさませっ俺も依泉が大好きだぞ!」
「知ってるよ」
不意に、澄んだ音が耳に届いた。同年代より少し幼い声は独特、その割に口調は落ち着いていて、誰と間違える事もなさそうだ。少なくとも彼に間違える余地はなかった。
「スミオ君が冗談じゃなきゃね。毎日聞かされてたんだもん」
「やっと起きたな、依泉」
起こされたんです、誰かさんに。そんな依泉の嫌味は嫌味として受け取られる事もされず流される。
種明かしをしよう。結論から言って、依泉は無事だった。外傷は見た目よりずっと軽く浅く、軽い脳震盪を起こしている事を除けば全く元気。事故に遭ったのだからさすがに入院は免れないが、それも検査入院程度である。
正直スミオはそんな事実がまだ信じられないでいた。
夢日記の予知は当たる。防衛策を立てれば別だが、さっき思い切り予知に沿う形で事故が起こった。なのに、それは当たらなかった。事実には喜びしかないが、やはり悪く考えないでいられる訳はない。何らかの理由で予知が狂ったのか…あるいはまだ、
「病人を大声で起こすなんて酷いなあ。今に看護婦さんが叱りに来ちゃうから。……あ、怪我人の間違いか」
笑いながらも、時々ほんの一瞬だが顔を歪ませたり右手が頭に向かおうとしては布団の中に戻っていく。頭を打って痛いのに、心配をかけまいとしている、という事だろうか。
むしろその方がずっと痛々しく、ずっと心配は募るのに。
「……すまん」
「確か、さっきも謝ってたね。スミオ君のせいって言った。ただのちょっとした事故で、そんな訳ないのに」
そんな訳があるかもしれない?予知は絶対かもしれない?申し訳ない?
ああ鬱陶しい!鬱々といつまで俺はこのままなんだ。いつも言ってたじゃないか、俺はコイツを嘘つき日記にしたいんだって。
スミオの中で変わった何かは、きっと色んな思いやストレスでズタズタだったものが優しさを感じて切れた糸だ。
「だから、次会った時はじっくり事情を聞かせてもらいますからそのつもりでね」
予知がどうとかこれからどうとか関係ない。もう既に我慢は限界に達している。いつまでも続く予知なんかに構ってられはしない。以前のように普通に接して、それで危険があるというなら自分が身を呈してでも守れば良いのだ。
解散!と冗談っぽく言われたので、勢い良く飛び付いてやった。いや、抱き締めた。
「もう絶対離さんからな!」
「いや、頭痛いから離してほしい」
予見者の選択
end.
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当初のメモ曰く夢主は予知通りの結末を迎えるバッドエンドの予定だったのですが、違うと思って変えてやりましたよ!(笑)
ちょっとそれっぽく書いたけど、バイクとか白い部屋とかは布石というかヒントのつもりでした。
幾つか設定が少し変わったようなネタがあるんですが、書くつもりでしたがやめておきます。
だらだら長い割に何が書きたいか意味不明に……。
その後例の予知は書かれていない。みたいなシメだと良いな。
2011.08.31.wed
→→もうちょっと続きます
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