「そうだね。今回のアリスには挨拶しときたかったのよ」
「へえ、88人目には接触ひとつしなかったのに。君ってオチコボレが好きなんだね」

ニコリと効果音つきでそんな言い方をされれば、こちらも黙っている義理はない。だってそうでしょ?それこそ落ちこぼれが好きなのはチェシャ猫の方じゃない。

「私や今回の89人目には優しいけど、歴代最高って言われてた88人目を殺したんだもの」

びっくりしちゃった、と肩をすくませて見せる。私は彼女があんまり不思議の国のアリスにお似合いだから、その間傍観しているしかできなかっただけなのに。別に妬みも嫉みもなければ敬いも感情の何もなかった。ただそれだけだった。
まあ、ひとつ言うならば私がアリスじゃなくなって、次の88人目には当て付けみたいにとびきりアリスらしい人が来たっていうのは如何なものか。少しお転婆が過ぎるとは思うけどね。

「優秀だから殺した訳じゃないんだけどなー」
「そうなの?そういう嗜好かと思ってた」

反撃半分で言ってやると、随分な言い種だねと苦笑された。それがそれ以上その話題には踏み込むなの表情だと気付いて、そこそこ仲良くさせてもらっていたと言え、やっぱり私には彼の考えは読めないんだと思った。

「それにそう言うなら君も結構特異なアリスだったよ。今までの絵に描いたような素直で流されやすいだけのアリスとは“なんとなく”違う。帽子屋さんも君の対処には“どことなく”手間取ったろうね」
「そう?普通だよ」
「そのフツウっていうの、アリスにとっての普通?それとも人としての普通?」
「意地悪だなあチェシャ猫。私もうどっちでもないわ。感情はあるからまあ人としてって答えとくけど」
「けど、そもそもそんな君が未練になるなんてね」

さっき私が言った「アリスに相応しく思えたから88人目を見守ってた」って言うのを引き合いに出されてしまった。そう、その行動は確かに未練とはまるで真逆だ。未練があって「未練」になるんだから、その未練たるアリスに執着しないで一体なんになる?っていう話なんだろうけど、現に今私は「未練」として存在している。と言う事はつまり。チェシャ猫がまるで人を小馬鹿にしたようににやりと笑う。わざわざ口元に手をあてた辺りの動作が多分帽子屋さんをイラつかせる要因だったんじゃないか、と今更になって思う。

「なんだかんだ言いつつ実は結構、アリスに執着してたりして?」
「それね、正直私も疑問だったりしたんだけどね」

答える体で口を開いた私に、猫は興味津々っぽくずいっと顔を近付けてきた。別にそんな面白い話をするわけじゃないんだけど。

「多分、私はこんな馬鹿らしいゲームに強制参加させられて、そして命を落としてハイお役目終了みたいな。そんなアリスって存在だったって事、その事実に未練があるっぽい」

未練と言うよりかは後悔とか言うべきかもしれない。「それはまた、興味深い話だね」と薄っぺらく笑った彼とはどうして今まで仲良くやってこれたのかそろそろ疑問だ。

「だってアリスじゃなければもっと自由に色々できた。友達作ったり、遊んだり。その時間を全部ゲームに費やすなんて馬鹿馬鹿しい話ないでしょう。お話に沿うだけの人生なんて誰も望んでない。そうでしょ?」
「お話?」
「白ウサギの提示したゲームの事。アリスに課せられた宿命よ。とぼけないで」
「ああ、そっか、そっちね」

そっちってどっち?とかそれ以外何があるの?とは何となく聞けなかった。聞いちゃいけない気がしたのは勘違いな方が良い。どっちにしろ追求しなければ同じ不明のままなんだけど。

「紆余曲折しても結局辿り着くのは用意された結末だけ。完成されたゲームクリアの条件と一緒だよ。選択肢すらも大まかには用意されたコマンドしかありはしないんだから」

話を進めないつもりのサイドストーリーは十人十色かもしれないけど、話を進める為のイベントは大体全部決まっているはず。
まずは名前をもらって、女王様に謁見、相棒の帽子屋さんの性格に戸惑って、情報収集の為にネムリネズミを探す。その為にまたヒントをかき集めて……。現89人目はまだ途中だけれど、前88人目も私も通った道だから間違いないだろう。

「うーん、君って良く言えば思慮深いんだろうけど。……せっかく大人しそうな顔してるのにな」
「微妙な間に失礼な空気を混ぜるのはやめてくれない?チェシャ猫」
「やだなぁ!僕はただ親切に知らなくて良い事は考える必要ナイって言ってるのさ」
「ハイハイ、貴方の無駄に意味深な発言はもう良いわよ」

どうせ教えてくれないんだから、興味を持ったって無駄なのは分かりきっているんだから。釣られてやるもんか。「ツレないなぁ」なんてブーイングに反論してやろうかと振り向いたそこでは、一瞬の内にチェシャ猫の姿が消えていた。
全方位に常時電波を張っているようなチェシャ猫が突然逃げるってことは、と考えると同時に、聞こえたのは意外な事にアリスの声だった。「アリス」にしては随分と低いと言うか太めの声だけど、今回のアリスは男性なんだから当然と言えば当然か。そちらに視線を移すと、ばっちり私と目を合わせながらアリスが人気のないままの路地を駆けてきた。

「探したぞ、アンタ!」
「え、私にご用?」

息を若干切らせたアリスにはお付きの1人もいない。いや、付き人もとい相棒は1人なんだけど。ここは未練の通り道で、アリスが1人で来ちゃいけないところ。チェシャ猫も仮にも未練の私とアリスを2人きりにするかな、と思ったけどやっぱり彼はそういう人なのも分かっていたんだった。そういえば以前私もそんな見捨てられ方を身を持って経験していた。

「俺まだ、アンタの名前聞いてねえからさ」
「……そんな事聞きにここまで?」
「…………悪いかよ」

今回のアリスはひょっとすると当時の私より馬鹿なんじゃない?だってねえ?未練の通り道に未練を追って、ありもしない未練の名前を聞くために来るだなんて。というか名前はないって言わなかったっけ。
ムスッと不服そうな顔が「アンタとの話は久々に楽しかったんだよ」となんとも嬉しい事を言ってくれる。これで笑顔だったなら最高だ。けれどここは彼の為にも鞭を持たせてもらう。

「警戒心が無さ過ぎて駄目だよアリス。貴方は帽子屋さんと行動が基本で当然でしょ?」
「四六時中あんな捻くれたのと一緒にいれるかよ!……それにアンタ、帽子屋に会いたくないっぽかったし?」

帽子屋連れてきたら逃げてたんじゃねえの?なんてそんなの当然だ。まだあの銃口を本気で向けられた事はないし、これからも勘弁願いたい。

「なあ、また今度話する約束だろ?その為にも呼ぶ名前がないと不便だからさ」
「でも、呼ばれる名前なんて私もう持ってないから」

嗚呼、私ってなんか面倒臭い奴だ。正しくは未練っていう立場が煩わしくて駄目なんだけど。

「じゃあさ、オレがつけるってのはアリ?そうだな……依泉とかどうだ!?」
「……へ?」
「うん、我ながら良いセンスじゃねえの?決まりだなっ」

今日からアンタの名前は依泉だ!と好青年宜しく歯を見せて明るく笑った顔が当面忘れられなさそうだ。何事かと思ったけれどそんなアリスに名付けられるのも悪くない。と言っても、その名前が通じるのは私とアリスの間だけなんだけど。あぁ、チェシャ猫辺りには呼ばれそうというかバレそうだ。

「じゃあ改めまして、今から依泉と名乗ります。仲良くしてね、アリス」


Are you Alice? Yes,I am Alice!

‐‐‐‐‐‐
アリス夢だったはずが、猫っぽい……。最後は無理矢理軌道修正感漂います。
というか、やけに夢主ちゃんが細かい設定着いちゃってるから猫は説明係かな(笑)
続き物じゃないと上手く纏まらないくらいの情報量というか布石とかニオイ詰め込んだ感じ……なんかもう大体邂逅しただけです。←

題名はあまり深い意味でつけたんじゃないですが、この登場人物3人中2人がどっちにも当てはめられる不思議な文。


2011.11.08.tue

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