どんっと頼もしく見せようと鎖骨の少し下辺りを叩いてみる。そうか、と短く返したシスターは笑っているような気もしたけど、やっぱりいつもの無表情にも見える。表情が掴めないってつまりこういう事かと思っていたら、同じように普段あまり表情を変えないニノが少しだけ楽しそうにしているのが見えた。

「依泉、リクと同じような事言ってるな」
「えっ……やだなぁ何それ。やめてよニノ」
「そうですよ。そんな冗談、」
「いや、マジで同じだったぞ」

リク君と私がそれぞれニノの言葉を否定しようとした時だった。

「そうだなー。特に日食グラスの下りなんか、自慢気な顔までそっくりだったぜ」

いつからいたのか、言葉を遮って現れた村長や星君達がとんでもない事を言い出した。いや、手にはちゃっかり日食グラスを持っているのでどうやら私達の方が遅かったらしい。そしてリク君の発言を知ってるという事は、割とさっきから聞いていた事になる。
村長はケタケタ、星君はニヤニヤ。完全にからかって遊ぶモードに入られている。星君は割といつもの事だけど、村長まで加わったらなんとなくタチが悪い。

「ひどいよ皆!私がこんな自意識過剰な、しかも男に似てるとか女のコになんてこと言うの!」
「節々に悪意を感じたのは気のせいじゃありませんよね!」

あぁ今そこにリク君のツッコミは不要だ。聞き捨てならないとでも言うように素早い反応だったけど、私だって何が何でも一緒にされるなんて聞き捨てならない。だって何でもできる知識も権力も財力もあるお坊ちゃんと違って、私にはこれしかないのだから。

「まあでも、依泉はカメラの事でしかそうならないからな、別に良いんじゃねえの?」

そんな気持ちを汲み取ってくれたのか、からかってきた張本人だった筈の村長が今度は助け舟を寄越してくれた。なんなのこの人。敵が星君だけになれば恐くないのでまあ助かるのは助かるんだけど。
まあ、それもそうだなと皆が納得し始めるのも、仮にも村長の人柄だろうか。
「私写真家ですから!」なんてその場に乗じて宣言するも、ちょっと言い訳臭くなってしまった。あくまでアマチュアだけど、この河川敷でだけなら誰よりも詳しいし、一応プロだ。

大切なひととき……もとい6時間の前にいやな空気は勘弁願いたい。金環日食の例で懲り懲りだ。
気を取り直すのに、ブラックドロップ絶対撮るんだぁと半ば独り言のように言いながら、角度やらの微調整をせっせと進める。

依泉がちょっとマニアックな発言を…と男性陣がふざけるようにどよめいたが、どうせマニアックと言うなら付け焼き刃みたいな天体の知識よりも、私にとって功績であるカメラの技術の方に目を奪われてもらいたいものだ。
とは言えここでまた穏やかさを取り戻した空気を壊すなんて馬鹿をする気はないので、素直で率直に、そして笑顔で「写真映えするものはなんでも好きだよ!」と言ってやる。思った通り誰もそれに巧く反応できた人はいなかった。

「うーん、もうそろそろかなー」
「なあ、そういえば依泉」

ちょっと緊張でもしているのかなんなのか、始まるまでの時間は準備で余裕なんてないかと思っていたのに、少しびっくりするくらい長く感じる。
そんな中、落ち着いた声が隣から聞こえる。可愛いけど、特別高いとかそういう訳じゃない、落ち着くニノの声だ。

「日食……金星が太陽を食っているのか?……太陽は旨いのか?」

落ち着いた声が真剣にボケた。というか今更ながら分かってなかったらしい。まず日食のとこからして違うのだから、迫りくるショーの開演時間までに伝えきれるだろうか。

「太陽の前を通過してるだけだよ。通り過ぎたらまた太陽丸く見えるし、何より太陽熱くて食べたりなんかしたら火傷じゃ済まないと思うの」
「問題は温度だけですか」

大人が子供をたしなめるように優しく優しく言ってみれば、横のリク君の方からひんやりしたツッコミがきた。まあ確かに半分ふざけていると言えばそうだけど。

「サイズとか?あと何より金星食事しない」
「はっ!太陽に近付いて、金星は大丈夫なのか?溶けないか!?」
「その時は俺が太陽を撃ち落としてくれる」
「うん。とりあえず物騒なもの仕舞ってねシスター」

ショックそうな顔でニノが真剣に金星滅亡を心配する。それに伴いシスターが出したのは今度こそ紛れもなく銃器だった。

「ニノさん、太陽と金星は地球からはぴったりくっついてるように見えるかもしれませんが、見えるだけで近くないですよ」

なんだかんだでグダグダになってしまったところで、痺れを切らしたのかリク君が真面目な回答を出した。ニノが納得した頃、ちょうど太陽の端の方が少しだけ欠け始めている事に気付いて慌てて声をあげた。

「始まったよ皆!」

ぺちゃくちゃおしゃべりしていた集団が日食グラスを添えて一斉に空を見上げる。
さあ、世紀の天体ショーのはじまりはじまり。


空を見上げて

end.
‐‐‐‐‐‐
時事ネタパート2は金星の日面通過でした。
前日までに更新するはずが全然間に合いませんでしたが、数日前から書き出したので台風の事もあって、現実の当日は見れないかな?とか思ってたのですが、台風は何処へやら。びっくりするくらい晴れでしたね!
私は望遠対策も光熱対策もせず、鑑賞できなかったのですが。晴れてるのだけ確認して満足しときました。←

けれど何が悔しいって、書いてからそういえばニノって天体詳しかったよねーと思い出した事だったりします。

あと夢主はアラちゃんネタの時にしようかとも思ったのですが、もし続き物するならこの子!な夢主の設定がカメラ小僧だったので、貴重な瞬間を是非私の代わりに写真に残してもらおうかと(笑)
結局観測始める前に終わっちゃいましたが。

2012.06.06.wed

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