:七つの大罪
:メリオダス×夢主を大前提とした、夢主の大親友ディアンヌの話。


「本日は晴天なり。これよりこの国を救った七つの大罪団長メリオダス、そして彼らを支えた依泉2人の婚姻の儀を開催する」

真っ青な空に白い雲が浮かぶ。陽の光は暖かく、風が時折頬を撫でる。
教会の中でなくそれを背景にして、青空の下で行われる挙式は他でもなく、体が大きい為に教会に入れないボクの存在が大きいだろう。巨人族のボクはただでさえ大きな体に、今日は結婚式の装いで余計に場所を取ってしまう。
リオネスでも腕利きの仕立て屋さんがオーダーメイドで作ってくれたパーティドレスは本当にボクの体ぴったりサイズで、普段自分の身につけるものを自分で造らなければならないボクにとって、それはとても特別な事だった。
羽織物の下に着たワンピースは腰に太めのリボンを巻いて前で大きく結ばれている。裾は細かなドレープがたくさんついたバルーンスカート。
可愛さが盛り込まれたデザインだけど、いつもと違うサイドテールすらも上品な仕上がりに一役買っている。

以前巨人族のボクを一般的な人間サイズにまで縮小させた胞子を持つ怪物チキン・マタンゴのエリンギ型。その胞子を手に入れて、また小さくなればこんな迷惑はかけないのだけど、数週間前捕獲の旅に出る事を告げると、そのままで居て欲しいと主役2人、特に依泉から強く止められてしまった。
これまでのどんな旅路もディアンヌが巨人族でなければ良いなんて思ったりしなかった。大切な日だからこそ、ディアンヌには普段のディアンヌでいてほしい。私の我儘に付き合ってほしい。そんな風に言われてしまうと辞めざるを得ないので、キノコ狩りはまた別の機会とする事にした。

そんな事を思い出していると、この国一番の大きな教会の大きな鐘が心地好い間隔でその音を鳴らす。騒ついていた人々が徐々に鎮まると、教会に控えていた主役2人の登場だ。
鎮まった筈のその場が思い思いの歓声や祝言の言葉で湧き上がる。負けじと声を上げて2人に大きく大きく両手を振るボクら七つの大罪団員に、振り返った2人が可笑しそうに笑い合ってから手を振り返した。

「今、此の両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり。神の定め給いし者、何人も此れを引き離す事あたわず……」

初老の牧師様はこの教会の管理者でもあったかもしれない。それだけあって紡がれる誓いの言葉は聞いていて心地好いリズムだ。だからきっと、色んな事を思い返してしまうんだろう。



「ディアンヌ!」

式のプログラムをこなした後、暫し自由になった依泉は一番にボクの元に来てくれた。外での挙式だった為、退場の時もトレーンベアラーを任されていた子ども達がいつまで持っておけば良いのか分からずのまま、長いドレスの裾を慌てて持ち上げる。

「依泉、とっても綺麗だよ!ボクも真っ白なドレス着て結婚式したいなあ」
「ありがとうディアンヌ」

くすりとお上品に笑う依泉は言葉で言い表してしまうのが少し勿体ない程、本当に綺麗だった。元々が有無を言わさぬ美人な上に今日は純白に包まれているものだから、彼女の色素の薄い肌も髪も特別美しく見える。

「でもディアンヌはとっても可愛くて愛想も良いのだから、貴女を想う人はこれからもたくさん現れるわ。だってディアンヌが気付かないだけで、今だってそんな人はいるんだもの」
「えっどこどこ!どこにいるの!?」
「それはディアンヌが気付いてあげないと」
「えー」

薔薇色に染まった依泉の頬も、目を細めた団長も、これまで見せた事の無い程素敵な微笑みで、とびきり優しくてとびきり幸せそう。
それを見た僕の心の中にふとひとつの感情が落ちてくる。それはどこか虚ろで酷く不安定、けれど振り払おうとしても消える様子はない。
大好きな2人が一緒に笑い合ってる。それは今日この瞬間からずっと続くもので、勿論ボクもそれを心の底から喜んでる。なのに今ある小さな引っかかりの存在に首を傾げてしまう。
ボクが依泉の幸せを願わない訳が無いのに。



思い返せばボクと依泉は団長よりも長い付き合いだ。

故郷である巨人族の里を出て、一人旅をはじめて間もない日の事だった。
人間の集落はやっぱりどこも体の大きな巨人族を恐れていて、食糧を分けてもらう為に町に入れば騎士団に囲まれる。林の中で眠り、自然の中から食糧を調達する。そんな事には慣れていたけど、これじゃ旅する前と変わらない。
強い夕立に降られ慌てて近くの森に逃げ込んだ頃にはボクの体はびしょ濡れで、ストレスの相乗効果もあったんだろう。体の丈夫な巨人族に珍しくその日は酷く体調を崩した。
熱に浮かされながらも回復の為何とか食糧確保に森の奥に進むと、暗がりに大きな洞窟を見つけた。透き通った紫色の水晶石がところどころ岩肌を割って覗き、奥に進む程それは増えて大きくなった。行き止まりまで来た時一際大きく見事な紫水晶があって、よく見るとその石の中には眠る人間の少女の姿が閉じ込められていた。それが依泉との初対面だった。
取り憑かれたように重い体を引きずって、そっと優しく触れた瞬間水晶は消えてしまった。代わりに伝った温度は紛れもなく少女の人肌らしい体温だった。

「ひどい熱。待ってて、今食べ物をさがしてくるから」

幼い少女は瞼を持ち上げてボクを視認するのとほとんど同時に状況を把握したように、彼女を支えるボクの右手を優しく撫でた。
その手にすっかり安心してしまったようで、唐突にボクを睡魔が襲う。

水晶石に閉じ込められていたなんて、高熱の中の幻かと思っていたけれど、後にそれをもう一度見る事になるのはもう10年と後、聖騎士から国を救う為散り散りになった仲間達を探す旅の最中の事で、分かれた時からほとんどそのままの容姿を持った依泉との久方ぶりの再会の場面となるのは先に言っておく事とする。

彼女の献身的な介助のおかげで翌朝には熱はすっかり引き、その翌日には体調も万全に動き回る事ができるようになっていた。
ボクはすっかり良くしてくれた依泉に懐いて、依泉も自分が親指程の大きさにもならないような相手に全く怯む様子もなく、当たり前のように僕らは一緒に旅をする事になった。
それからは2人で旅をして、しばらくして団長と出会った。

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