「あんた達がボクの友達に手を出そうとしたのが悪いんだい!女の子に対して数揃えて剣まで抜かないと口ごたえもできないの?」
米粒のような小さな男達に小さな切っ先を向けられている。我ら金色の麦騎士団に刃向かうとは!だなんて言っちゃってるけど、そもそも仕事中に羽目を外して依泉をナンパしてた奴らにどうこう言われる筋合いは無い。
「巨人族め!黙って聞いてりゃ良い気になりやがって」
「お前の様な化け物に男も女もあるものか!」
物言いにムッとして眉を吊り上げる。この失礼極まりない奴らにどう言い返してやろうかと考えあぐねていると、依泉がボクと男達の間に立ちはだかった。
「ディアンヌに剣を向けないで!」
「依泉だめだよ!危ないから後ろに……」
「女のくせに生意気な!巨人族なんかとつるみやがって」
案の定怒りの矛先を変えた騎士団のひとりが、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら大股で依泉に近付く。声を荒げながら、ナンパする気でいたはずのか弱い女の子の腕を気安く乱暴に掴んだ。
僕はその時依泉が「痛っ」と小さな悲鳴を上げるのを決して聞き逃さなかった。
「その汚い手を今すぐ依泉から離せ!」
一気に頭に血が昇って、たかが町の騎士団員ごとき弱い人間相手に力一杯拳を握る。依泉が止めるより早く、間に割り込んだのは通りすがりの男の子。そう、それこそが団長だった。
「男が寄ってたかって、女相手に格好悪い事するなよおっさん」
騎士団の男共を依泉より小さな体で意図も容易く蹴散らす姿には無駄がない。呆気に取られている内に男達は勝てない事を悟り、小さな少年相手に捨て台詞も吐く余裕がないまま足早に逃げ出した。ヨシ、と呟くのが聞こえて、今までずっとボク達に背中と金髪しか見せなかった男の子の顔をようやく見ることができた。
「もう大丈夫だ。怖くなかったか?」
はじめてボクを女の子扱いしてくれた男の子。この時からボクはずっと団長の事が好き。
正直なところ、本当に団長がボクの事も女の子扱いしてくれたのかは分からない。依泉がいたから纏めて女の子と言ってくれたのか、依泉だけに言ったのをボクが勝手に勘違いしたのかは今となっては確かめようもない事だから。
でもそんな事はどうだって良いんだ。ずっと一緒だったから、それ以上に大切な思い出が今は幾らでもある。それは団長の事でもあり、依泉の事でもあり、他の仲間の事でもあるけどね。
ボクは後にリオネス国の王様の命で、団長と共に七つの大罪と呼ばれる最強の7人と謳われた騎士組織を結成する事になる。依泉はその中には含まれなかったけど、ボクらと一緒に行動し、身の回りの事を積極的に何でも進んでしてくれた。
ボクは友達と一緒にいられる事が嬉しかった。団長も依泉といると楽しそうだった。他の仲間だって依泉と打ち解けるのはうんと早かった。
依泉はボクに良い子だと言うけれど、ボクはこんなにも我儘だ。けれど依泉はボクの扱いが上手いからつまらない喧嘩はあまりしなかった。
本気の喧嘩なら何度かした。ボロボロになって帰ってきたボクらを見て、キッと眉毛を吊り上げて叱りつけるんだ。最後には涙をぽろぽろ流しながら、依泉はボクを心配してばかりいた。
一緒に戦えなくてごめんねって。
守られてばかりでごめんねって。
ちっぽけな存在でごめんねって。
これからも2人は当たり前のように変わらずボクと一緒にいてくれる。2人の関係の名前が変わるだけで、ボクと2人の間で何かが変わる訳じゃない。
そんな2人が今日2人だけの約束をして、特別な2人になる。少しずつボクから離れてしまう。特別な約束はどうしたってボクは一緒にはできなくて、とってもとっても嬉しいはずなのに、なんだかとってもとっても……さみしい。
「ディアンヌ、受け取って」
「これ……?」
「メリオダスと一緒に選んだの。こんな機会じゃないと中々言えないから、聞いてね」
団長が依泉に声をかけに来て、呼びに来たのかと思えば後ろ手で持っていたものを依泉に渡す。かと思えば今度は依泉がボクに向き直り、少し眉を下げた笑顔でそれを持ち上げた。少し緊張したような、依泉にしては珍しい笑顔。
差し出されたのは黄色や橙の大輪の花の大きなブーケ。ブーケトスはもう終わったはずだ。それにこんなに元気な色合いや大きなものじゃなかった。
「貴女はいつだって優しくて、私にうんと良くしてくれた。私を旅に連れて行ってくれてありがとう。あの時私を見つけてくれたのが貴女で、本当に嬉しかったの。仲良くしてくれてありがとう。そして何より友達になってくれてありがとう。……なんだか良くあるお別れの言葉みたいになってしまったけれど、貴女の事を誰より一番の、そう。親友だと思ってる。だからどうか、これからもずっと仲良くしてね、ディアンヌ」
「そんなの……ずるいよ、ボクの台詞なのに」
じわりじわり、視界がぼやける。ボクはなんて馬鹿な事を考えていたんだろう。こんなにも2人はボクを大事に思ってくれているのに。
ディアンヌの瞳を濡らす涙は大きな雫となって地面まで流れ落ちた。けれどこれは悲哀からのものでも、嫉妬や悔しさから来るものでも無かった。
さっきまであった陰りは涙と共に流れ出たようだった。こんなにも晴々した気持ちはきっと依泉とじゃなきゃずっと知らないでいただろう。
「ボクの方こそこれからもずーっと、死んでも親友でいるから!お花ありがとう。とっても素敵」
突然泣き出したボクに慌てた2人へ隠すように顔の前でブーケを持つ。息を吸えば温かな春の日の心地好い香りが鼻をついた。
目元を豪快に拭った手付きのせいで、少し赤くなるかもしれない。けれど構わない。今は最高の笑顔で、心からの言葉を贈りたい。
「おめでとう!ふたりともっ」
本日は晴天なり
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夢主=ほとんどエリザベスな感覚ですが(いっそ成り代わり位の感覚で読んでもらった方が良いかもしれません?)、戦いが終わって大切に思っている2人が大衆に認められる中で結ばれた時、ディアンヌはこういう気持ちでいるのかなと。今回は夢主とメリオダスの関係については順風満帆が大前提の話だったので、ディアンヌと大の親友である事を表す為にメリオダスより早くに出会わせました。
ほとんど大差ない上にこの話の主役はディアンヌなので名前変換不要だったかもしれない。
宗教の概念はあえて出してないとの事なので、教会とか式の文化もどうなってるのか分かりませんが
服装も現代とあまり変わらない感覚です。
七つの大罪が世間に認められてるのだから原作よりは後の世界設定となります(執筆時11巻までの知識)。
散り散りでいた10年の空白は夢主さんどうやら紫水晶の中で時を止めて過ごしていたようです。
考え付いてから書き終わるまでひと月近くかけたんじゃないかなと思います。その間人生経験の全くない結婚式について調べました。主にディアンヌの描写として欲しかったゲストドレスやら最低限の誓いの言葉やら。ゲストドレスは見ていて楽しかったので多分かなり時間無駄にしました。
ただ書き上げた本日、高校時代からの友達からプロポーズされたよ!報告を受けたので、これもきっと偶然じゃないよね……!おめでとう!
2015.03.20.fri
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