:地縛少年花子くん
:源輝


 由緒正しき祓い屋一家の3兄弟と、由緒ある和菓子屋一家の娘こと私依泉は幼なじみである。

 家がとなり同士だったこともあり、その交流は何世代にも渡って連綿と続いているらしい。そのことからほんとうの兄弟のように育ってきた私は源家の一員でもあり、彼らは我が家の一員でもあった。

 あまりにも自然だったものだから、源家のお姫様であり、幼い長女であるてぃあらがしっかり文章を話せるようになってしばらくしたころに聞かれた、「どうして依泉ねえねは、ねんねのときはべつのおうちなの?」にはみんなとっさには答えられずに苦笑いを零した。
 おそらくこの日この時まで、てぃあらは私のことを当然のようにほんとうの姉であり、家族だと信じていたのだろう。
 忙しない親のかわりに源家次男の光と夕飯をつくって、4人でわいわい食事を共にしてからの仕事へ向かう長男輝くんのお見送り。てぃあらとお風呂に入って寝る支度を整えて、無事帰ってきた輝くんにお帰りを言ってからのばいばい。なんならてぃあらを寝かしつけようとしてそのまま寝落ちることも少なくないなか、それはたしかに当然の疑問だった。


 和菓子屋と祓い屋、一見相容れない家同士の交流が今日まで密に続いているのにはそれなりの訳がある。
 私の家には代々霊感なんてものはとくにない。さんざん昔から話に聞いていたから当然のように受け入れてはいるものの、彼らがなにと闘っているのかは正直なところ完璧には理解しきれていないだろう。

 実質的に魔のものから町を守ってくれている祓い屋一家に対して、和菓子屋一家であるこちらはご町内の人々の健康を内から守っている……らしい。
 はっきり言って根拠はないけれど、昔からあそこのお菓子を食べるとケガの治りが早くなるとか、病から回復したとかそもそもかからないだとか、長生きできるだとか、あとは受験に勝てるだとか、そういう噂がご老人がたを中心に町全体で語られ続けているのだ。
 よく考えれば眉唾物としか言いようのない話だけれど、これも幼いころからずっと聞かされて続けてきた私には疑いの余地がなかった。実際ご近所の健康状態はやけにいいし、我が家はケガの治りも早ければご先祖様にも病死はめったにいないらしい。
 けれど最近ではダイエットに効果的!だなんてウワサに尾ひれがつき始めているようで、さすがにそれは誤解を招くとウワサの収束に難儀しているらしい。そりゃあそうだ、いくらなんでも甘味を食べると痩せるだなんてそんなバカな話があるもんか。

 そうは言っても小学校も半ばのころだったか。クラスの男子に笑われたことがキッカケで、その効能を私も一度だけ疑ってしまったことがある。
 言われてみれば、たしかにふしぎな話だ。家のことを馬鹿にされたようでその男子とは喧嘩したけれど、その日の帰り道ふと我に返ったようにそう思った。
 そのことを夜に源家で話したら、光は私の気持ちに寄り添うように怒ってくれて、輝くんは私の頭をぽんぽんと2回なでて、その力は迷信でもなんでもなく本物だよと、今までぼんやりとしか知らなかった真相を教えてくれた。

 それなりに健康志向だから他の店のものよりは健康にいいとかいう次元ではなく、いい塩を使っているけどそれのおかげでもなく。
 うちの一族の人間が作ることが重要で、源家によってその効能はたしかに確信されているらしい。
 もうすこし明確に言えば、輝くんたちが闘っているような、魔のものを浄化するような効果がある。それによって怪我や病気や不運を寄せつける悪いものを退けると言うのだ。ただし、もちろんダイエット効果はない。

 仕事柄ケガの多いこの一族は、うちで作るお菓子を日常的に食すことで大ケガを免れ、濃い瘴気に晒されつづけながらも健康でいられるとかなんとか。つまりは持ちつ持たれつだそうなのだ。

 だからたかが老舗の和菓子屋といえども客足は絶えず、むしろ昨今はインターネットやSNSの発展とともに新規顧客が増えている傾向にある。
 そのためここのところとくに人手不足で、だからと言って我が家の人間以外が厨房に多く入るとその効能が薄れるらしく、血縁関係はなくとも婚姻関係なんかで身内と言えるくらいの人しか厨房を手伝えず、販売スタッフを除いて代々の少人数経営を余儀なくされている。
 現在は成人したばかりのお兄ちゃんが免許皆伝をもらおうと切磋琢磨しているのもあり、まだマシなほうではある。

 そんな現状で私はというと、源家でほとんど毎日のようにいっしょに夕食作ってる場合かって?とうぜんの疑問だけれど、それこそ私は源家の子どもたちの健康維持係のような扱いなのである。

 我が家を笑ったクラスメイトからは翌日あからさまに泣き腫らした顔で謝られた。おそらく身内にうちのお菓子のファンでもいて、彼の発言を耳にしてしまいこっぴどく叱られたのだろう。ファンは怒らせたらこわいからね。
 それまでにもなにかにつけて煽るような発言をされてはいて、たとえばテストの点に足の速さ、果ては授業で育てたホウセンカがつけた種の数だとか。
 正直めんどくさいと思っていたのが、親から言われたそのままを信じきっていた私の凝り固まった思考に喝を入れてくれたことでその日初めて見直した私に対して、あちらはその日を境にめっきり関わってこなくなってしまった。
 なんなら輝くんと一緒にいるときなんかにエンカウントすると毎回短く悲鳴をあげて逃げていく。えっこの2人なんかあったの?輝くんに聞いてみても教えてくれないから、私には知りようもない。


 ところで、光とてぃあらは呼び捨てなのに、輝くんだけをくん付けにして呼んでいるのは私にとって年上だからだ。
 輝くん、私、光の順に1学年ずつ降りていき、てぃあらとは10ほど離れている。
 昔は光といっしょに「にーに」とか呼んでいたと思うけど、いつだったか輝くん本人にその呼び方はやめるよう言われた結果、今の呼び方に落ち着いたのまではよかった。
 ただ、なぜだか光もその直後輝くんをにーにと呼ぶのをやめてしまった。光も同じことを言われたのかと思ったけど、どうやら私が呼び方を変えたのを聞いて自分から言いだしたようだ。むしろ輝くんは光からの呼び名はそのままが良かったらしく、しばらく寂しそうにしていた。
 えっ?私には自分から言っておいて?
 後にも先にも、この一件が私にとっての疑惑の始まりだった気がする。

 兄弟同然だと言っても、血の繋がった本当の兄弟とはわけが違っているわけで。フとしたときに、ああそういえば私と彼らとではすこし勝手が違ったのだと思わされるときがある。
 いちばん顕著だったのは弟妹を溺愛してどんなことでも笑顔で許してしまうような輝くんの態度が、さっきの例をとっても分かるように、私へのそれとは少しばかり違うときがあることだった。


 あるとき気がついた。
 輝くんは意地悪である。

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