輝くんにとっては生徒会長と副会長という間柄であるせいか、おなじクラスの友だちである蒼井くんと話している時なんかはやたら厳しい目を向けてくる。顔はいつでも大抵にこやかだけど、ちょくちょく目が笑ってないことを私は知っていた。
 蒼井くんは私といるとき特に輝くんからの日常的に受けているというパワハラが激化するそうだし、私もそのときにはなぜか巻き込まれる。
 お互いなんの得にもならないと教室の外ではあまり関わらないようにしたのは言うまでもない。

 裏表のない光や、幼いてぃあらが私を家族の一員として思ってくれているのは一目見れば分かる事実だ。当然私も彼らをほんとうの兄弟のように思っている。
 けれど輝くんに関しては、もしかしたら、私厄介者扱いされているのかもしれない。
 そうだ、呼び方を変えてと言われたあのころから、輝くんはずっと私とほんとうの兄弟との差別化を図っていたじゃないか。

 そんな結論に至ってしまえば、放課後向かう場所だって当然変わってくる。
 兄弟のような間柄だとも思われず、むしろ嫌われていたんだとしたら。それに気づかなかったフリをして今までどおりに足を向けられるほど、私の神経は図太くない。

 大丈夫。私がいなくたって、夕食作りなら光ひとりでもう十分にできるし、あの兄弟が私の家の迷信めいた力がなければ途端に危険に晒されることになんてなるはずがない。そもそも作ってるのお菓子じゃなくて、なんの効能もないお夕食だし。
 そうだ、輝くんからすればそれこそ、十二分に実力があるのに余計なお世話だって、バカにでもされているような気分になって、それが原因で関係が拗れたのかもしれない。
 この思考回路がさすがにこじつけであることには自分でも気がついていた。けれど輝くんから向けられる私への感情の名前は、大前提としてどうしたって変わりないのだ。

 それはコンクリートの壁にすら根を張るアイビーのように、一度芽生えてしまえばそうかんたんには拭えない。ひとつふたつと偶然か必然かを結びつけるたび、根深く、根深く表面下で成長をつづけていくのだ。気づいたときには、もう手遅れなまでに。



 生徒会は今日も学園の入り口で挨拶運動をしている。周囲の女の子たちの視線が片側に集中しているのを見れば、どちらに輝くんがいるのかは探さなくても一目瞭然だ。
 私はその反対側である右隣を歩いていた友だちとくるっと場所を入れ替えてもらって、ついでに右側の蒼井くんのほうへ寄って挨拶をする。さすがに挨拶くらいなら害がない事を分かっているので、輝くんのいる前でも蒼井くんは普段通りのようすで挨拶を交わしてくれた。
 そのまま何事もないように友だちと話しながら校舎に入ろうとしたんだけれど、どうやら輝くんは私の姿を見つけてしまったらしく、こちらを見て私の名前を呼びながら、生徒の波を掻き分けようとして失敗していた。分かりやすく頬を染めてかわいらしく挨拶をする女の子たちに捕まったのだ。学園ではしばしば王子様と呼ばれるほどの人当たりの良さで知られている彼には、それを無碍にできるはずがない。

「うわぁ……。いいの依泉?源先輩呼んでたけど」
「いいの」

 となりから同情と心配の入り混じった言葉がかけられるも、私にとってはむしろ好都合だった。
 となりで靴を履き替えている友人も、ふだんなら放課後は源家に入り浸る私が、昨日はめずらしく泊まりに行きたいと言った理由に、輝くんが絡んでいることを知っているのでどことなく遠慮がちだ。

 けれど昨日、そう言って源家の夕食作りをすっぽかした私は、家族にこっぴどく叱られた。すっぽかしたと言っても光には伝えておいたし、忙しそうな家族にもバイトのお姉さんに言伝は頼んでおいたから、ズル休みと言われようとも無断欠勤ではない。光がやけに慌てていたけど、たまには私も友だちと夜通し遊びたいのだと表向きの理由を言うといちおう納得はしてくれた。
 それでもお父さんもお母さんも、ついでにお兄ちゃんも許してはくれなかった。今日の放課後はぜったいに行け、と今朝までに再三言われてしまえば、今日は行かざるを得ない。おとなり同士ってこんなときめんどくさい。だまってサボろうなんて考えたところで、ぜったいにバレるから。
 とはいえ私も話を聞いてもらってすこしは気持ちの整理がついたので、昨日ほど気は重くない。
 なんて余裕ぶっていた今朝の私はどこへやら。



「依泉、昨日はどうしたの?」
「昨日?友だちの家にお泊まりしたけど」
「そうだったんだ。言っておいてくれてもいいのに」

 光には言っといたハズだけど、輝くんに話さなかったのかな。
 いや、とくに口止めした覚えはないから、光が言わないはずがない。もしかしたら知ったうえで、遠回しの嫌味みたいにわざわざ言ってきてるんじゃないだろうか。
 私の頭のなかにある輝くん像がどんどん陰険になっていく。這いあがる蔓みたいに、ぐねぐねぐねぐねとねじ曲がっていってしまう。それは、私の言葉もおんなじだった。

「いいじゃん。輝くん、どうせ私を兄弟だなんて思ってないでしょ?」
「うん?まあ、兄弟だとは思ってないかな」

 ほらねやっぱり。そう思う反面、やけにアッサリバッサリ切られて気持ちは落ちこまないわけがなかった。
 この男、血も涙もなければ幼なじみのよしみって配慮もしてくれないのか。

「それならべつに私が放課後どうしようと、輝くんに逐一報告する理由もないよね」
「……依泉、僕なにか怒らせるようなことしたかな」

 刺々しい物言いになっているのは自覚していた。私にとっては長年の疑念に決着がついたのでも、輝くんからしたら突拍子もないタイミングで不機嫌になっているように見えるのは仕方がない。
 でも、ここで不機嫌にならなきゃ、いったいいつ私は怒ればいいの?

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