「依泉の一族って、どうも狙われやすいんだよね。その力のせいか、代々怪異に好かれやすい……いや嫌われやすいというか。とくに子どものうちは狙われやすい傾向にある。まあ、怪異からすれば厄介な力だからね。危険因子を早めに潰しておきたいって思うのは分からないでもないけど、そう賢いやつらばかりでもないから、たぶん本能的に危険を察知するんだろうね」
「…………は?」

 ため息をつくように発されたその第一声を、私はそのまま飲みこむことはできなかった。単純に理解が追いついておらず、反応らしい反応を見送って、ようやくなんとか出した一言……いや一音は、反応とも相槌とも言えないような、そうとう間抜けなものだった。

「貴重な力の持ち主を、危険にさらすわけにいかないだろ?だから、放課後黄昏時からあとは辺りの怪異を掃討し終わるまで、なるべく安全の保証されるうちにいてもらわないと困るんだよ」

 つまりどういうこと?源家のためにおこなっていたつもりでいた家政婦的な役割は口実やおまけ程度で、じつは完全に守られていたのは私でしたってこと?
 今までだって、私が輝くんちに顔出さない放課後は迷惑かけてた?
 そんな理由があるならなおさら言っといてほしい。ただの手伝いくらいに思ってたから、たまには息抜きしたっていいじゃん、なんて思うのは仕方ないよね?ちゃんとその辺の事情知ってたら、私だってそんな偉そうに休むだの遊びに行きたいだのごちゃごちゃ言わなかったのに。

「だから依泉の言うとおり隠すことではないんだけど、知ったらきっと怖がるだろうと思って」

 それはごもっとも。
 そりゃね。そりゃ怖いよ。私には直接的に関係のない話、なんて思っていたのが、わりとドンピシャで関係ある話に今、認識がガラッと変わってしまったんだからそりゃそうに決まってる。たぶん知ってたら日々街を歩くのも気が気じゃなくなってしまっていたかもしれない。明日からどうすんの私。
 いや、でも、それなら……

「それなら、なんで遠ざけるようなこと言うの?」

 申し訳なく思う気持ち以上に強い本心がそのまま出てきたような呟きは、それでも口に出した途端勝手に正当化される。そうだ、だってそれだと話の前後がおかしい。まだ質問と回答の結びつきすらハッキリしてないのに。

「言ってること矛盾してる」

 義務だから仕方なく守ってくれてただけで、はなから仲良くする気なんてなかった、とか?なにそれさすがに泣くよ?……ごめんもう泣いてました。

「それとこれとはまったく別だよ。……僕にとって、依泉は兄弟じゃなくて、守るべき大切な人だから」
「……それはさっきも聞いたけど?」
「あはは、あいかわらず鈍いなあ」

 えっ?いま笑うとこあった?いやないよね。
 将来の貴重な魔除け菓子職人の血を絶やせないって話でしょ?ちゃんと聞いてましたけど。心配しなくてもこれからは放課後勝手な行動しないよ、だって怖いもん。まあ輝くんの気持ち如何では、今後光にひっついて行動することになりそうだけど。

「んー……。言葉でもいままでの行動でも伝わらないなら、これ以上誤解を招かないようもっと分かりやすく行動に示すしかないよね」

 え、怖い。分かりやすい行動って、なにするつもり?
 にっこり笑顔で近づいてくる輝くんに、まずい煽りかたをしてしまったんじゃないかといまさら後悔が押し寄せて、血の気が引く感覚を味わう。蒼井くんへのパワハラの余波だなんて比べ物にならないことを企んでやしないだろうか。さすがにキャリングバッグに手をかけてはいないけど、私そこまで嫌われてたんだろうか。
 伸びてきた利き手に不安になってまたぎゅうっと目を瞑ると、その手が私の顎を掴んで上を向かされる。事案の予感しかない。いや、そんなまさか。学園の王子の名声どこいった。

「うちのお姫様がさ、たぶん嫉妬すると思うから」

 いきなりなんの話?すぐそばから降ってきた声がいつも以上に穏やかで、その話の内容もこの場の雰囲気にあまりに不釣り合いで思わず瞼をひらくと、そこには輝くんの鮮やかな空色の瞳が長い睫毛の縁取りの奥からこちらを見つめていた。それもものすごく至近距離だ。パーソナルスペースだとか、そういう次元の話じゃない。兄弟どうこうといっても、ここまで近いことってそうそうない。
 と思っていたのも束の間、輝くんの顔が私の口元にほんの数瞬ぶつかった。
 え?ぶつかったと言うより、今のって…………は?
 混乱のうちに顎を捕らえていた輝くんの手が、頬を遡るように移動してサイドの髪を撫でた。そうかと思えば引っ込められた手を無意識に目で追っていると、近すぎてさっきは見えなかった輝くんの表情が、今は視界いっぱいに映っていることに気がついた。
 それは妹を愛しむときのあの目と同じ――いや、熱っぽい視線はそれ以上のなにかを訴えていて、いつも通りのはずの笑みはずいぶんと艶やかに感じられた。
 その整った顔の前、唇に触れるか触れないかのところに、人差し指が立てられる。

「僕たちふたりの秘密だからね」

 いつもの優しい笑みに、私の反応を覗くべく腰を落としたその姿勢に、蛍光灯の下でも輝く暖かみのある黄金の髪に、絡めとられたみたいに目が離せない。
 いま輝くんにされたこと、その意味を理解できないほどまでさすがに私は大馬鹿者ではないのだ。自分の感情の正しい名前も今のいままで知らずにいたので、馬鹿ではないとはもう言えないけれど。
 急速に心臓の鼓動が速まったのはたぶん、輝くんの言うところの“誤解”がようやく解けたからに違いない。

「私輝くんに……き、嫌われてる理由を聞いてたはず、なんだけど」
「はは、依泉が嫌いだなんてウソをついた覚えはないなあ」
「言われたわけじゃないけど!でも態度がそうだったの!ずっと!」

 今、行動で示したのとおなじように、嫌い嫌いって、ずっと態度で示しているんだと思ってた。
 でも、嫌いって言うと、ウソになるんだ。ほんとの気持ちを誤解がないよう、態度で示したらそうなるんだ。ふうん。
 それなら、まあ……いままでさんざん悩まされてきたこと、水に流してあげてもいっかな。

「私たちだけの秘密にしといてあげてもいーよ。お姫さまには早すぎるからね」

 ちょっとした意趣返しのつもりだったけど、輝くんはそれでも満足げに笑った。それがなんだかくすぐったい。
 誤解も解けたみたいだし、そろそろ帰ろうか、と差しだされた手をとる。昔したみたいな引っ張るような手繋ぎじゃなくて、それはしっかりと……いやちゃっかりと?恋人繋ぎになっていた。


 アイビーレイニー・クロージングナイト

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 私は花子くん(&寧々ちゃん)派です!安定の主人公推しですが、花子くん界魅力あるキャラ多すぎ問題。
 ふと頭に出てきたので書いてみたのですが、浮かんだものを書き起こしてたら、源兄いい性格してるな?嫌いじゃないぞ?ってメキメキ順位を上げていってしまった結果、いつのまにか私のなかでトップ争いに乗りだす存在になっていました。
 たまにこんな感じで自滅するのやめたい。

 設定が連載か?ってくらい盛り盛りすぎて短編として書きあげていいのコレ?と自問自答してるうちにじつは8割ほど書いた段階で3年くらい放置していたのですが(ここ数年そういうのがたくさんある)、連載版みたいなのも書きつつジャンルもあっちこっちしつつなんとか書ききる決心をしました。

 源兄はけっして奥手なわけじゃないけど、紆余曲折を楽しんでるというか、恋愛に関してはめんどくさそうだな。でも離れるのはぜったい許してくれないんだろうなっていう妄想でした。

2024.06.02.sun

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