:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉


「ねえ依泉ちゃん。袋叩きってなあに?」

ツナはいつも私に何かを聞いてくる。ちっさな時からそれはもうとにかく何でも。
一時はテレビの特に昼ドラに感化されたのか、殺人やら犯人やら愛人やら。それから麻薬に銃にナイフ、そんなものを聞いてくるものだから私は「そんなの知らなくても良い事だよ」と答えた。
するとうるさい程に執拗に聞いてくるツナはその質問をピタリと止めるのだ。そういう時は不思議な事に他の誰より私の言葉を聞き入れてくれて、それが何だか誇らしくもあった。
また、一度答えた事はこれまで二度聞かれた覚えはないから、きちんと記憶もしていると思う。

こうして親だけでなく同い年の私にすら甘く緩く育てられたツナは、知識の一部分が著しく欠落してしまっていた。
それは幼い頃私が知らなくて良いと言った類いのもので、それ以外は知識も感覚も至って普通だったものだから、誰もツナをおかしいとか無知とか言う人は愚か、気付く人もいなかった。


「ねえ依泉ちゃん。恋ってなに?」
「また、それ?」

小学校6年生となった私達は、それでもまだ一緒にいた。人生のほとんどをツナと過ごしているんじゃないかと思う程だった。
それでもまだツナの質問癖は直っていなかった。いや誰も指摘してないのも悪かったし、私もそろそろ答えるのが面倒なお年頃である。

ねぇツナ、そんなに毎日疑問疑問の嵐なら、私に聞かないで自分で調べた方が良いよ。
というか少しは自分で調べて調べる手間を覚えて、辞書なら私のだって貸してあげるから。知りたいなら自分の手間は惜しまず、人にかける手間を考えて。

それからツナは度々私の部屋から辞書を借りて、代わりに二度と私にそういう質問をしなくなった。
自分で言っておきながら無性に寂しくなって、毎日のように辞書を借りに来るツナを見るのが嫌で入学祝に与えられたその辞書をあげてしまった。

また季節が移ろって、遂に私達は少しだけ大人の中学生となった。
いつの間にかツナは私を呼び捨てで呼ぶようになっていて、質問の代わりの辞書の代わりに今は宿題の為に私の家へとやって来るツナは結局今でも教えて君だ。

それが変わったのは入学から一月と経った頃ある人物が訪れ、変えられた事によってだった。


「ちゃおっス。俺はリボーンだ」
「はぁ……リボーン。オレに何か用?」
「俺はお前のカテキョーだ。お前はイタリアンマフィア最強の、ボンゴレファミリーのボスになるんだぞ」
「マフィア?マフィアなんてオレ知らないよ。そういうのは知らなくて良いって依泉が言ったんだから」
「依泉?何だそれ。ちょっとそいつ呼んでこい」



「……そんなんで私はわざわざ呼ばれたの?」

うん、ごめんね。と謝るツナはへらりと笑う。謝る気がないのか状況を理解してないかと言えば勿論後者だろうけど、解る私は見知らぬ小さな赤ん坊の言葉に動揺を隠せなかった。
それでもまだ何も起こっていない私達は実感すら持てず、この男の子の登場で未来が動くなんて考えもしなかった。

「こいつが親切にものを教えてやろうとしてんのに聞く耳持たねぇんだ。依泉は教えなかったから知らなくて良いってな。どういう教育しやがった?」

私がツナに言った「知らなくて良いこと」。皮肉な事にその全部がこれから、誰よりツナに関係してきてしまうなんて。

そんな後悔は勿論後の祭、覆水盆に帰らずというもので。色濃い中学時代はそれでもあっという間に過ぎ去った。
その間変化した事といえば身長だったり友達と恋愛がどうとかを話すようになった事、ツナと話す機会が減った事、それから進路指導が慌ただしくなった事くらいだと、思っていたけれど。

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