“今日は1人でいたい”
10代目がそうおっしゃるならと、元気の無さに心配はしたがボスのお言葉は絶対だ。10代目の側にいられないとあれば俺の役目は何もない。俺は間もなく学校を早退した。
そして夕方、買い出しにでも行こうと軒を連ねる住宅街を歩き始めて数分と経った頃。下校途中らしく制服を着たまま進行方向から現れた雨澪の姿に息を呑んだ。
足取りが暗い。表情がない。俺が不審に思うまでそう時間はかからなかった。
駆け寄り名前を呼べばその肩が大袈裟に揺れる。大丈夫かと聞くもまるで昼間の10代目とそっくりに心の無い笑顔で平気だと言う。
「どこが大丈夫なんだよ、顔真っ青じゃねぇか!」
「あのさ獄寺君。つかぬことを聞くようでアレなんだけど……」
「……なんだよ?」
突然口を開いた雨澪は、言い辛そうにではあったが突拍子もない事を言ってきた。
どうしてそんな事をなんて予想がつくはずはなく、好きな人っている?と聞かれた言葉に不覚にも顔の温度が上がった気がした。答えを促され咄嗟に答えた解答は何故か全くの嘘で。いないと答えてしまったが、本当はいる。
目の前に、など言える訳もない。どうやら一目惚れだったらしい俺は、しかしその時点で雨澪が野球バカの野郎を見ている事にも気付いていた。
そうとは知らず笑った雨澪は、どうしてその答えに安堵したのか。
「…………」
結局近くの公園のベンチに腰を下ろす事となった俺は、雨澪の優れない顔色の原因をようやく聞く事ができた。しかしそれは想像以上に大変な事態で、まさか周囲の人間ほとんどが関わっていたなど誰が予想できたというのか。
10代目の告白、笹川の頼み、そして野球バカの頼み。俺には計り知れない程の苦しみを、このたった2日間で雨澪は感じていたんだろう。
今更になって気付いたのは、さっき突然話の切り換えをされた疑問。俺に好きな奴はいるかと、そう聞いた雨澪はこれ以上の苦しみから逃れる為だったのだ。俺が肯定をしていたらどうなっていただろうか。
少なくともこの事態が治まるまで、俺の気持ちは奥底に仕舞っておこう。そう固く決心をしようとも、やはり考えてしまう。
どうして雨澪が想うのは10代目でも……あまつさえオレでもなかったのか。あいつでさえ無ければ雨澪だけでも救われていただろうに。
そんな風に思う俺はどうやら隙だらけだったらしい。この光景をあの方が見ていた事など微塵も気付く事はなかった。
堂々巡りを繰り返すメビウスの輪に、この時既に俺も組み込まれていたのかもしれない。それすら俺はまだ気付いていなかったのだが。
ピース+ピース=はまっていく
恐ろしく奇妙なこの関係は、恋をすれども一匹狼の彼には理解が難し過ぎるだろう。
「ねぇ京子ちゃん。オレは依泉が好きなんだ」
「ツナ君……?」
「オレと依泉が両想いになるよう、協力してくれないかな?」
ほら、また一つ犠牲が生まれた。
執筆2007.11.11.sun
加筆2009.05.22.fri
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