『こそあど言葉』
黒曜編から未来まで平凡と非凡の混合したギャグ→ドシリアス
:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉

【完結済】
1:この日のヒーロー誕生説
2:その日の参入者
3:あの日の小さな小さな決意
4:どの日の記憶と決別




此処数日間と言った短期の間に、並盛町ではひとつの情報がまことしやかに囁かれていた。
今朝もそれは同じであり、女子中生達が朝から道中暗い話をしている理由こそ、その噂のせいだった。

「最近並中生が何人も襲われてるんだって!」

知ってる?と話題を持ち出した一人に対し、複数人から怖いだのと反応が帰ってくる。彼女達はその制服からして名門のとある女子校の生徒である。公立の中学校へ行っていれば、話題にある並盛中学校へと入学していた事だろう。
少し事情を知っているらしい一人は、不良同士の喧嘩ではないかと問う。しかしそれは残念ながら今朝入った情報に一蹴されてしまう。
今日の明け方、一般の生徒が病院に搬送されたのだと。

「暫く並中生には近付かない方が良いんじゃない?」

それが彼女達なりの決断であり、賢い選択でもあった。



時を同じくして。周囲が物騒な話で持ちきりになっている等とは露知らず、今日も今日とて平常通り学校へと歩を進めるのは私、依泉である。

肩にかけている渦中の並中の指定鞄から、前触れなく小さな振動……もといバイブ音が伝わり、ピタリと足の動きを止める。画面を覗くとどうやら電話らしく、しかしその相手は覚えのない番号だった。
中学生ではまだ携帯電話なるものを所持していない友人は少なくない。誰がどこからかけてくるかなんて分からないので、私はあまり考える事なく通話ボタンに手を伸ばした。

「依泉ちゃん!」

ビンゴ。読みは見事的中し、機械を通し聞こえた声は仲良しグループの一人、沢田綱吉のものだった。

「た……大変なんだよ!」

いつも穏やかであるはずの彼の声は、何か焦っているらしく荒々しい。その必死さに少し身構えつつも、次の言葉を促す。

「お兄さんが並盛の歯が病院に襲われた!」

緊張感が台無しだと言ってやるのは流石にやめておこうか。
歯が病院に襲われた?確かに大変だけど絶対違うよね。そんな事を頭の隅で考える。どうやら余程気が動転してしまっているらしい。

「とりあえず落ち着こう、ツナ」

落ち着かせようとするのは成功したらしく、少しの間を置いて聞こえた声は少しだけいつもの声色に戻っていた。けれど電話越しに話された内容は、今度こそ私に余裕なんてものをなくさせるものだった。

「お兄さんが今朝、誰かに襲われて病院に運ばれたって!」
「……笹川先輩が?」

ガツンと冷静でいた先程までの自分を咎められた気がした。上手く働かない脳を無理矢理に回転させる。
笹川先輩は気の良い人で、よく私の所属する陸上部に乱入しては張り合ってきたりと私の良き運動仲間だ。先輩が強いのは十分承知のはずなのに……襲われて病院送りなんて、嘘みたいだ。


「並盛病院にいるから!」
「っ分かった!今から行く」

プツッと小さな音がして通話が終了し、同時に私は走り出す。そういえば最近噂になっている並中生連続奇襲事件、まさかそれと関係でもあるのだろうか?そうだとしたら先輩に落ち度は微塵もないんじゃないか!
勝手な仮説に腹を立てていた私は急いでいる事もあって、こんな時間に並盛にいる筈もない黒曜生が前方からやって来ている事など塵ほど気にかけてはいなかった。だが。

「っ!」

嫌に響く靴音が何故か気になり、顔を上げると黒曜生と視線が合致してしまう。それだけのはずが、氷のように冷たい表情をしていたそれに全身が悪寒を覚えた。
双方で違う色をした瞳に、青白いとも言える程に白い肌。後頭部だけが跳ねた特徴的な髪型すらも、全てが彼を異質に見立てて危険信号が止まらない。なのに私の足は段々と速度を落とし、いつの間にか走る事をやめていた。

そういえば黒曜中は不良の集まりで有名と聞く。朝から並盛を彷徨く黒曜生……それだけで今回の騒動と結びつけるのは考え過ぎか。どっちにしろ関わりたくはない。そうそう、病院へも急がないと。
少し速度を回復させた私と対照に、もう目前に迫った黒曜生の足はピタリと止まった。

心臓の音が少し耳障りだけど気にせず、冷静になって。相手など関係ない、通り過ぎちゃえば良いんだから……――

「クフフ……君は並中生ですね」
「え?……っつ!」


ちょうど隣を横切る瞬間、彼は不気味な笑みを溢した。何処から出したのか先程まで空だった手に三股の槍を持ち、それで私の腕に攻撃をした。長袖のブラウスが破けてしまい間もなく血が滲み出したが、幸い傷は浅いよう。そんな事より恐ろしいのは、通り際に平然とこんな事をした本人だ。

『その身体、少し利用させてもらいますよ』


脳内に直接届くように響いた声はさっきのものと同じ。反射的に振り返れば、彼は既に遠く歩き去っていた。
一体今のは何だったのか。それだけで片付ける訳にはいかないが、寝覚めの悪さはどうにもならない。
放心状態だった私は思わぬ出来事に一瞬思考から飛んでいた目的を思い出し、再び並盛病院への道のりを急いだのだった。

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