まだざわつきのある教室で、私は明らかに困り顔をするツナの顔を睨んでいた。それはある日の放課後の事……と言えば抽象的だが、例の被告人六道骸による並中生奇襲事件から1月程が経った頃である。
あれからというもの警戒心でも強まったのか、私は例え微々たるものでも殺気などの類いに敏感になっていた。分かりやすい例が獄寺の睨みだ。
そしてこれも、その時の後遺症のひとつだろう。人の怪我にまで過敏になってしまうのは。

「ねぇ、そろそろ本当の事話してよ」

ツナも笹川先輩も獄寺も山本も、この頃みんな様子がおかしい。学校を頻繁に休むようになったのも、身体中にバンソーコー貼ってるのも、私にとっちゃ気が気じゃない。先輩に聞けど「相撲大会」の一点張り。
1日1人が大怪我する相撲大会なんてあって良い訳がない。

「えっとその……大丈夫、だからさ」

いつもそれだ。怪我なんて作ってきて、聞けば笑って誤魔化される。これほど悔しい事はない。
そんなの答えになってないとツナに訴えても、当の本人はごめんと謝るだけで説明する気はないよう。

「でも、何でもないから」

ツナは自分の怪我には相変わらずな私が、あれから人の怪我に過敏になってる事くらい知ってる。それでも教えてくれないクセして、何でもない訳がないのに。

「……私が、仲間じゃないから?」
「え?」

ふと考えてしまった。もしあの時リボーン君の言う「ボンゴレファミリー」という輪にでも入っていれば聞けたろうかと。
それとも、興味本位で首を突っ込んだとでも思ってる?私には心配する資格すらないの?友達を心配するのは迷惑な事?

「……分かった」
「え……、」
「皆がそういう考えなら、私だって勝手にするから!」
「ちょ……っ依泉ちゃん!?」

言葉を吐き捨てた後、呼び声も聞かず私はグラウンドまで全力疾走してやった。ツナの呆然とした表情が目に浮かぶ。
何も教えてくれないのはツナなのに、そっちの話は聞けだなんて虫が良すぎるでしょ?もう聞かない。勝手にする。見てるだけなんて真っ平ごめんだ。皆だって勿論、それを承知の上での隠し事でしょ?私を怒らせたらどうなるか思い知れば良い。
黙ってちゃ、何も伝わらないんだから。



その翌日、学校欠席を覚悟で早朝から沢田宅前を張り込んでいた私の読みは当たった。
いつも見る姿と違う私服を纏った少年と赤ん坊は、学校へ行くには早すぎる時間帯に行動を開始した。
尾行と言う名の調査をする私が着いた先は勿論並中なんかではなく、あまり足を踏み入れた事のない山の中。

「……な、んで」

そんな中未処理の現状を呆然と見ているだけの私は、彼らにバレないようにと小さく呟くしかできない。
ずっと不思議だった事がある。深く疑問にはしなかったけど、どうしてダメツナと言われるような彼が先輩達を滅多打ちにした相手に勝てたのか。

「ねぇ、ツナ……だよね?」

コソコソと姿を隠したままの私のその言葉は誰に届く事なく風の音にかき消された。先程まで“ツナ”だった彼は今、別人のようなオーラを放っている。堂々たる姿勢、視線。
あのツナは、『強い』。
あの額や手に宿る炎は何?あの、強い瞳は?人ってこうも変わるものなの?

「そうだよリボーン!」

静かだったそこに、ツナの非難にも近い叫びが響く。
(あれ……?)
そのツナには先程までの雰囲気はおろか炎さえ見えない。いつも通りだ。まさか、私は何か見間違えてたろうか?

そんな風に考え込んだのがいけなかった。気付くとツナはひとり山を降りようと移動していて、リボーン君達に見つからないよう細心の注意を払いながら後を追うのは難しい。というか無理だった。

「つ、ツナー……どこ行ったの?」

完璧に見失ってしまったらしい。ついでに道にも迷った。何なんだ、今日は厄日か。私こんなドジ踏むキャラだっけ?
暫くの間右往左往していた私はとにかく下れば良いんだと思い立ちようやく並盛に帰る事ができた。その頃にはすっかり陽も暮れて、意気消沈してとぼとぼと虚しく帰路につくしかなかった。



「はぁー……」

それからしばらく。どっぷりと闇に浸かった空を自室の窓から見て、惜しみも無く大きな溜め息を吐いてみたが、一向に気分は絶不調。私ってば今日何の為に学校休んでまで尾行続けてたんだろう。お母さんにもバレて怒られたし。迷子で全部台無しとか情けないにも程がある。

「……ん?」

空に向いていた目線がふいと下を向く。すると偶然か、目に映ったのは笹川先輩・山本・獄寺。珍しい。この3人がセットで何処かに行こうとしてるなんて。それもこんな時間に。……怪しい。
私は玄関まで駆け出し靴を素早く履いて後を追いかけた。そうして辿り着いた先は……

「並中……」

なんでなんで、どうして。夜に学校に入るなんて正気?もし雲雀さんにバレでもしたら只で済まないんじゃない?そんな事を頭で考えながらも、もう校門が開放されている理由など疑問にする事すらなくふらりと並中の門を跨ぐ。

「さっさと歩けこのブス!」

ふと聞こえた声に咄嗟に身を隠す。すると近付いてきたその3人は当然のように並中の門をくぐった。

「ほんとノロマだびょん!あーお前見てるとイライラする!」
「……ごめん」

それは黒曜生だった。どうして並中に?それにあの女の子どこかで……?考え込みそうになったところでまた見失っちゃ堪らないと足を進めようとしたが、そこでまた不運な事に新たな人影が現れ、私の動きは止められた。

「見物料はちゃんと振り込んでくれたろうね」
「うししっ。んなの払う訳ないじゃん」

「……な、に?」

この人達は……?同じように黒ずくめを着こなす彼らは一人一人も実にユニークだが、それよりもその威圧感に圧倒されて声が掠れた。無意識の内に身体は強張り、腰が抜ける。
恐い。恐い。恐い。

1 / 2 | |

|


OOPARTS