気迫負けした。
そう気付いた時にはようやく緊張も解けていて、何とか立ち上がり歩き出す頃にはどれほどの時間が経っていただろう。唯一灯りのついている体育館に気付き、中を覗けば。
「くらい……た方がい……ねぇ」
あれ?この声って……
どこか聞き覚えがある声。嫌な予感がするのに、体育館の中心に佇む人を目に映し、確認できるまでじっと凝視していた自分は今日一番の失態を犯した事に数秒後気付く事となる。
「乗っ取……都合がいいからですよ……沢田綱吉」
あの頭、あの雰囲気……間違いない。ひきつった喉ではうまく呂律が回ってくれず、何も言い表せすらしない。けれどその音量は屋内にいる彼らにも聞こえるほどだったらしく、いち早く気付いたらしいツナの視線が私を捉えた。
「え?…………依泉ちゃん!?」
「なっ、何でテメェ……!」
続いて見知った横顔が全てこちらに集中するも、ただひとり印象的な後ろ姿から目が離せず私は固まってしまっていた。こんな事あり得ない。何だってこんな状況ができるのだ。
何で、どうして、ここに……
「六道骸がいるのォオ!?」
ようやく取り戻した声で精一杯存在を拒否するように叫べば、その人物はゆっくりとした動作でこちらを向いて、その顔に笑みを浮かべた。
おや、お久し振りです。なんてさも当たり前のように挨拶をされる。
「ぎゃぁああ寄るな!」
「おや、侵害ですね」
僕が何か叫ばれるような事をしましたか?といった六道この野郎はふざけているに違いない。しらばっくれていると言うべきか。私に見事トラウマを植え付けといて、全くふざけるのも大概にしろ。
「クフフ……トラウマ、ですか」
あぁ、あぁ、そうだ。その笑い方。思い出しちゃったよあの時の事。頼むから黙ってくれ、今なら意図的に蕁麻疹でもなんでも出せそうだ。まさか、今日の失態の数々はこの事へ身体が拒否反応示してたとか?いや、いくら何でも私はそこまですごい直感を持ち合わせてはいない。
「少々……疲れました」
そんな大層失礼な事を考えていると、六道骸の身体が突然傾いていった。この娘を……そう言い残しどさっと大きな音を立てて崩れた身体は六道骸のものでなく、かなり改造されてはいるものの、黒曜中の制服を纏った少女のものだった。それもさっき、門前で目にした子だ。
どうやら眠っているらしい黒曜中の少女を皆が運び出し、先程までいた筈の黒ずくめの奴らと変わった目隠しをつけた色黒女性は意味不明な事を話した後出ていった。静けさが戻った体育館に私は突っ立ったままで。それが解けたのはツナが遠慮がちに声をかけてからだった。
「……ねぇ、どういう事?六道骸は?あの子どうして……?」
「その……、」
言おうかどうか迷っているんだろう。ツナは落ち着きなく視線をうろうろさせて口篭る。けど今の私にそんな事は通用しない。教えてもらわなきゃ気が済まない。頼むからちゃんと教えてよ。もう仲間外れは嫌だ。
「じゃあ全部話してやる」
そう言ったのはツナでも、勿論先輩でもなく。足元にやってきたリボーン君だった。彼は交換条件をだした。ツナの声なんか全く聞かず、出した条件はただひとつ。ボンゴレファミリーに入れ。
「良いよ」
「依泉ちゃん!?」
ツナが驚いたような声で私の名を呼ぶ。目があったのは久々な気がした。
大丈夫だよ、ツナ。元々そのつもりだったから。安心させる為に言った言葉でツナが納得する事はなかったけれど、代わりにリボーン君は満足そうに頷いた。あのニヤリと妖しい笑みと共に。
本日、私には仲間ができました。
その日の参入者
それからツナ宅で聞いた話は、私の思考を遥かに越えたそれは壮大なものだった。
近頃の騒動はボンゴレファミリーの後継者争いで、六道も何らかの理由でツナ側…守護者として参戦。けれど前の騒ぎで獄中にいる奴は代わりにさっきの女の子、クローム髑髏を送り込んだ。六道は彼女の身体を媒体にし実体化して戦っていたらしい。
……この辺りは難しくて今一理解出来なかった。ツナもちんぷんかんぷんらしく私と同じように顔を引きつらせていた。それで良いのかボス。
それからあの雲雀さんも守護者の一員だとか、リボーン君がただの赤ん坊じゃなかった事とかには少なからず驚かされた。
実の所その話の重さに私の頭はとっくに重量オーバーを起こしていて、分かったかと聞かれたらはっきり頷く事はできない。だけどまぁ、おおよその把握はできた。心につっかかっていたもやだって解けた。
それならボンゴレファミリーとやらに入った私が考える事はひとつ。つまりあれだ。
「私はツナの部下として頑張れば良いんだね!」
「頑張らなくて良いから!」
ていうかオレまだボスになるなんて一言も言ってない!なんて言うツナは聞き分けがない。ツナの為に皆が頑張ってくれてるというのに。
頭を抱えたツナを置いてリボーン君はひとつ強制の提案をする。「入ファミリー祝いだ」とどうやら明日から闘いの指導をしてくれるらしい。どうせツナの修行は暫く見てるだけだからと笑んだリボーン君は大層教育熱心な家庭教師だ。
物騒極まりない会話をして、もう目なんて逸らせない所まで踏み込んでしまったにも関わらず、私の気持ちはむしろ晴れ晴れとしている。マフィアがなんだ。暗殺部隊がなんだ。今の私は無敵なんだ。何でも受けて立ってやる。その位の心持ちがこの時ようやく戻ってきたのだ。
……実際に衝突しようものなら秒殺は確実だろうけど。
先ずはリボーン君のお誘いに受けて立とうじゃないか。
「やった。宜しくお願いします!」
「ちょっとー!」
執筆2008.08.23.sat
加筆2009.07.20.mon
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