「…………だめ、だ……っ」

少し立ち止まって、切れかけていた呼吸を整える。空は真っ赤でもうすぐに日が沈む。
いくら躍起になって頑張ろうとも、昼間からずっと走り回っているともなると、体力が消耗されるどころか段々と意気消沈すらし始める。小さく、少しだけ、今なら弱音を吐いても許されるだろうか。

(私はまた置いてかれたのかなぁ。)


「おい!」
「依泉っ!」
「……え」

とぼとぼと歩き始めた時、聞き慣れた音にさっきまでと変わってようやく少し安堵する。この声は…

「どこ行ってたんだよ獄寺、山も……と?」

振り返った先にいたのは黒いスーツにその身を包んだ、獄寺と山本「似」の男達。
誰?無意識の内に口ずさんでいた台詞に整っていた目の前の2人が間抜けな顔でリアクションする。
俺だよ俺!って言葉はオレオレ詐欺と取れば良いかな。そんな事を考えていればそれを感じ取られてしまったのか、呆れたようなツッコミを返された。何なのアンタ。

「はははっ!10年後の山本だよ、こいつは獄寺な」
「確かに似てるけど……」

いいやそんな事はどうだって良いと顔を引き締めるのは結構だけど、私としては全く良くない。それが証明できなきゃただの不審者でしょ。

「それよりお前、勝手な勘違いで自暴自棄になったりしてんじゃねぇだろうな?」
「は?」

10代目は偉大で、心の誰より広いお方だ。他の奴らだってお前を追い出そうとする奴なんて、ボンゴレには一人としていないんだ。よ……っく覚えときやがれ!

「…………はぁ?」

いきなり真面目な顔したと思えば何言ってんだコイツ、と視線で訴えてみれば相変わらずのタコ頭の間で青筋が少し増えた気がするのは気のせいという事にしておこう。この10代目バカっぷりは本物かもしれない。中々演技でできるものでもないと思われるけど……罠かもしれない。

「あのさぁ、そもそも君達が本物の山本と獄寺なんて、私まだ認めてないし?」
「んなっ、てめ……!」
「はは……頑固な」

当然だ。そんな今更ひょっこり現れといて信じる訳がない。だって皆は、10年バズーカで行方不明でしょ?

「それは10年後にもういない人だけ…………あ」
「……なんて?」

その瞬間さっきまでの空気は一変、気持ち的には大気が全部凍りついたようだ。だって今、自称10年後の山本は、信じられない言葉を口にした。
10年後にいない?それは死んだって意味?誰が?行方不明の皆が?

「依泉。その、」
「ツナやリボーン君や、京子ちゃん達も?」
「違う!笹川達は生きて……ッ」

京子ちゃん達は無事?今生きてるって言おうとしたよね?じゃあリボーン君は?ツナは?

「ツナがしんだ……」
「「!」」
「そうなの?」

どうして否定しないの?
山本、そんな暗い顔作っちゃってさ、持ち前の天然はどこ行ったの?
獄寺、ツナが死んだなんて性質悪い嘘なんてついてて良いの?右腕なんでしょ?

「……うそだ」

ねぇ、何で黙ってんの?

「うそだ」

早く否定しなよ。

「うそだよ」

我らがボスさんが困っちゃうよ。


「ツナがいなくなっちゃうなんて、そんな訳ない!」

引き締められた表情は真剣そのもので、その場の空気に耐えきれなかった私は脇目も振らずに走りだした。

10年後?そんなの嘘だ。だってまだ24歳じゃん。そんな短い人生、あの平凡でいたがってたツナが送る訳ないでしょ?リボーン君だってそう。いくらヒットマンって言ってもそんな……しぬだなんて。
おかしいじゃない。だってさ、ホラ。「最強」なんでしょ?そんな簡単に死んじゃうの?

「……帰ってきてよ、早く」

そしたら全部笑い飛ばせるのに。皆がいなくなった事も、10年後の2人の事も、リフレインする悪夢も。
考えていく内足が自然と速度を落としいつしか止まって、胸奥から来る気持ち悪さに道端でうずくまった。膝に水滴が落ちてきて、雨でも降るのかと見上げた空は憎らしい位の快晴。

ねぇ皆。ひとりは辛いよ。どうしていつも、私は置いてけぼりなんだろう。
そこでようやくさっきの水は己の涙だった事に気付いた私は、ひとつの決心を胸に固めた。そうだ。最初からそうしてれば良かったんだ。

「バイバイ、ボンゴレファミリー。」


あの日の小さな小さな決意

‐‐‐‐‐‐
なんか、暗ーくなってしまった……けど次ももっと暗い話になっちゃいます。反省。

執筆2008.11.03.mon
加筆2009.07.20.mon

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