『ウルトラクロッカスがゆく!』
:D,Gray-man
:黒の教団

【完結済】
1:ウルトラクロッカスがゆく!(神田)
2:唸れ、ウルトラクロッカス!(アレン)




吾輩は現代人である。名前は依泉。
世紀末どころか世紀のまだまだ駆け出しに生まれた私はどうあっても恐らく、多分だけどきっと、世紀の変わり目に立ち会う事は無いんじゃないかと思う。

21世紀がまだまだ序盤、今世紀と銘打つにはあまりにも気が早過ぎる慌てん坊のサンタクロースもびっくりの慌てようだけれど、ここは敢えてその言葉を使わせて貰うとしよう。
今世紀最大の発明は、まず間違いなく「ゲーム」である。
その無限大の可能性に魅了される者山の如し。未知の世界、現実には合間見える事など有り得ない物語、ひとつの人生ではカケラも足りない程の冒険を疑似体験する事すら出来る、それがゲーム。
勿論私もそれに魅了された純真無垢な心の持ち主のひとり。
放課後は寄れるだけたくさんのゲーセンでガンシューティングゲーム、いわゆるガンシューの筐体に小銭を注ぎ込むのが日課だ。

1人プレイはトップをギリギリキープ中、あとで更なるハイスコアを狙ってみよう。さて2人プレイの方は?切り替わった画面で先日叩き出したはずの1位から自分のスコアネーム──ウルトラクロッカス──が2位に引き下げられているのを確認すると自然と笑みが浮かぶ。地元に競合相手がいるのはなんとも嬉しい事だ。
躊躇いなく2人分の硬貨を入れ、ガンコントローラを2つ手に取った。ダブルプレイヤーとしての楽しみを知ってしまってからは喜びも2倍、財布の中身の減る速度も2倍である。
これでも行動範囲内にあるあちこちのランキングを総ナメにしているご当地のトッププレイヤーだったりするので、その名にかけて今日中に奪い返したいところ。胸の前まで持ち上げた銃を持つ手を交差させ、ふうと深呼吸。視界は画面に固定して集中、さて始まりだ。


硬い声のナレーションが時は凡そ21世紀末、ポストアポカリプスの世に残るは暴徒にゾンビにクリーチャー、人工冬眠の長い眠りから目覚めた主人公が今武器を取る──なんて短い説明をさらっと終わらせると、一元視点に切り替わった画面の奥から早速ゾンビのお出ましだ。
挨拶代わりに3体のゾンビを続けてヘッドショット。
次に連なるゾンビの群れの先頭を撃てば、仰け反る傍からその背後に隠れていた頭にも遅れて到達した弾丸が命中する、その繰り返し。序盤から初見を惑わせる程数で攻め過ぎだとは思うものの、動きが遅い上にヘッドショットなら一撃で倒せる雑魚キャラ枠なので慣れればいっそ爽快感がある。
襲い来る化け物共を一掃しつつ、情報を仕入れ物語の核心に触れてゆく。世界廃退の元凶を造り出した機関の残党と産み出された凶悪なクリーチャー達を葬りながら結末へと進む。そしてラスボスである人の身の丈の優に3倍とあるクリーチャーまでを何とかノーダメージで捩伏せれば、研究所を破壊して、生き残った人々がいると望みをかけて地下シェルターへ向かい、あっという間にエンディング。新たな世界の幕開け──のはずだった。

「……んっ?」

地下シェルターで怯える人々の中から、幼い少女がこちらへ恐る恐る歩み寄る。助けが来た安堵感から来る喜びの表情なんてものはそこに無く、恐怖の為か小さなその身体は小刻みに震えていた。いや、小刻みか?ぶるぶるとだんだん大きくなるその震えには違和感を禁じ得ない。
それも束の間、まるで実が弾けるようにその姿が弾けた。中からずるりと出てきたのは到底見た事のない何かだった。卵型から幾つもの大砲の砲身のようなものが飛び出している。ラスボス程ではないものの巨大な黒い塊は、クリーチャーと呼ぶには機械的な姿をしていて、このゲームの世界観からは随分とズレているように思う。
更にはこれまたえらく不釣り合いな、小綺麗なコートを着たポニーテールのスタイリッシュな女性が刀を持って颯爽と立ち塞がる。見た目に相応しくない結構低くて口の悪い台詞が吐き出されるが、言っている内容的にはどうやら敵ではないらしい。……うん、いや、刀って。

──おかしい。ゲームはもう終わって、いつもなら既にスコアが出ている頃なのに。

そうだ、今回はなんと言ってもノーダメージ、発砲回数だって無駄撃ち無く出来得る限りの最小回数に近い。ほとんどパーフェクトクリアと言っても過言じゃない。
……とするとこれは、もしかしてボーナスステージ?

「やったらあ」

結論付けると同時に解きかけた集中力を持ち直す。不気味なデカブツの中央より上に付いた、人の顔のような白い仮面に照準を合わせると、あからさまな弱点と思しきそれを集中的に狙い撃ちした。というよりも、他の部分が砲身と同じ鉄のような装甲にしか見えないのだ。あの仮面部分も弱点じゃ無かったらどうしようか。
“高得点でのクリア”は何度もして来ていたけれどどうもそれだけじゃダメらしく、“ノーダメージでのクリア”を果たした今日になってはじめて現れた隠しステージなのだから、鬼畜設定だって有り得なくはない。これまで味方なんて出て来た事のないゲームだったのに、ここに来てぽっと出というのもそれを予感させる。

「なにをモタモタしてやがる!死にてえのかよ」

いややってる、やってるよ?これはこっちが悪いんじゃなくて、これだけの連射でも全く微動だにしないあちらさんが可笑しいよね?まさかの怯みモーションすらなし?このゲームそれなりに難しいとは言われてるけど、ここまで飛躍するレベルの鬼畜設定は幾ら何でも許されて良いの?

「何故イノセンスを発動させねえ?それじゃガラクタと同じじゃねえか」

何を言ってるのかサッパリ分かりません。日本語プリーズ。直訳したら無実を発動させろになるんですけど、身の潔白を証明しろって事かな。いやいや何の?
相変わらず敵は全くの無反応だし、お姉さんからは怒声が飛んで来るしでフラストレーションと共にイライラが募りつつあるのを自覚する。

「イノセンスってなにさ!?」

機械に、ましてやNPCに向かって怒鳴り返しても、返事が返って来る事なんか有り得ない。分かっている。せいぜい周りに白い目で見られて終わりだ。ああ、やだなゲームでイライラするなんて。
その言葉が引き金となったのかどうかは分からない。けれどそれはまるで返事を返すように、名前を呼ばれて反応するかのように。
両手に握ったガンコントローラが、光を放った。

「あれっ」

そして叫ぶと同時に引いていたトリガー分の弾が着弾した敵は、先程までと打って変わって反応を見せた。思い切り仰け反って、そのままの勢いで派手な音を立てて地面に伏す。
思わず間抜けな声が漏れる。手元に敵にと事態を飲み込むのに刹那身動きを止めてしまうも、それを見透かしたようにトドメをさせとお姉さんが叫ぶ。
手を覆い尽くすように集束した光を一瞥する。それはまるでどら焼き好きな猫型ロボットの手を連想させた。いやそんな事は今全くどうでも良い。
光でその姿が全く見えていない状態にあるガンコントローラの照準を当て直すと、まるでヘリウムガス入りの風船のように起き上がろうとする敵に情け容赦の一切も無い数の銃弾を撃ち込んだ。
被弾する度にその部分が爆発するように煙と音を伴う。その煙が急速に画面を覆い尽くし、厄介にも私の視界から敵の姿を隠そうとしているようだと思ったのも束の間、ふと気が付くと濛々と立ち込める煙に自身の姿をも包まれていた。完全に敵の姿が見えなくなる前、最後に放った攻撃は果たしてトドメとなっただろうか。



こうして私は生まれ育った世界と何の予告もなく永訣する事となる。
──その小暗い屋内で少女の姿だけが忽然と消えていた。
元の世界ではそんなモノローグが聞こえてきて、序章が終わりを告げそうなところである。
“NEW RECORD”
そういつもと何ら変わりない調子で表示された画面だけが、明るいBGMを祝うようにチカチカと光っていた事は、勿論私の知るところでは無い。

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