「ようこそ、黒の教団へ!」
歓迎ムードの黒の教団、ようやく到着。両の手広げてそう言った本部のお偉いさんことコムイ室長はやけにぼろぼろの身なりで服があちこち破け汚れ、掛けている眼鏡は右眼のレンズが真っ二つになる大きな亀裂が入っていた。けれどそれを忘れさせる程の笑顔を向けられ、遅れて少し実感が湧いてきた。のだけれども。
柱の化け物こと門番の次は透き通るような女性型の顔面が闇の中特大サイズで浮かぶ。そのさまは紛う事なきホラーだった。黒の教団ってびっくりショー的なアレの団体名?
今度は何とか悲鳴を飲み込む余裕があったけど、現在唯一隣にいる室長を盾にしちゃったりなんかすると今度こそ追放されるだろうか。必死に堪えたつもりが無意識に隣にある真っ白な団服の腰を掴んでいたらしく、コムイさんごとホラーな触手に連れ去られた。その触手がコムイさんもしっかりと受け止めてくれたお陰で思わず握り拳を解いてしまった手は大して咎められる事もなく九死に一生を得た。本当の意味で九死に一生を得たのは、紛れもなくコムイさんの方だけれど。……申し訳ない。
「お前のイノセンスは刃と盾……この戦争の勝敗を分かつ大きな要となるだろう」
ヘブ君と呼ばれた白い女性は私のポケットからイノセンスをするりと拾い上げ、暫しの沈黙の後そう呟くと乗ってきたもののどうなってるのか全く分からない浮遊式エレベータに私とコムイさんを優しく下ろした。手元にそっとイノセンスを返される。コムイさんよりよっぽどタチが良いのはよく分かったけれど、私刃物は扱える気がしない。
エレベータを降りた私はいつの間にか右眼のレンズが完全に消失している眼鏡をくいっとちょっぴりオカマっぽい仕草で持ち上げたコムイさんに連れられて、科学班の研究室へ足を踏み入れた。
不慣れな移動手段での旅の疲れとさっきからの心臓に悪い出来事の連続で怠い身体が正直そろそろ睡眠を所望している。ベッド貸してもらえないだろうか。だなんて考えていた事は全て吹き飛んだ。
いつの間にか私のスコアネームがイノセンスの通称という事になっていた。
どうやら神田君が報告の流れで私の対アクマ銃の名前として洩らしたらしい。なんで知ってるのかと思ったら、そういえば試し撃ちしようとした時に言ったかも。別に良いんだけど、ごめんそれ銃の愛称だった訳じゃないんだよね。別に良いというか名付けが必要なら丁度良いから訂正しないけど。
その粉々になってしまった相棒を、科学班員が武器として蘇らせてくれるそうだ。神田君が着ているようなモノクロ団服もオーダーメイドで作ってくれるそうな。科学班万能かよ。
そうして個室を与えられ、お金のいらない食堂で遠慮なくご馳走にありつき、のんびり食っちゃ寝生活を丸2日。その間色んな人と交流しながら中々楽しい教団ライフを送っていたけれど、早くも見事な装飾のされた団服が完成したのだそうな。
科学班のジョニー君とリーバーさんに試着をするよう手渡されたそれをその場で服の上から羽織ってみる。
オーダーメイドと言っても特にこちらから何か希望した覚えもなく、どんな風に仕上がるかは全く予想出来ていなかったのだけど、着てみるとそれはお尻をすっかり隠す程の丈で、袖口はリブのようになっていて捲り上げ易そうだ。ついでに裾も若干絞られていてバルーンスカートみたいな可愛らしさが垣間見得てちょっと恥ずかしい。いやいやここはスタジャンっぽいシルエットとでも言い換えておこう。
フロントには大きめのファスナーがどどんと構えている。しかもファスナーは2つ付いていて裾側の開きまで調節出来るスグレモノ。フードが付いていて、手の突っ込みやすそうな大きなポケットに、首元には引っ張ってもフードが絞れる訳ではない飾りの紐まで付属。そう、これではまるでコートというよりパーカだ。
どうやら制服のブラウスの上に着ていたジップアップパーカで好みを掌握されたらしい。話している時なんかの癖で、紐を引っ張ったり、くるくる指で弄んだり、移動中なんかにポケットに手を突っ込んだりしていたのまでこの僅かな時間でしっかり観察済みと見た。何も言ってないのに間違いなく私的に動き易くて好みのデザインに仕上がっている。科学班こわい。
まあ、服に関しては何も言ってないけど、武器については若干口挟みました。というか扱えない武器作られても困るんだから言わざるを得ないのだけど。と言いつつも正しくは聞かれた幾つかの質問に答えて相棒のガンコントローラの亡骸押し付けて終わりましたけど。
得意な武器は?と聞かれたらそりゃもう反射神経レベルの即答で「銃」と答えますよね。あくまでゲームの中の話だけどね。
入団からたった1週間、加工されたイノセンスは見事に立派な銃になりました。しかもちゃんと二挺拳銃なんだな。
装飾のご立派なお高そうな二挺の銃に胸が高鳴る。
当然ながらゲーセンのものより余程重い、とは言えもしかするとわざわざ破片から再製してまで寄せたのか握り心地に違和感は全くと言って良い程無い。仕事が職人クオリティだ。とりあえず銃を持ったその腕を胸の前で交差させてポーズを決めてみる。そろそろ顔馴染みと言える程になってきた科学班員の面々におお〜だとかカッコイイねだとか言って褒められた。……恥ずかしくなってきた。
二挺も持ってどうやって弾の装填をするかって?ふふん、なんと必要ないんだなこれが。適合者である私が銃を構えて見せれば、既に対アクマ武器は自動でいつでも何度でも準備万端にしてくれるらしい……つまりは弾切れ知らず!これが本当に凄くって、他の人が持ったところで空撃ち状態にしかならない。そしてこのおかげで私は二挺使いという非現実的な事をゲームの外でも実現してしまえる準備が整えられた訳だ。
ごめん嘘です。準備出来ていませんでした。
実際の銃となると二挺同時使いは想像を絶する難しさだった。勢いで教団内にある射撃場に向かって早々に気付いてしまって泣いた。
まず片手につき一挺分の反動とか無理がある。これでも実際に薬莢が入ってる訳じゃないと云うのと、イノセンス適合者としての恩恵がどうとかでかなり、相当、随分マシな方らしい。というか実際の銃に至ってはそもそも片手で撃つ事からして無理ゲーだったりするのだけど。それから科学班がなるべく負担のかからないよう調節済みでもあるらしい。それでもやっぱり鍛えないとどうにも無理がある。そして反動の分だけ狙いもブレる。
何よりこれが大事、想像以上にアクマこわい。
四角い画面の中でのろのろ歩くグロテスクなゾンビとか、どすどす走っては食ってかかって来る恐竜とか、ゲームバランス崩壊させる気満々の超難度クリーチャーとか、トリッキーな動きと未知の技術がキラリと光るUMAだとか、おまけに同じ得物を持つ対抗組織のマフィアだのなんだの。
そりゃ違うわ。怖くて当然だわ。
ガンシューティングゲームの敵はあくまでゲーム。ゲームオーバーにはなっても私は死ぬどころか傷一つ付かないし、いくら3D映像化されようが4Dアトラクション化されようが、襲い来る奴らもその攻撃も画面からこちら側にはやって来ない。
来る直前にしていたゲームに出てきたのはやっぱりレベル1のアクマだったみたいだけど、あの時は気味が悪いデザイン以上の感想は無く、勿論恐怖なんて微塵も無かったのにな。
画面越しとは違うんだ。
腰のガンホルダーに片方を収めたまま、実戦は近道とばかりにエクソシストラビとブックマンと共にアクマ狩りの任務に駆り出されて自覚してしまった。
縫い付けられたように足が地面から離れず動けないという経験をした。任務自体は恐らく元々この2人だけで事足りる程だったのだろう、ほとんど役立たずの私はラビの励ましを無視して丸一日塞ぎ込んだ。もう二度と見たくないあのアクマの造形への恐怖と、自分のヘタレ具合にガッカリだった。
…………いや待って、画面越しじゃなくなって怖いなら、無理矢理画面越しにしちゃえば良くない?
そんな考えが頭上にぽんと打ち上がったのは、任務から3日が経った頃だった。その名案に豆電球なんてちっさなものでなく、盛大な花火に視界が照らされたようだった。
幸いな事に近頃はVRゲームにも凝っていた貪欲なガンゲーマーである私は、360度ゾンビがどこから来ようともかなりのハイスコア叩き出しちゃってたりなんかしたんだよ、そうだよ。ヘブ君曰く戦況を覆す要らしいし出来ないなんて言わせない。そうと決まれば。
リーバーさんなら話が早いだろうと声を掛けると、嬉しそうに元気になった事を笑ってくれた。
彼も射撃が趣味だと分かり、短い間ながらも休憩時間をお供する事も多々あった。
対アクマ武器を与えられてから、体力筋力アップが毎日の課題だったのだけど、その間銃を触らずにいて射撃の腕が鈍っては元も子もない。当然ながら筋力的な話だけじゃなく、ガンコントローラと実物では勝手が違うので、それについてはリーバーさんに手解きを受けている。
これが思う以上に難しくて私的には落第点。リーバーさんには筋は良いと言われたけれど、そんな文句は見込みのある素人向けじゃないか。
まあでもやっぱり結論は筋力アップらしい。もう少し腕で支えられるようになればずっと良くなるとは言われている。
だから決してサボってた訳じゃないんだからね!
そんな訳で相談の結果、気合いを入れて作ってもらったのはVRゴーグル的に視界を狭めて没入感を高めるのが目的のシューティンググラスだ。
なんだあのゴーグル?どんどん科学班に注文付けてるが、アイツは一体どこに向かおうとしてるんだ?みたいな声が聞こえてもまあ気にしちゃいけない。これも戦場を生き抜く為、死を賭して闘う為。
寧ろ視界悪くなってるけど本当に良いのか?と作る前と出来上がった今重ねて聞いておきながらもさすが班長、リーバーさんの腕は確かだった。
試しにティム・キャンピーに色んなアクマの映像を見せてもらったけど、不気味な中ボスくらいの感覚で見られている。そして久々のゲームやってる感!最高じゃないですかー!
とか言ってたら映像射出機となっているティム・キャンピーを危うく撃ちそうになってしまっていて、怒って噛まれたし持ち主にも怒られた。
まあ当面の間は腕力を中心に筋肉強化しながら大人しく一挺だけ使いますよ。
ちなみに筋トレの指導者は朝練と称して指立て伏せとか平気で3桁しちゃう奴とか、修行と称して森で気付いたら野宿しちゃうような奴で筋肉もりもりマッチョマンの変態エクソシスト2名です。あっ筋トレの仕方の話で見た目は2人ともかなりスマートです。片方は体格はともかくお姉さんと見紛う例の美形、もう片方はモヤシ級です。世の中おかしい。麗しの……と言うには無理があるけどこれでも華の現役女子高生の私がもりもりマッチョッチョになったらどうしてくれるの。
そうは言っても鬼教官2人に来る日も来る日も鍛えられ、へとへとなお風呂上がりは科学班の屍に紛れて美少女が淹れた美味しいコーヒーを戴く日々。
反動にも随分腕が慣れてきたし、命中率も中々見られるようになってきた。まだまだハイスコアを叩き出すには足りないけれど、二挺拳銃使いの名を現実のものとする日も近いんじゃない?
そんな事を口に出した日には、調子に乗るなとまた野次のひとつやふたつやみっつ位は余裕で飛んで来るだろうけど。
なんたって私はウルトラクロッカス。
そもそも二挺使い自体現実的じゃないとか言われようと決して諦めはしません、ゲーマー精神に則って勝つ為の努力は惜しみません、そう、いつかその夢が叶う日まで!
ウルトラクロッカスがゆく!
→あとがき
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