「そのイノセンスが選んだのなら、お前にはエクソシストになってもらう」

エクソシスト!悪魔ならぬアクマ祓いだね。祓うんでなく壊すんだけど。あっそうしたらアクマ破壊……っていやもう何が何やら。
ほにゃらら高校女子生徒依泉、趣味はガンシュー、特技もガンシュー。これより所属黒の教団、職業エクソシストになります!世界の命運握ります!あー考えただけで楽しいぞ。
私もこれから所属すべき黒の教団に、今から帰るのだと言うお兄さんが、着いて来いと遠くの町並みを親指で差した。

「はーい。あっいやちょっとだけ待って」
「は?」

怪訝な顔をされたけど、せっかく何にもない誰もいない荒野にいるのだから、町中へ入る前に是非とも改めて実感しておきたい。イノセンス発動、と今度は心の中で唱えてみると、一瞬ガンコントローラが淡く光を纏う。
明らかに警戒したお兄さんがひそりとお腰につけたイノセンスなのだろう刀の鞘に手を添えたのが視界の端に覗いたけれど気付かぬフリだ。いきなり武器出されたら驚いたってしゃあない。全く知らない相手だし……あれっそういやお互い自己紹介のひとつもしてなくない?

「お兄さん名前教えてくれませんか?私の事は依泉と呼んで下さい。射撃が趣味の18歳でっす」

おおっと私が高3である事がバレてしまった。大事な時期に毎日ゲーセン通いしてた事はどうかオフレコでお願いします。
攻撃準備万端で突然名乗り出した事に呆気に取られた顔がなかなか面白い。美形は驚いても美形、メモメモ。渋々と、あくまで鞘を左手で掴んだままでお兄さんが神田だと教えてくれた。苗字だけか!私下の名前で名乗っちゃったじゃん空気読んで。そしてお兄さんはお兄さんじゃなく同い年でした。ならばと早速敬語を外させてもらう事にする。

「じゃあ神田君。見てて見てて!景気付けにどかんとやるよ」

ちゃっと掲げた銃を持つ手を胸の前で交差させる。ゲーム始めの初期位置というかなんちゃって決めポーズだ。二丁拳銃といえばこれっきゃない。ささっと神田君を視界の端に、何もない少し先の地面へと照準を合わせる。

「いくよ、新生ウルトラクロッカスの始まりだ!」

そうして力を籠めた両手、両人差し指の動作の先にはバンだとかズガンだとかそんな発泡音を期待していたはずなのに、あっさりとそれは裏切られる。どちらかと言わずともそれは破裂音だった。いや、音だけで済めば良かったのだけど。

調子に乗って無駄撃ちしようとしたら、ガンコントローラが派手に大破しました。

いやこれパワーワード過ぎない?ぽかんと空いた口を塞ぐのはなかなか苦労が必要な事を知る。ぱくぱく、いや閉じていないのではくはくだろうか。それらしい発声も出来ずに口だけ動かしながら神田君を見ると、そちらはぽかんなのか目が点なのかはたまた絶句なのか、とにかく余程ショッキングな瞬間を見たかのように言葉で表すには難しい表情をしていた。
そこから足元に視線を移しがてら、銃を持っている形の名残で持ち上げていた両腕に気付いて一緒に下ろしていく。カラカラの地面の上、黒いたくさんのパーツと共に地面に転がる謎の光る物体がそこにあった。
お兄さん曰くこれこそイノセンスらしいのだけど、いや銃より大きくない?どうやって入ってたのこれ。あっこれもまた“幾ら考えても結論の出ない事”に違いない。思考を強制シャットダウンした。今は考えるより感じろ、だ。

「わ、私の、相棒が……」

えっ武器が無くなったらどうすれば良いんだ?これがイノセンスという名の特別仕様なら、代替品じゃ勿論ダメな訳で。私の異世界救済無双物語はこんな序盤も序盤で幕引きなの?まじで?何も始まってすらいませんけど?というか用済みなら用済みで帰れるんだろうなこれ。
さっきゲームとの区別が必要だと思ったばかりなのに。そりゃ本物レベルの発砲とするなら、おもちゃの銃に耐えられるはずがなかった。……アクマを葬る為の武器だと言われて、その元々の耐久性まで考慮しなくちゃいけないなんて誰がそこまで思うだろうか?いや思うはずがない、つまり私は悪くない。悪くはないけど、どっちにしても現状は変わらない。

がっくり膝をついた私に神田君がざっと近寄り影を落とす。そっとじゃないざっとだ。お陰様で顔周りに若干砂埃が舞い、黒い破片にちらほらと茶色い模様ができる。けれどそんな事はどうでも良い。神田君の口から、イノセンスの核さえあればガワはどうとでも作り直せるとの福音がもたらされた。嗚呼、神は私を見放さなかった。
そうと解ればイノセンスをパーカのポケットに突っ込んで、せっせと拾い集めた相棒の亡骸は破片で怪我をしそうなのでポケットではなく神田君の持っていた砂よけのストールのような布を申し訳なく拝借して袋状にした。お前女のクセにハンカチのひとつも持ってないのかよみたいな事を顔が訴えていたけれど、男女差別はいけないと思います。あとさすがにハンカチじゃ全部包むのに3枚はいると思う。どんなレディも3枚は持ってないと思うな。


近場の風車の町まで徒歩で少なくとも30分、ファインダーと呼ばれる部隊に所属する白いツナギの気の良いオジサンと合流。アクマとの戦闘は専門外なものの、どうやら町民があの場に鉢合わせる事のないよう避難誘導を任されていたらしい。ようはサポート役らしく、今度は任務を終えたと云う神田君の代わりに黒の教団本部への報告の電話と、帰還の為の手配に忙しそうだった。私はと言うと、電話の線の途中に繋いだ黒くて丸いボディに一つ目、蝙蝠のような羽の機械……なんとゴーレムだと云う。その姿は随分私の知ってるゴーレムと違うものの、その存在に心踊らせていた。

馬車便を使い、汽車に乗り、海を渡り、また汽車に乗っての北上の旅。乾いた地面に馬の走りのままに揺れる馬車はあちこち身体をぶつけたし、ふかふかのクッションシートの電車と違って直角の木が全く休ませる気のないベンチの並ぶ汽車での長時間座りっぱなしは中々辛いものがあった。あれっボックスシートって木箱みたいな硬さの椅子って意味でしたっけ?出来ればもう乗りたくない。
けれど最後はゴンドラのようなシルエットの小舟での水路移動で、ちょっとした遊覧の気分に浮かれる事が出来た。
そうしてようやく辿り着いた黒の教団は、ヒーローのアジトと云うよりはどう見ても悪の根城のようだった。


地下に繋がっているのだと云う水路から一々天井の高い通路とその分長ったらしい階段を暫く進んで、建物1階の正門まで神田君に連れて行かれる。今出てきた建物を振り返ると暗く小高い建物と今に雷でも鳴り出しそうな空の暗雲立ち込める様に先述した感想が頭を過ぎった。
正門の先には神田君も持っていた蝙蝠型のゴーレムがどこを見てもあちこち飛び回っているのが見える。そうしてあちらこちらの目につくものに視線を忙しなく移していたら……待って神田君、いつの間にか建物どころか門の外に出ちゃったんですけど?門閉まりましたし。もしやこの先にもうひとつ建物が……いや無いわ。この先断崖絶壁なんですけど何なの?まさか突き落とされたりしませんよね、黒の教団に入りたいならライオンの子の精神で這い上がって来い的な。はははまさかね、普通に死ぬわ。
固く結んだ口を開くどころか微塵も動かす気配の無い神田君が顎で正門を差すようにしたけども、振り向いてもそこにあるのは今くぐって来た正門のみ……ああいやそうでもなかった。
2つの門の間、不気味な顔のついた喋る柱が突然グワッと眼前まで伸びてきて、ゾンビやなんやとは違うそのあまりのキモさのせいで思わず短い悲鳴と共に神田君を盾にしたら怒った顔して首根っこを掴まれた。差し出されるような形で再び柱とご対面、目からビーム、もとい世界観ブチ壊しのレントゲン検査が始まり、特に問題はなかったらしくその両隣の巨人でも通れちゃいそうな門が大きな音と砂埃を立てて再び開く。
どうもアクマかどうかの検査だったらしく、そりゃパス出来るわ疑ってたんかいと思いながらさっさと門の内側へ歩き出した神田君を見失わないよう小走りで着いて行った。
いつもその長い足で無遠慮な速度で歩くものだから、ここに来るまで見失わないように何度走ったか分からない。話が終わったと見ればさっさと歩いていく様はゲームのNPCみたいだなと思うと笑える。そうすると私はさながら情報集めに奔走する主人公か。ひっそり抱いた感想は決して吐露してはいけないと固くお口チャックした。

とかなんとか考えてたらほら来た、見失いましたよねえ。

幸い船を係留すると言って別れたファインダーのおじさんと合流する事が出来たので迷わずに済みました。それでも右往左往してる間にちょっと時間が経っていたらしく、心配してくれた団員によって捜索が開始され、気にせずなのか気付かずなのか報告に現れた神田君に向かって「神田君が部屋に連れ込んでるんじゃないの?」等と私でも分かる決して言ってはいけない類いの冗談を溢した人が大層酷い目に遭ったというのは後から聞いた。

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