吾輩は異世界人である。名前は依泉。
21世紀序盤を生きる華の女子高生ライフを送っていた私は気が付いたら……来る日も来る日も小銭を注ぎ込んでいたガンシュー、つまりガンシューティングゲームの世界に来てしまっていた!の、ではなく、ガンシューをパーフェクトクリアしたらそれとは全然無関係で、私にもまったく覚えのない設定うず巻く世紀末に転移していた。
なんだそれ。

ちなみに近未来な21世紀末ではなく、地球の歴史でも想像に難くないザ・19世紀末といった感じの世界観だ。
そこではアクマと呼ばれる人類殺戮兵器が蔓延り、人の皮を被り社会に溶け込みながら、殺人衝動という名の空腹を満たすために闇に紛れて日夜人々を襲う。
ほら、よく見て。今あなたの隣にいるのは、本当にあなたの知るその人自身ですか?

…………いやこれじゃホラー映画になっちゃうな。
心の奥底に10年経ってもふと思い起こさせるようなトラウマ植え付ける類いじゃなくて、五感に訴えかける直接的で派手な演出で回数稼げば良いってもんじゃないってくらいぐいぐい怖がらせに来るB級モノだ。

ともかく、そのアクマを造る千年伯爵と呼ばれる終焉を喚ぶ者の再来により、世界は崩壊を迎えてしまう。
そこで彗星の如く颯爽と現れたわけではないけれど、唯一の対抗馬として太古より存在していたのは神の結晶ことイノセンス。その神秘の物質が一個につきひとりを選んだ適合者こそがエクソシスト!
そろそろ皆さんお気付きですか?お気付きですね?分かっちゃったかハイその通り!なななんと、私がそのエクソシストがひとりとなるため異世界から喚ばれた使者というわけなんだなあ!

槍だろうが大砲だろうが等しくピクリともしないアクマのトンデモワガママボディは、イノセンスを使った武器でもってようやく対等に闘える。つまり救世主ですよね。
ガンシューのコントローラの中にイノセンスが宿っていたらしく、それはどうやら銃の腕を見込んで私を選んでくれたのだと結論付けた。最高です本当にありがとうございます!
最初のイノセンス適合者にして、私が知っているだけでも預言にイノセンスの管理にシンクロ率の計測にと忙しないヘブ君の預言いわく、私のイノセンスには剣と盾の役割があるらしい。
戦況とかひっくり返しちゃうかも?的なことも言われたよね凄くない?剣は扱えないので攻撃手段全般を表すとして銃のことと仮定したけれど、盾のほうが未だ詳細不明。説明プリーズ。
こちとらようやく大幅な筋力アップに成功して、ゲーム並みとはいかなくともかなり近いところまでの精度を片手で実現出来るところまで来たところなので別にまだ良いんだけどね。

そう、苦節約半年、ようやくワタクシ念願にして本願、皆さんお待ちかねの二挺拳銃使いとなりました!



「あ、やば」

頭の中で忙しなくペンを走らせていたところ、周囲への反応に若干の遅れが生じてしまった。
左方不注意。巨大な砲塔を黒くて丸いボディのあちらこちらからぐにっと目一杯こっちに向けたアクマの存在に気が付いていなかった。あんな曲がった筒からどうやって銃弾撃ち出すんだろう、とかなんとか考えてるような余裕は今この場にはないはずなんだけど。
どかんと左側で派手な爆発が巻き起こる。煙が薄れた先にあったのは先刻こちらに照準を向けていたはずのアクマの残骸だけだ。そこから更に左、私にとっては背後だった方向まで視線を動かした。

「アレンってばナイスアシスト」
「っあのねえ!もう少し真面目に避けてくださいよ!こっちの身が持ちません」
「一応ね、避ける心積もりは常々あるんだけど、ほら、根はインドア派だから身体が追いつかないんだよね」
「……筋力以外にもいろいろと不足していたみたいですね?」

あらら話がちょっと良からぬ方向に行ってしまったぞ。普段は良い子なんだけどね。身体トレーニングのコーチその2をしてくれていたせいか、私の体力やら身体能力的な話にたいへん厳しい。笑顔貼りつけといてぜんぜん笑ってないぞ。
こう見えても、話しながらだってかなりのアクマを葬っている。倒した数はアレンともおそらく良い勝負だろう。不足だなんてとんでもない。

「いやいやいや!ご冗談を。これ以上は私死んじゃうよ!っと」

眉を吊り上げた彼の右肩近くへ照準を合わせ、迷いなく引き金を引いた。白い髪すれすれを通った銃弾がその背後の影に刺さる。派手な破裂音はもう聞き慣れてしまった。

「アレンも後方不注意、お互いさま」

これで強制追加トレーニングコースは免れるのでは?
にやりと笑ってやれば、銃弾の軌道でなびいた白髪を押さえつけるかのように右耳を塞いだアレンが目を丸くしていた。さすがにあの距離ではうるさかったらしい。
そこからはちょっとムッとした表情のアレンがまた、当てつけのようにわざわざ私に近いアクマを、わざわざ銃型に転換させた対アクマ武器で倒しはじめる。
周囲のアクマは任せておけば大丈夫だろう。ならばとこちらも悪ノリしてアレンに向かうアクマを狙撃していく。
こういう事してるから神田君の額の青筋が休まらないし、ラビにお前ら仲良しさって垂れた目尻をいつもよりもっと垂れ目にさせて笑われるんだよね。
アレンと違って私はちゃんと自覚している。仕方ないね、仲良しだから。

「ていうかずっと思ってたんですけど、どうしてわざわざ顔を狙うんですか!」

おやっ今度は今さらにも射撃のクセについてケチを付けられた。
それ今言う?余裕綽々かい。

「人は的があれば当てたくなる生き物なんだよ。……ていうかあそこ弱点じゃないの?」
「弱点ではないですし、レベル1相手にイノセンスならどこでも同じでしょう」

唯一の名残りを率先して攻撃するなんて……。
信じられないほどの無情さでも見聞きしたかのような声が戦場の喧騒の中でも届いたけれど、私としてはガンシューの時からのクセなので今更変えようもない。変えることは出来るだろうけど、その配慮に毎回一瞬頭使ってる暇があったら1体でも多く倒すほうがよっぽどお利口だと思うんだよね。
別にアレンだって状況次第で攻撃するじゃないか。私は知っている。

「そんな配慮してたらやられちゃうよ師匠」
「師匠って呼ぶのホントやめて下さい」

透かさず心底嫌そうな声で返してきたアレンに、話題をこのまま逸らしてしまおうと策する。
アクマのこと話す時のアレンは危うくて見てられないよね。今は他に人がいないだけマシだけど、暗ーい顔しちゃってさ。まあ見てられないというか、今その顔は背後にあるはずだから見てないんだけど。

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