「――――の……あの!」
「、っ」
突然、割と近くから聞こえた声に夢から醒めた様に意識が現実に戻る。ふと気付けばオレの机に影が出来ていて、見上げると先程クラス全員への自己紹介を終えた依泉さんがじっとオレを見つめていた。
「え、あーと……何ですか?」
席が隣同士仲良くしようと話しかけたかも知れないのに、敬語を返されたのでは身構えるのも仕方ない。現に目の前の依泉さんも少しだけ顔をしかめてしまった。
10年後にいた時の調子で反応してしまったオレはオレで、やっちゃった感が否めない。
「えっと……沢田君だよね?」
オレが頷くのを確認して、依泉さんは昨日まで無かった隣の席に腰を落ち着かせる。そして先程の簡素な挨拶と違う、オレ限定へ改めて自己紹介がなされる。宜しくね?と笑った彼女の無邪気さにちくりと胸が痛みを訴える。
今此処にいる彼女は、オレ達以上に何も知らないのだ。未来の事は勿論、オレ達の事すらも。
そうこうしている内に朝のHRは終わり、教室に活気が戻る。マンガとかでよくあるような転入生への質問攻めは意外と無いもんだなぁとどうでも良い事を考え始めた矢先、一人分の足音が静かに此方へ向かってきた。正しくはオレの隣、なのだが。
「依泉さん、」
「ふわ、可愛いコだ」
話しかけてきたのは京子ちゃんだった。相変わらず天使の様な笑顔を振り撒いて、依泉さんと会話をしていく。
自己紹介をしたと思えば、名前で読んでも良い?とか。こういう時の女子の打ち解けるスピードというのは、男のオレには成し得ない気がしてしまう。
「よっ!俺も混ぜてくれよ」
「おい野球バカ!こいつ……」
続いて人の良い笑みと共に集まってきたのは山本。山本は男子だが、例外と言える程に男女問わず打ち解けるのが上手い。極たまに、獄寺君みたいに突っ掛かる珍しいタイプもいる様だけど。
隣の席が賑やかになっていくのを他人事のように眺めながら、ふと輪の中心となっている人を思い浮かべて罪悪感に駆られた。
いつだってオレはダメダメで、傷付くのが怖いだけの臆病者。
マフィアになんかならないと口では言ってても、いざという時死ぬ気じゃなきゃ闘えない。
もう数え切れない程この手は炎を灯している。それでも皆を守る事ができるのは嬉しくて。
けれどオレと関わったせいで。
依泉さんだけじゃない。京子ちゃんやハルだってそうだ。不可抗力でもオレのせいで皆が怖い思いをしているなんて。そんなの……
「――沢田君?」
「……え?」
気付けば隣の騒がしさは無くなっていて、いつの間にかそれらの視線が全てオレに注がれていた。どうしたの?大丈夫?と口々に聞いてくれる皆に慌てて返事を返せば、直ぐにその表情達は和らぐ。
何だか一人深刻に考えていたオレが馬鹿みたいだ。
オレはこんなにも大切な友達に見守られているというのに。オレ一人躍起になったところでどうにもならないんだ。
「あ!それでね沢田君。さっきの話なんだけど、」
「え?何?」
けれど何か救われる事はきっとある。その為に信じて闘う事なら、今のオレにだって許される筈だ。
「綱吉君って呼んで良いかな?って」
「それならツナで良いよ。皆もそうだし!」
その方が呼ばれ慣れてるし、とは言えないけど!
代わりにとオレも名前呼び(“ちゃん”は付けるよ!)を命じられたけど、そっちは慣れるのに時間が掛かりそうだ。
「じゃあ改めて宜しくね、ツナ!」
未来で同じテンポ、同じ笑顔で言われた「宜しく」に、オレは10年後では戸惑ってしまった返事を今度はハッキリと返した。
プロローグよもう一度
この日から変わっていく彼女の未来を、もう巻き込んでしまった皆の未来を、この手で少しでも守れますように。
執筆2008.04.25.fri
加筆2009.04.13.mon
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