『片想い+片想い=崩壊』
綱吉→夢主→山本→京子……。不幸エンド。
:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉

【完結済】
1:片想い+片想い=崩壊
2:ピース+ピース=はまっていく(短編集)




明るく皆に好かれる山本に、最初依泉は憧れに近い一目惚れをしていた。それがいつだったか恋愛感情に変わるには、そう時間もかからなかったろう。
逆に帰国子女の獄寺は当初の印象が悪かった。しかし恐怖の対象だった彼とは話すうちにその刺々しさが消えていき、今では良い友達となっている。
そしてその2人と深く関わるようになったのは、彼女に幼馴染みがいたからだ。どうやら人を惹き付ける才能のあるらしい、ダメダメだけど優しいツナ。

冒頭でも言っていたように、依泉は山本武に恋愛感情を抱いている。
繰り返しの毎日の中それなりに楽しく過ごしていた彼女には、物心つく前からの幼馴染みの心情を理解し得なかったし、それに気が付くきっかけすらもありはしなかった。その事がこれからの事件の発端となってしまうなんて、この時は誰にも予想出来なかったのだ。


「おはよーツナ」
「おはよ、依泉」

依泉が玄関扉を開けば、そこには近頃の日常となった幼馴染みの姿があった。
小学生の頃はよく寝坊寸前のツナを起こしに行っていた覚えがあるので、彼が自分より早く支度を終えて待っているだなんて当初はどれ程驚いた事か。寝坊の減少はやはり中学に上がって良い友達が沢山できたお陰だろうか。
幼馴染みとして素直に喜ぶ依泉に、逆にあまり自然と笑う事ができずにいたのはツナの方である。

“幼馴染みとして”。
そんな些細な言葉に反応する自分はどうかしている。けれど全く気付きもしない依泉も依泉だと、ツナは頭の中で独りごちた。

「あのさ、依泉。オレが最近寝坊しなくなった本当の理由って……」
「おはようございます10代目ェ!」
「お……おはよう」

ぴくり。2人に気付かれない程にツナは眉間に小さく皺を寄せた。
本人としては信頼できる右腕ととられるのが最高らしいが、生憎平凡人生を送っていたツナにマフィアのボスという自覚は毛ほどもない。彼は今のところ自他共に認めるただの一般的な子どもだ。それ故に感情のコントロールすら上手くできない事もある。ちょうど今のように、大切な友達のはずの獄寺に小さな嫌悪を抱いてしまう。

ああどうして、いつもこうなんだ。

ツナに会うまで一匹狼を貫いていた右腕は非常に人の心情に疎い。
これまでそんなもの知るかと気にかけもしなかった些細なそれを、理解できる方がおかしい。そのせいで敬愛するボスがいつも手を焼いている事など気付きもせず、空回りを繰り返すのだ。

今日も今日とて早速ツナの大切な時間を潰してしまった彼はそんな事知る由もなく依泉の挨拶に返事を返した。

「あ。また煙草吸ってる!駄目だよ、そんなの吸ってたら」

中学生にして極度のヘビースモーカーたる獄寺に煙草を禁止する事は諦めた依泉も、その健康被害を考えれば注意を促さない訳にはいかない。本気で獄寺の肺を心配する依泉に、しかし本人は全く聞く耳を持たない。今日という今日はもう少し踏み込んで注意をしようかと思っていた依泉だが、突如現れた人物に注意を削がれ、それを実行する事は叶わなかった。

「よっ!依泉、ツナ、獄寺。おはようさん」
「!山本君、おはよう!」

今日はどうしたものか。ツナにとって朝から既にモチベーションの下がり具合が著しい。

何で何で、なんで。

「今日は朝練無かったの?」
「おぅ。皆で登校すんの久々だな!」
「うんっ」

何で依泉の想い人に早朝から会わなければいけないのか。山本の為に嬉しそうに頬を染める依泉を見なければいけないのか。山本はいつから依泉を名前呼びするようになったのか。いつもは朝練で先に行ってるのに、どうして。

そうして学校に着くまでも着いてからも、始終ツナが俯いて無言でいたなどと誰が気付いたか。
忠犬獄寺はともかく、山本に気をとられていた依泉が疑問に思う事はかなわなかったのだ。

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