キーンコーンカーンコーン

鐘の音が学校中に響き渡り、長い履修授業から解放された。静かな住宅地をゆっくりと歩くのはツナと依泉。気の毒な事に、彼の素性も脅威も知らない校内で割かし名のある3年の不良が呼び出した事により、獄寺の姿はなく久々の二人きりの帰路となった。
いつものようにツナは聞き手に徹していて、あれこれと会話に花を咲かせるのは依泉の役目だ。

「それでね!山本君が……」

いつもの調子で話される“山本君の話”への相槌は、いつもとは違っていた。

「山本の話はもう良いよ」
「、え」

ふいに発された辛辣な言葉に驚くのは依泉だけじゃない。口を開いた本人でさえもその声の低さに内心驚いていた。

「最近依泉、山本山本ってそればっかりじゃん。オレの気持ちも考えてよ……!」

「ツナ?」と上擦った声で依泉がその名前を呼ぶ。ツナの気持ちを知らない依泉に、理解なんてできるはずがないのに。

「オレは、山本の話なんか聞きたくない。」

表面上は依泉をずっと応援してきたのに、今更どうしてそんな事を言ってしまったのか。けれど、一度口から出た言葉は戻らない。それどころか次々と溢れて止まる事を忘れてしまったかのようだった。

「オレは……依泉が好きなんだ!」
「!」

あぁ、言ってしまった。頭は結構冷静というのに、独立したようにツナの唇からは次々言葉が落とされる。


依泉が好きだ。
依泉の瞳が他の男を追ってるなんて嫌だ。
依泉の声が他の男を呼ぶのなんて聞きたくない。


自分の言葉に、ツナは今更ながら相当独占欲が強い事に気付かされる。そう言いながらも宥める為に依泉がツナと呼ぼうとした声を遮ってまで声を荒げたのは、他でもないツナ自身だ。

他の奴なんかじゃない、オレを見てよ。オレは依泉しか見てないのに。オレは依泉にずっと幼馴染み以上の感情を持っていたのに。
そんな言葉は依泉への押し付けでしかないって?そんなのオレ自身が骨身に染みて分かってるさ。止まらないんだから仕方ないだろ?
あぁそうそう。今朝言いかけた事だけどさ、オレが最近寝坊しなくなった本当の理由は、山本が朝練でいない間に少しでも依泉と一緒にいたいからだったんだよ。

しつこいようだがこの状況下でツナの精神は恐ろしい程冷静だ。それはそれは、人生で一番冷えきっていたかもしれない程に。言うことを聞かない身体は、正直なのかありったけの本心を曝け出していたが。

「オレはずっと依泉の事が……」
「ツナッ!」

キィン、とさっきまで弱々しかった依泉の声が鋭く響いた。途端幽体離脱でもしていた気分になっていた“ツナ”がはっと息を呑む。
主導権を取り戻した身体には小さな重力がかけられていて、震える依泉の右手が、懇願するようにツナのカッターシャツの片袖を握っていた。そこでようやくツナは「しまった」という顔をした。

「……依泉、」

男子としては低めのツナの身長でも、それより低い依泉に俯かれてしまっていては表情が分からない。名前を呼べばゆっくりと重なる視線。それは今にも泣きそうな表情をしていた。

「っ依泉……」
「……ごめん、ツナ!」

表情だけじゃない、泣きそうな声で振り絞るように出した言葉を残して、依泉はツナを振り返る事なく走って行った。背中が遠退いて行く。


片想い+片想い=崩壊

張り上げた声も伸ばした右手も、全ての行動は意味をなさない。全てが手遅れだった。
オレはいつから間違ってたんだろう?
空虚だけを握り締めたツナは、その場から動けない。後悔したってもう遅い。一番して欲しくないはずの表情を、オレがさせてしまったのだから。


執筆2007.11.11.sun
加筆2009.05.21.thu

2 / 2 | |

|


OOPARTS