*これは「片想い+片想い=崩壊」の短い続編集です。
ここに登場するキャラ達はその殆どが自分の為に人を犠牲にするような行動をとります。キャラ崩壊、裏切り、失恋、不幸エンド……それらに嫌悪感を抱く方は閲覧をお控え下さい。

*案内
01P 依泉と京子
02P 京子と依泉
03P 依泉と山本
04P 山本と依泉
05P 獄寺と依泉




右足、左足と動くリズムに合わせて(そんな高尚なものではないけど)忙しなく左手右手も動き、身体全体が風を受ける。
無我夢中とはこういう事だろうか。とっくに息が上がっている事も、お母さんのゆったりとした「おかえり」も無視して私は荒々しく自室の扉を開閉し、一目散にベッドへと飛び込んだ。


『オレは依泉が好きなんだ……!』


突然全力での運動をしたせいで心臓はどくどくと煩く働いていて、しかしその心拍数の異常さはそれだけが原因でない事も確か。思い出しては身体が火照る。頭の中で壊れた機械のようにリピートされる幼馴染みの言葉。
吃驚した、吃驚した、吃驚した!

私の山本君への想いを当然のように応援してくれたツナ。私の山本君話をいつも文句一つ言わずに聞いてくれていたツナ。勝手に彼は京子ちゃん狙いだと思ってた私は、密かにその恋を応援していた。
なのに、それは全て私の思い込みでしかなかったらしい。そうじゃない。彼は、私を、好きだと言った。

どうして私は気付かなかったのか。どうして勘違いをしてしまったのか。ツナが感付かれないようにしてたとでも言うの?



結局疑問や後悔、全てが未処理で不完全燃焼のまま私の中に溜まって、そのまま次の朝はやってきてしまった。
登校中、授業中、休み時間。ツナを目にする事はたくさんあったけれど、今日は一度も彼と話していない。こんな事は小さい頃に一度大喧嘩をして以来かもしれない。私からもツナからもお互い話しかけようとすらしないまま、私達は昼休みを向かえた。
花ちゃんが文句を垂れつつ係の仕事を押し付けられた事以外、いつもと変わらない屋上の風景。けれどその時友達の京子ちゃんに言われた一言が私を再び悩ませた。


「私、ツナ君が好きなの!」


ぽろり。思わず掴んだ卵焼きを落としてしまった。幸いな事に落下地点はお弁当箱の中だったが、開いた口は全く塞がらない。え、と間抜けな声が出るも、今一言葉の理解ができなかった。

「ずっと黙っててごめんね!なんか、恥ずかしくて……」
「そ……そうなんだ」

もじもじと赤くなった顔を俯けて言う京子ちゃんの姿は恋する乙女そのもの。でもどうして、寄りによってこんなタイミングで暴露されたのか。昨日の今頃なら私の顔は不気味な程に緩んでいただろう。

『ツナ、やったね!京子ちゃんと両想いだよ!』

そう、言えたのに。
意気消沈していると、いつの間にか顔をあげていた京子ちゃんがまたまた苦しい質問をしてきた。

「ねぇ、依泉ちゃんは山本君が好きなんだよね?」

山本君。その名前にどきりと反応したのは恋のせい?それとも昨日ツナに言われた言葉のせい?
小さく頷けば、京子ちゃんは大袈裟な程顔を綻ばせる。依泉ちゃんがライバルだったらどうしようかと思った!なんて嬉しそうに微笑むは天使の笑顔。

「私勝ち目無さそうだもん!」
「あはは……そんなの。京子ちゃんのが可愛いじゃん」

対して私は明らかな作り笑いだ。その顔もさぞかし引きつっているだろうけど、ツナの本当の気持ちを知った今、それは仕方ない事で。京子ちゃんはにこにこと笑いながら、私の恋に協力する代わりに京子ちゃんの気持ちも応援してほしいのだと言う。
あぁ、どうしよう。前なら言われなくても勿論!と即答していたのに。どうすれば良いのかなんてそんなの分からないクセに。心配するように声をかけてくれた京子ちゃんに、私の出した結論はYES。友達を騙したような感覚に罪悪感というものが胸を締め付けていく。

「ありがとう、依泉ちゃん!」

にっこり笑った京子ちゃんに、どういたしましてって言った私の笑顔は、きっと上辺だけのものだっただろうに。


告白+告白=困惑

振り切れない自分がいる。

中学生に上がって最初にできた友達で、とても大切な京子ちゃん。彼女の応援をしたいのは本心だけど、今回は勝手が違う。
軽々しく協力すれば、ツナの気持ちを踏み躙った事になる。ツナの気持ちを尊重すれば、それは京子ちゃんの期待への裏切りを示す。悲しませてしまう。

どうすれば良いんだろう。どっちも大切だからこそ、どちらかが選べない。
なのにその場しのぎに京子ちゃんを取った私は、なんて酷い人間だろうか。


執筆2007.11.11.sun
加筆2009.05.21.thu

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