「忠告した直後から堂々、新一君と話してるのクラス中に見せつけたんだって?」
閑散とした倉庫裏のシチュエーションは中々応える。遠くでやっと部活生の声が聞こえる距離の不便さもあって恐らく滅多に使われてないんだろう。
放課後に単身敵地に殴り込み、なんてシチュエーションじゃない。勿論例の如く私の方が連行された訳だが、まあ結果今の状況には変わりない。場所が校舎より人目を避ける上あからさまなイジメの定番になった辺り今度は隠しもせずに、それこそリンチになるかもしれない。というか人数増えてないか、これ。
「あれだけ言っても分かんないんだ。で、痛い目あっても無視なんて馬鹿じゃないの?」
「あれ、てっきり私は難癖つけてストレス解消暴れる口実欲しさと思ってましたが。違いましたか」
そんな訳はないのだけど、ピキリと本当に額が音をつけて青筋を立てた気がした。宥める為かその隣の女子が言った「そう言ってアイツ、どうせその場凌ぎに気がない風に見せたいだけでしょ」はそれはもう見当違いだが、私が言ったところでヒートアップするだけな気がする。
というかやっぱり新一君から話しかけて来たとはいえ、直後に喋ってたのはまずかったな。だから放っといてほしかったのに。
「もう何でも良いから、コイツ黙らせちゃおう」
上級生を筆頭に全員が動き出そうとしたのを見ていい加減うんざりする。今度こそ見えない箇所狙いなんて甘い事はなしだろう、むしろ登校拒否にするくらいのつもりでかかってくるかもしれない。
更に残念な事には、放課後のチャイムで彼女らを止められる訳もなく、ブレーキがかかるものが現状で何一つ思い付かない。
とりあえず何もしないよりマシだと信じて話してみるべきか。言い訳みたいに聞こえる事は言いたくないが、せめて考える為の時間稼ぎにでもなれば良い。
「何をどう勘違いしたかは知りませんけど、そもそもが間違ってるんですよ」
「今更弁明ってやつ?生意気もここまで来れば命惜しい訳だ?」
命って殺す気かと耳を疑いたくなる。それくらい言いたくなるほど、この上級生は特に熱狂的なファンだとでも?女の私怨って恐いな。
「私が毛利さんの邪魔をしている?新一君を狙っている?冗談よして下さい」
「……あっそ、アンタの生意気が消える事ないって分かったわ。喋ってれば?舌噛むだけだと思うけど。こっちはこっちで好きにさせてもらうからさ」
じゃあ、喋らせてもらう事にする。忠告有り難いがさすがに舌噛むなんてこの状況でそんな間抜けはしないから有難迷惑だが、試合開始の予告は有り難く受け取っておく。
もう時間稼ぎにはならないが勘違いされたままも困る。結果が変わらずとも、言った事実はとりあえず作らせてもらっておく。
「私はね、新一君の役に立ちたいだけですよ。先に言っときますけどね、彼が世間で話題になるような人物だからとかそんな浮ついた理由じゃないですからね。まあ、細かく言う気はないですけど、つまり言っちゃえば恩返しなんですよね」
口を開くと同時に初っ端からまた腹部目掛けて飛んできた攻撃を横に移動して回避する。力一杯な単純な動きだったから、避けるのは容易い。
言い訳かもしれないが、昼間は油断していただけだ。女子高生が本気で殴り掛かってくるとは思わなかったのもあるし、予想外に重い攻撃で避けないと危険なほどだとは思っていなかった事もある。正直、避ける気すらあればそこそこ身体は頑張ってくれるのだ。
一応私にも社長令嬢とか、特に一人娘の立場とかからして培ってきたものがある。
「そもそも私今恋愛なんてしてる気分でもないですし、貴女方が新一君に恋愛してるならしとけば良いじゃないですか。毛利さんの事だってそうです。私には関係ありませんし介入する気なんて以っての外です」
次々来る女子のパンチにキックで最早光景的には乱闘に近い。横から来た拳を身を引いて避ける。不意打ちで死角からきた蹴りは避けきれなかったが、掠る程度な上いかにも喧嘩馴れしていない弱々しいものだったからほぼダメージなしで助かった。
正直こちらも喧嘩馴れなんてしちゃいないが、一度目を避けれた事があって何とか避ける感覚を眼や脳や身体が思い出してくれたようだった。
「良いですか、いくら新一君と言えども私は彼を人として、それか探偵として尊敬してるんですよ。別に男性として見た覚えはありません。彼が平成のシャーロック・ホームズなら、私がなりたいのは彼の役に立つジョン・H・ワトスンなんです。彼を魅了するアイリーン・アドラー役なら毛利さんがなればいい」
「新一君新一君って、学習したら?アンタがそうやって呼ぶの、腹立つのよ!」
私の長い説明は全部スルーか。まあ、正直最後の毛利さんの下りは、彼女達にはアドラーになれっこないっていう皮肉も込めていたんだけど、気付かれなかったようで助かる。むしろアドラーを誰か知らない可能性も高いが、私もそれほど詳しくないので閉口する事にしておく。
本当うんざりする。今、溜め息ついても許されるんじゃないか、なんていつの間にか気を緩めていたのに気付いたのは、ぎりぎりに迫った重そうな拳を身体が避けきる体制になれていないと気付いたのと同時だった。
「やーっと当たった」
「……った」
腕に蹴りで一発食らわせるなんてとんでもない真似をしたのはやはりあの労働係の上級生で、連続してスカだった苛立ちがやっと解消されたように嫌な笑みが髪の隙間から見えた。身体柔軟過ぎるだろ、なんてどうでも良い事なんだけど。
よろけた体制を整えようとすれば、その足のちょうど向う脛の辺りに思い切り蹴りを入れられ片膝をついて一瞬力の抜けた体重を支える羽目になる。本当この人の蹴りだけは何か専門的な運動をしていそうな威力に思えるくらい、他とは桁違いで笑えない。今まで整っていた息がリズムを崩されたのを皮切れに乱れ始めた。
「ちゃんと忠告してあげたのに。お喋りで喧嘩の体力消耗するなんて馬鹿じゃない?気を取られるなんてもっと馬鹿」
喧嘩じゃない、これはイジメかリンチと呼ぶべきだ。と思いつつも、自分がいじめられてる図というのが想像にたえなくて否定するのはやめた。言われなくても一発入れられた時点で今度こそ喋ってる余裕はなくなった。弱気じゃないが確実にあちらのターン開始だ。
ぐいっと引っ張られた襟元に、次に来るのは蹴りじゃなさそうなのが不幸中の幸いかなんて私もどうかしている。あくまで私は回避に慣れているのであって、捕まえられた時の対処法は中々身体に染みつかない。恐らく来るであろう顔への痛みに目でも瞑るべきかと考えを巡らした時だ。
「何してんの!」
ピタリ、と周囲からの風を斬ったような勢いが止まる。同時に殺気も綺麗にごみ箱行きだ。私の襟を引っ張っていた手も引っ込められた。何が瞬時にここまで形勢を変化させたのか、勿論聞こえた声である。けれどひとつ問題がある。その声の主がよりによって、彼女だなんて。
「え……毛利さん?」
神の恩寵かそれとも悪戯か
2011.06.19.sun
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