「私に構うだけ時間の無駄ですよ」

せかせかと気忙しく私の世話を焼いてくれながらも、今回の事についての顛末を聞きたがっているのは目に見えて分かる。そりゃあこうなった理由について自分の名前が出てきたら気になるのは当然だろうけど。そういえばさっき毛利さんは私と仲良くなりたいだとか言っていたから、それのついでにも言っておく事にする。
半端な期待ほど裏切られた時には辛いし、私だって余計な気を使う必要もなくなるし、淡い期待なんて起こさないように悪い芽は早々に潰しておくべきだ。
だから、もう私と友達になろうだなんて気を使う必要ないですよ。金輪際もうこんな誤解が生まれないように、きちんと蹴りをつけるつもりだった。なのに。

「いやよ」

いくらなんでも即答までは予想してなかった。無駄なんかじゃないし、思った事なんてないから。だなんて言い切りキッと私を睨むようにした目は凄みがあって、けれど何故だろうか、どこか寂しげに見えてしまう。

「ちゃんと新一には心開いてるじゃない。気を使ってなんかない、私が好きで話しかけてるの」
「でも、聞いていたでしょう。私はこういう奴なんです。私なんかと関わった所で何の得にもならないって、さっきよく分かったはずです」

私はあの時新一君周辺全部に関して勝手にしろとか、関係ないと言い切ったんだ。なんとなく聞いていた気がする、毛利さんが私を軽蔑するにはもしかしたら充分なんじゃないかと思う。それなのに彼女はまた、「むしろ謝るべきは私の方じゃないの?」と自分の名前が勝手に出されていたというのに、それを真に受けるなんて。

「それに、友達って損得じゃないって私は思う。人間だから、誰だって知らない内に嫌な事だってしたりされたりするかもしれないよ?でもそれで友達じゃないなんて、私なら絶対言わないから」
「……え?」

今、なんて言った?私なら、なんてまるで私が過去に言われた事を知っているかのように。まさか?過ぎった可能性は大当たりだったようで、「新一から聞いちゃったの。ごめんね」と申し訳なさそうに言われた。
大方、私が編入早々新一君には面識があった事、自分から話していた事が気になった結果問い詰められた新一君が事件の詳細まで言ってしまったんだろう。探偵は秘密厳守が鉄則なのに、それとも彼女には甘いんだろうか。いや、聞いたのは鈴木さんな気もするが。

「それに言ったじゃない。外輪さんが私達に打ち解けてくれるまで待つって。私、がんばるから」

毛利さんの事、完璧っぽくて自分が関わるタイプじゃないかと思ってたけど、結構好きかもしれない。隅にあった猜疑心で彼女を否定してた私は馬鹿だったんだろうか。恐らく私はちゃんと分かっていた、毛利さんの澄んだ瞳と、媚びへつらう人間の濁った瞳は明らかに違うから。ただやっぱり精神か何かの抵抗があって馴染み難いのだって紛れもない事実であって。



「新一君とはあの日以来の再会だったんです。一日で築いた絆なんて宛てにして帝丹に来たんですよ、私。やっぱり馬鹿らしいと思います?」
「そうね、馬鹿だよ」

何て切り返しをしてくるだろうか。物音のしない廊下を歩きながら教室へ鞄を取りに向かう。別にその答えでどうこうするつもりはないけれど、毛利さんを試してみたのはほんの好奇心だろうか、それとも彼女に興味がわいたのだろうか。やはり気を悪くしないように気を使って使って考えたような生易しい答えなんだろうと確信していた。なのに間髪入れず返ってきたのは、それとは反対に躊躇も何もなく感じた事をそのまま吐き出したような何の飾りつけもされない剥き出しの言葉だった。

「一日でだろうがなんだろうが絆は絆でしょ?ううん、一日で築く方がずっと難しいもの。それがせっかくできたのに、疑うなんておかしいよ」

疑うなんておかしい、だろうか。けれどそもそも絆と呼んで良かったのかも不明だ。これは私の方からしか伸びない矢印の可能性もある訳で、単なる一方的な信頼や憧れの可能性の方がずっと考えられる。これをマイナス思考とせずに、経験からの妥当な判断だと個人的には思っていた。


「遅ぇっつの」
「もーアンタ、どこ行ってたのよ?」
「……」

2−Bの教室の扉を開けると、そこには新一君と鈴木さんがいて、私達に気付くなり当然のように声をかけてきた。私としては当然、教室には既に誰もいないと思っていたのに。

「私が教室棟、新一君が特別棟で、他探すから教室で落ち合おうって言ったの蘭じゃない」
「ごめん、連絡するの忘れてた」
「ま、なんとなく分かったけど」

毛利さんを待っていただけならまだ分かる、彼女ら3人がわざわざ私を探してくれていたなんて。これまでにない状況の為か心臓が少しばかり忙しない。私、本当に馬鹿だ。彼らは毛利さんの言った事を疑いもしないで一緒になって学校中を走り回っていたのだ。それがきっと彼らの信頼への当然の結果なんだろう。
少し毛利さんが羨ましく思えた、当然のように身近にある信頼は、これほどまでに安心できる。
キンキンと表現しても良い程によく通る鈴木さんの声が、静かな教室では余計に大きく響く。じろりと私のそこかしこに手当てを受けた跡があるのを見て、毛利さんの苦笑いを見て、吊り上げていた眉をいつもの調子に戻した。新一君は遅い事に対しては元々そこまで怒っていた訳でもなかったのか、ふと目が合ったのを切っ掛けに何故か真剣な顔をして近付いてきた。

「やっぱり、転校生いじめか?」
「違います、言う気もありませんし」
「オメーなぁ。いい加減に、」
「多分、もう大丈夫だと思うよ」

これはまた面倒臭い事になりそう、だなんて思いながらも私も中々頑固なものだ。今に説教でも始めそうな新一君の言葉を遮って、毛利さんがエヘンとちょっと誇らしげに腰に手をやった。

「私が、拳で分からせたから」
「……そ、そうか?」

彼女の良い笑顔に、逆に頬を引き攣らせた新一君はそれ以上何も言わなかった。ちなみに鈴木さんは上機嫌で、彼女にでかしたとでも言い出しそうだ。
あの言い方だと誤解を招くかもしれないが、実際は毛利さんは犯人に指一本触れてやいない。私がこの話題を疎む様子を見て、話を強制終了させる為にわざわざあんなインパクトを出した言い方をしたって事はさすがに私でも分かった。彼女がやたらに女子に手を上げるとは思えないので、犯人は男子だと錯覚させるのも兼ねているかもしれないが、そうだとしたら彼女はかなりのやり手だ。
そそくさと逃げるように鞄を持って教室から出ようと歩き出した新一君の目を盗んで、ちらと毛利さんを見れば目があって、お礼を言えば得意気に笑った辺り私が彼女を過信し過ぎている訳じゃなさそうだ。

「もうしばらく、待っててもらえます?」
「勿論よ!でも、早めにね」
「努力します」

改めて言うのは何だか照れくさくて、呟くように言ってみたものの毛利さんにはしっかりと聞こえていたらしく、一瞬きょとんとした顔はすぐに満面の笑みに変わった。もしかしたら初めて見たかもしれないその綺麗な笑顔に、帝丹に来て良かったと思える事がひとつ増えた。


一件落着と約束


2011.06.19.sun

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