「説明して下さい。これ、どういう事ですか?」

絶対的劣勢にいた私に素晴らしいタイミングで現れたのは、紛れもなく私が心を許さなかった彼女で。いざとなったら逃げる、どころか彼女はこの光景を見た上で逃げも隠れもせずに私を助けようと立ち向かってきたのだ。
その毛利さんが睨みをきかせて怒気を含んだ声を発する。彼女の背中越しに見えた工藤ファン達は心なしか顔が青かった。

「昼休みから新一が騒いでたのってまさか、こういう事?こんなに大勢が寄ってたかってイジメなんて…」
「違うの、私達、貴女と工藤君の応援してるのよ?なのにいきなり出てきて外輪さんが2人の邪魔するから」
「ねっ?私達はただ忠告しただけで……」

恐らくイジメという言葉に形勢逆転の糸口でも見つけたつもりだったんだろう。一気にまくし立てるようにした彼女らに対して、その言葉を聞くなり一層毛利さんの眉間の皺は増えた。こういういい子タイプにはむしろ逆効果なんだって、気付けば良いものを。散々な私の仕事をこれ以上増やさないでほしい。

「何それ……私のせいで外輪さんがこんな事になってるって事?新一も関係あるの?」
「違います、毛利さん!貴方は関係ないんです。だから早く逃げて下さい」
「どうして逃げる必要があるの?」
「だから、それは!」

失言だ。逃げろだなんてこの状況を肯定してしまった証じゃないか。どうして?なんて答えられるはずがない。
言葉に詰まってしまった私に対して、毛利さんに媚び入ろうとした彼女らは今度こそ決定的な失言をする事になる。それに伴い私の苦労も水の泡だ。

「そうよ!外輪さんが悪いんだから、ねえ!?」
「私達の言った事無視して、毛利さんの邪魔するから」

さっきまで困惑の表情をその顔にしっかりと浮かべていた毛利さんが、いつの間にか睨むに近い顔をしていた。

「私、そんな事頼んでません。それに望んでません」

毛利さんはあのお強い上級生にも尻込みする事なく、むしろ反対であちらの方が毛利さんを恐れてでもいるような気がしてこれまた謎だ。

「外輪さんとは友達になりたいと思ってるんですよ?本当に私の為だって言うなら、こんな事絶対しないと約束してください。してくれないって言うのなら……」

集中力を高めるかのように、すぅっと空気を取り込んだ毛利さんは一体何を始める気なのかと疑問に思っていた私は、次の瞬間心臓が止まるかと思ったものの止まったのは思考回路だけだった。
バキィッとひどく不吉な音がして、彼女の隣に位置する倉庫の壁が冗談みたいにへこんだのだ。

「……へ?」
「次はこうなるかもしれませんよ?」


帝丹高校はセキュリティには力を入れているのか、今ここにある倉庫もコンテナと変わらない作りのもので、決して強度不足とは言えないものだ。だと言うのにそれを拳一本で思い切りへこませ、その後にもなんでもないように真顔で、赤くなった拳を労わる事もせず、毛利さんはそう言ってのけたのだ。

しん、と静まり返ったその場は、次の瞬間に大勢いた女子達が「ごめんなさい」とか「もうしません」とまでの謝罪の言葉を吐いたかと思えばそのまま命が恋しいとでも言うように一目散に逃げて行った事で、その間だけ随分騒々しかった。
その光景を目の当たりにしながら、昼間の出来事から頭の中にあったせいでモヤモヤとさせられていた疑問が、ようやく合点がいって妙に納得した。
あれだけ熱狂的なファンが彼女にもなっていない幼馴染みで、それも新一君と両想いであろう毛利さんに実害を及ぼすどころか認めているだなんて何か理由があるとは思っていた。
新一君の幼馴染みとして、とか。新一君にお似合い、とか。彼女の性格ゆえ、とか。色々建前的に言われたり考えていたりしたけど、そんな事よりも何より自分達が彼女を敵に回す覚悟がなかったって事だったんだ。あの上級生よりもむしろ毛利さんこそが真に曲者だったわけだ。

「大丈夫?外輪さん!」
「大丈夫です、ありがとうございます」

ふと思考を現実に戻せば、いつの間にか目の前に来ていた毛利さんに、反射的に素っ気なく返事をしていた。助けてもらっておいてまだ信用できていないらしい自分に呆れながらも、そんな態度も自分の拳の痛みも気にした様子もない毛利さんはタフだなと思う。逆に私の怪我の心配をし出すくらいだから、本当にこの人には驚かされる。

「これ、痣になるんじゃない?」
「平気です」
「だめよ!ちゃんと保健室行こう。ね?」

断ってみたものの正直痛いのは痛いんだし、うんと言わないとここから動けない予感がして結局折れたのは私だった。保健室に着くと擦り傷やら何やら手当できそうな所は案外沢山あって、そういえば掠る程度なら何度もあったなと思い出す。ついでに昼間の分も放置したままだった。
やはり先生に手当てされた毛利さんの手に、倉庫の方はどうなるんだろうかと思考を巡らせる。壊した張本人の毛利さんの責任になるなら、弁償は私がさせてもらう事にしよう。万一あちら側の責任になれば多少気分も晴れるが、果たして学校に言うべきか。
べたべたと絆創膏やら包帯だらけになった足が恰好悪くて嫌になる。明日からは当分長めの靴下で誤魔化す事にしよう。


「それで、どうしてあんなところに?」

放課後に倉庫裏に呼び出すなんて、あの倉庫が普段から使われていない、もしくは部活動には使われないものしか入っていない証拠だろう。それなのに来た毛利さんは、何部に所属か知らないが制服を着たままだから部活の用事で倉庫に来た訳じゃなさそうだし、文化部ならそれこそあんな場所は通らない。

「どうもこうも、外輪さんを探してたのよ」
「……私?」
「いつの間にかいなくなっちゃうし、なのに鞄とか靴はあるしで、なんとなく嫌な予感がしたの」

軽く絶句だった。嫌な予感は当たるとよく言うが、そんな不確定なものの為に放課後鈴木さんや新一君と帰る彼女が私を探していたと言うのだから。毛利蘭と言う人物はどれだけお人好しなのか計り知れない。一体どうして親しくもない私にここまでしてくれるのかが、分からない。
こういうパターンで頭に過ぎるのはいつも媚を売る中小企業達の存在だが、彼女の親は探偵事務所をしているらしいし、そもそも私が外輪社の一人娘な事は鈴木さんか新一君が話してさえいなければ知らないはずなのだから、媚びているなんて到底思えない。だから余計分からなくて今、判断に困っているんだけど。無償で私に近付いてきた人なんて今までいなかった。

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