私が鐘敦君という人物の事を知ったのは、朋に紹介されてだった。
彼は今時っぽい雰囲気のある普通の男性で、まぁ気は強そうなイメージはあったが特に何がどうしたという事もない。そんな鐘敦君は当時朋と付き合っていた。別にそれに対して劣等感があった訳でもない、彼に恋して奪ってやろうなんて考えた事も勿論ない。私は普通に二人の仲を応援していた。
けれどある日、そんな平和な日常が崩れた。この鐘敦君の本性を知ってしまった事によって。

鐘敦君は私と朋より年が3つ上で、いわゆるフリーターだった。と、思っていた。実際の所は全くの無職で収入口はゼロ。そこまでは正直どうだって良い。問題はここからだ。


彼がギャンブルと複数人の女性からの援助で食いつないでいる事実を知ったのは、偶然見知らぬ女性とのデート現場を目撃してしまったからだった。
朋の恋人がそんな人だと、最初は信じられなかった。けれど調べれば調べる程悪化していく情報。何人もいる女性のひとりだなんて朋に言えるはずもなく、どうするべきか悩んだ末、私は直接鐘敦君に説得を試みた。
問い詰めてみればこの男は朋からも生活費としてお金をもらっているようだった。信じられなかったというより、信じたくなかった。朋とは現在同じ私立高の同級生だが、そこは別にお金持ちだけが通っている訳じゃなく、少数派かもしれないがそれなりに貧乏でなく学力があれば入れる程度の高校だった。朋はそんな少数派のひとりだった。それでも最近バイトに精を出していたのが彼の為だと思えば居ても立ってもいられなかった。
今の状態を続け朋を傷つけるようなら、いっそ朋と別れてほしい。しかしそれがいけなかったと気付くのはもう少し後になる。

なんと彼は付き合うのをやめれば収入源が減る、別れても良いが条件として代わりに私にお金を出すよう言い出したのだ。彼は私が裕福な家庭にある事も朋と特別仲が良い事も知っていたので、恐らく私がこの話を持ちかけた時点で既にその計画を考えていたのだろう。
私がそれを、断れるはずがなかった。


朋ともう会わない事を約束させ、私は彼に手切れ金という名目の生活費だか娯楽費だかを渡すという妙なサイクルに交わってしまった。
それもその時のその一度限りだと思っていたのに、それからは定期的に、具体的に言えば2週間に1度位のペースで鐘敦君は家に押しかけて来るようになった。この時点で既に後悔は何度した事か計り知れないが、朋をネタにしつこく金を要求してきた奴に対して拒否をすれば、きっとまた朋からお金を取ろうとするのは目に見えている。気付いた時には当に後に引けない状態になってしまっていたというのが実際のところだ。
ここまで来ればキレて何度か朋に打ち明けてしまおうかと考えた事もあったが、それでは今までの苦労が水の泡だ。鐘敦君の方は方でお金の為ならと約束はちゃんと守っているようで手出しできない状態だった。

ちなみに、彼に盗聴機を仕掛けていた理由はこれだ。
盗聴内容に一方的に別れを告げられた朋の声が何度か入っていたり、恋愛相談をされた時には良心が痛んだものだが、これも彼女の為なのだと、盗聴機越しに確認できる守られている約束だけが救いだった。



私は勘違いしていたのかもしれない。朋を守る為だと言って朋の知らない内に色々手を回して、トラブルに巻き込まれても朋があの男から離れられるのならまぁ良いかなんて、善人気取っていただけだった。

きっと彼が私の家に来て、お金を受け取っているのを見てしまったんだろう。私を問い詰めるのはできなかったのかもしれない、鐘敦君に聞いたのだとしたら、きっとロクな説明もされず余計に私との関係を疑う事になった。結果何も知らされないでいた朋の末路は犯罪者。
こんな事ってあるのだろうか。最善のつもりだった行いは最悪の結果を生んだ。何もかもお終いだ。友情も、恋愛も、行いも信用も何もかも全て!

「馬鹿馬鹿しい」

隣の朋にやっと聞こえるくらいの声だった。少しの間を置いて声を発した私に彼女は意味が分からなかったのか聞こえなかったのか、ぽかんと顔を呆けさせた。

「馬鹿馬鹿しいです、何もかもが」

自覚はなかった。ただ俯き加減だった私は朋を視界に入れると、酷く冷えた目で見下していたらしい。
こんな男に尽くす女性達の気が知れない。こんな馬鹿らしい交換条件を飲んでいた自分が馬鹿らしい。こんな男のせいで崩れてしまう薄っぺらい友情も、名ばかりの親友という言葉も馬鹿らしい。花の女子高生、そんな風に謳われる年頃の女性がこんな金の亡者の為に前科を作るなんて馬鹿らしい、馬鹿らしくて堪らない。
私の言う意味が理解できないでいたのか、しばらく反論しないでいた朋がまた遅れて動揺したように口を開く。恐らく今ここにいる全員、私にも引いている。けれどそんな事はどうだって良い。むしろ今更だ。

「金の亡者はアンタでしょ!」
「私が?冗談よして下さい」

フッと笑った顔はただの嘲笑になっていたろうか。せめて自嘲になっていなければ良い。朋から目を離して、奥の鐘敦君を見据える。何を言われるのかと若干身構えしたのか、喉が鳴ったのがよく分かった。そんな今の彼の姿からはおせじにも年上には見えない。

「良いですか鐘敦君、私は貴方の金ヅルになる気なんて更々ないんです。朋の為だと思って我慢してましたが、今回の件で目が覚めました。以後私の前には一切現れないで下さいね」

一口にそう言うと、恐らくされないだろうけど反論の隙も許さずに再び朋に向き直る。こっちはこっちでさっき怒鳴った時の勢いはどこに行ったのか、完全に私の雰囲気に負かされているのが何だか笑えてきそうだ。

「それから朋。やっぱり私には無益の信頼関係を築くなんてできないと気付きました。きっと貴女が最初で最後の親友になるんでしょうね」

別に彼女を責めるつもりはない。元はと言えば自業自得だし、今回の件は色々学習させてもらった。ただ、言いたい事だけ吐き出しておかないと気が済まなかっただけかもしれない。「さよなら」と一言、それですっきり決別する為にも。


ひどい終幕


2011.05.25.wed

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