今日も1日が何事もなく無事に終わった。
こうも毎日平和だと弱冠15歳にして、何となくただ当たり障りなく過ごして一生を終える気すらしてくるのだからいけない。
けれどそれはそれでとりあえず苦もない点は大歓迎なのは人間誰しもそうなハズ。

いつものように制服から着替えもせずに帰宅早々ベッドへダイブ。ちょっとした至福のヒトトキってやつである。
1分も経たないで気が済んだら、だらだらと着替えてテレビを見たり宿題したり家の手伝い。それが彼女の日常だった。
のろのろのんびりゆっくりと起き出すのがこの日課のお決まりだったが、今日は何故だか頬がやけるような、全く予想しない感覚に飛び起きるハメとなった。

「熱っ!」

飛び起きる原因となったのは、真夏のような太陽の強い日射しを受け、同じように熱された砂だった。
え?部屋にいたのに、砂?
疑問が浮かぶと共に急に汗が滲んできた。それは熱気を自覚したからで、今この暑さに晒されたばかり、という事になる。
どこもかしこも、見渡す限りは一面の白い砂と雲一つない青い空。あとは透き通った海さえあればバカンス気分が味わえそうだ。

「砂漠の真ん中にどうやれば瞬間移動できるんだって……あ、そっか。夢か」

夢。そう言えばどんなトンデモだって解決できる便利な言葉だ。
ただ、夢なら汗だくじゃなくても良いんじゃないか、感覚とかがやけにリアル過ぎるほどリアルな夢だ。と思うのも夢の中にいるからだろうか。

こんな焼石ならぬ焼砂の上に突っ立っていても何にもならない。夢なら夢で目覚めるまで、砂漠地帯へ海外旅行にでも来た気で楽しもう。
そんなスタンスは甘かったのだと思い知らされたのは、歩き出してしばらく経ってからの事だった。


「あっつい……」

日が高い日中の砂漠。
そう聞けば誰でも想像のつく事で当たり前だが、何はともあれとにかく暑い。そして歩けど歩けど砂一面の景色に変化はない。
ただ砂漠を延々歩くだけの夢なんて芸が無さすぎる。そう思ったところで景色が変わってくれる訳もなく。

高校に入学して早2ヶ月。梅雨時直前でまだ夏ではないが大分暖かくなって、半袖は早くとも厚着にはとっくにさよならしたような時期。
帰ってから着替えもせずにいた瑠々は制服のままだった。長袖ブラウス、スカート、リボンの上に、更にまだカーディガンを着ており、勿論これも袖が長い。さすがに脱いだカーディガンを日よけのように頭の上に持っていくも、熱が篭って逆に暑い。
これで灼熱地獄な直射日光を浴びているとなれば、洩らした声はさすがに大袈裟でもなく正直だ。
そろそろ喉も乾いてきた頃だが、都合よくオアシスなんてものが見えたりする事は勿論ない。

そして極め付けは履いている靴がローファーだと言う事だ。制服と一緒に買ったもので、2ヶ月程度しか履いてないそれはまだ特に汚れなんかは見当たらないのだが、そこは今どうだって良い。問題点はお分かりとは思うが、運動に向かない。
どうせ延々歩くだけの夢なら、見て呉れより痛くない靴を履かせてくれたら良かったのに、だとか誰に向けたものか分からない文句が垂れる。

「ちくしょ……現代人ナメんなよ」

近場な事と制服を理由にちょっと頑張って入学した、そこそこ難関高の制服。まだまだ新しさが抜けてないというのに汗と砂で大変な事になってしまっている。熱中症と脱水症状でこのまま死ぬんじゃないかという気すらしながらもそんな事を考える。
そんな中呟いてみた言葉は誰にも理解されず、いや届く事すらなく。自分の頭に返ってきた言葉が中々むなしい。


足が痛い、喉だってカラカラで痛い、暑い、疲れた。
疲労や夢の待遇の悪さに不満ばかり積もり始めた頃、ふと瑠々の思考は我に返った。
そもそも、この砂漠を越える意味ってあるんだろうか。どうせ夢なんだから、このまま目を瞑れば目覚めた時には現実に戻ってるんじゃないか。砂漠の燃えるような暑さで、直射日光に当たったまま眠れるかどうかが問題でもあるけど。

「何やってるんだろ……私」

今まで遭難者よろしく頑張って歩いてたのが急に馬鹿らしくなってしまった。となれば早々に歩を止めて、その場にぺたんと座り込む。
そうだ。目を瞑ればいい。そうすれば現実の己の目が覚め、こんな夢はおしまいだ。

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