「すっげーよなあ!コイツ、空飛んだんだぜ!?」
「そういえば、絨毯じゃなくて魔法のターバンだったよね……?」
どうも世界観が掴めない。昼間ダンジョンの話を聞いた時は、魔法道具なんてものはそこでしか手に入らないって認識だったんだけど、一緒にダンジョンの話を聞いていた筈のアラジン君が攻略なんてしてるとは到底思えない。でも、空飛ぶ布はどう考えても魔法の類じゃないんだろうか。
でもそんな事ができるなら、アラジン君ならはじめから助ける事もできたんじゃ……と一瞬子ども相手に酷な期待をしてしまった。
当の本人は助ける為ウーゴ君を呼ぼうとしていたけど、笛に砂が詰まって苦戦していた、らしい。
結局その時は諦めて、空飛ぶターバンを使う事にした、と言ったところだろうか。
「そんでそう、あとはアレだな、スゲェっつうとさ!その笛!」
「あー……アレ」
「笛ってこれかい?」
「そう、それだよ。その笛……なに?」
おや。アリババ君、なにやら悪い顔してるぞ。そういえばちょうどその笛の中身を見た辺りから様子が変わった気がする。
そしてその悪い顔に、アラジン君がちょっと怖がってる。
私としてはアラジン君のお友達らしい“ウーゴ君”がまさか青い巨人だったという方が未だに衝撃ではあるけど。しかも笛から出てきて、おまけに首がない。
「なにって……ただの笛だけど」
「中だよ中身!なんかドバーッと出てきたじゃねえか!」
「あぁ、ウーゴ君の事かい?彼は僕の友達さ!まあおにいさん達は“ジン”って呼んでるみたいだけどね」
そのアラジン君の声を聞くなり、アリババ君の笑顔がより深みを帯びた。なんか怖いぞ。
とは言え砂漠での一件の後、他の馬車の運転手がダメにした酒代の返済を手伝うと言った時、彼は自分がやった事だから自分で返すと笑って見せたのだ。そのすぐ後の小さな溜息を見ればやせ我慢なのは明白だけど、それでもアリババ君が悪い人間じゃない事を判断するには十分だった。
そして私にとっては二度も助けてもらった命の恩人でもある。これでも結構信用してるよ。
「で!?どこで拾ったんだ?やっぱダンジョンか?」
「ダ、ダンジョン……?」
「昨日説明したじゃねーか!」
首を傾けたアラジン君の、全く興味がない事への記憶力が怪しい。今のアリババ君の表情より決定的に怪しい。
そして覚えている私は、まあそういう話は好きなので別に苦はないんだけど。昨日より手短となったダンジョンの説明をもう一度頭に流し込む。
謎の遺跡群“ダンジョン”。攻略者には金銀財宝と名誉が与えられる。そしてそれにより得られる数々の権利。他人のつむじを見下ろして歩ける権利、とか酷い言い方だ。
「そしてそのお宝の最高峰が、“ジンの金属器”ってわけよ!」
「それだよ、それ!」
ぼんやり話を聞いていた私は勿論、アリババ君もびっくりだった。さっきまでよく分からない話をなんとなく聞いていたようだったアラジン君が、急に話に食いついたからだ。
「僕はその、ジンの金属器を探していたところなんだよ!」
「え?でもお前それ……もう持ってるじゃん」
「これは違うよ。ダンジョンじゃなくて、部屋から出た時に拾ったものだから」
「部屋?」
アリババ君が聞き返したのを受けて、うん。とアラジン君が頷いた。
部屋から出た時、という言い方に違和感を覚えたのは、私だけじゃなかったようだ。
「というのも、僕とウーゴ君は……昔からずっと“地下のがんじょうな部屋”にいたんだ」
詰め寄るように手と膝で少しずつ前に進むアラジン君に、こちらも座ったまま後ずさるアリババ君。正直私もいきなりの態度の急変に戸惑ってしまっている。
「長い間外には出られなかったんだけど、ちょっと前にやっと外へ出られてね。でも、ウーゴ君は首から上は出られなかったんだ……」
それって監禁?いや軟禁?
なにやら不穏で、物騒な感じがするなあ。こんな小さい子なのに、内に何を抱えているんだろう。
それにウーゴ君。首から下だけだとは思っていたけど、その話だと「部屋」に首だけあるって事なんだろうか。……わあ、何やらグロテスクな想像をしてしまった。
「ねえ、その“ダンジョン”に“ジンの金属器”があるんだよね!?」
「え?お、おぉ……?」
3人で部屋の真ん中に腰を下ろしお茶を囲っていた筈だったのが、変わらず今もそこにいるのは私だけ。そこからお尻を床につけたままで随分後ずさりしたらしく、遂にアリババ君の背中が壁にビタリとくっついた。アラジン君の表情はまるで昂進した気持ちを表すかのようだった。
「じゃあさ……僕をそこへ、案内しておくれよ!」
あまりの展開にアリババ君からは生返事じゃないかというような小さな声しか返ってこなかった。
私はと言えばアラジン君のこれまでとの食いつきの違いに戸惑いつつも、やはりインパクトと言えばウーゴ君の方である。
強大で不思議な魔人を操る、か。ランプの魔人でなく縦笛から出てきた魔人なのがちょっと惜しいところだけど。
「さすが、“アラジン”?」
私の夢の中にしては壮大な冒険の幕開けが予感される話だけれど、確かに私が愛する物語の展開だ。
話を聞きながらやっぱりアラビアンナイトを思い出して、ぽつりと私は呟くのであった。
2013.02.16.sat
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