「あー、あの性格曲がるとこまでひん曲がったヤツのせいで私達死ぬとこだったんだ。一発殴っとけば良かったなあ」
「あ!そう、それにねおねえさん。アリババ君がちゃんとおねえさんの代わりしてくれたよ」
「え……アリババ君が?」
「“人の命が金で買えるかバカ野郎!”って言って、意地悪なおじさんの顔にごつーんって!」
「……アリババ君」
私の事はしっかり止めておいて、自分は結局やらかしちゃったんだ。
冷ややかなのか憐れみなのか何とも言えない視線を送れば、送られた方もどうやら十分自覚済みだったようで、慌てるのを誤魔化すように引きつり笑いをした。
「ま、まぁ……さすがにあんなこと言われりゃな。俺も我慢の限界だったし……」
「あーあ。せっかくあそこまで耐えてたのに勿体ない」
何が勿体ないって、無駄に溜めたストレスと、無駄にヨイショしたオッサンへの道中ご機嫌取りが。
「は!?だってお前、人2人見殺しにして“2倍か?3倍か?”だぜ?人見下すのもいい加減にしろって話だろ。まあやっちまったーとは思ったけど……」
「本当やっちゃったね。アリババ君が我慢やめて殴ったんなら私も気の済むまで殴っとくんだった」
「おねえさん……一発じゃなくなっちゃってるよ?」
「うん。たったの一発で気が済むと思う?」
当然!と言う代わりの意思表示をするように無い力こぶをぽんと叩いて強調させる。
ふたりがちょっと会話の続きに困ってるのは分かってる。でもこのどこにももうやり場のないフラストレーションを、せめて口に出してしまう事で少しくらい発散させてほしい。
「えーっと……それで、砂漠ヒヤシンスはお酒に弱いらしくてね。アリババ君が1樽ぶつけて酔わせた隙におねえさん達の事引っ張り上げたって訳だよ」
「えぇっ結局お酒も投げちゃったんだ。そりゃあのオッサン、アリババ君の事目の敵にもするだろうね」
それは言うなよ……と自分の正義に従ってついでにストレス発散もできた事より何より、借金と怒りを買った事を後悔してしまってる、とばかりにアリババ君が項垂れた。
その良心が働かなければ今頃私は怪物の腹の中だというのにそんなのあんまりだ。腹があるのか知らないけども。
アリババ君の後悔は先には立たない。もうここにいない人物相手に私が叫んで怒っても、届くこともない。
けれどもいやはや、私が死にそうになってる間の地上での展開はなかなか愉快だ。勿論思い出話としてならだけど。
さて、ここからは聞かずとも、私が一番客観的に見れていた。
アリババ君は見事、私と女の子を地上まで引っ張り上げてくれた訳だけど、怪物の動きを止めるのに貢献していたお酒が足りず、まだ酔いが上手く回ってなかったらしい。そのまま地上に戻りきる前にアリババ君だけが例の触手に引き摺り込まれてしまった。
女の子は勿論、酷い咳き込みに襲われて全く動けなかった私はどうする事もできず。
アリババ君は捕まりながらも懐に潜ませていた小刀で応戦するが、捕まったままの足場が不安定な状態では調子も出ない。頭を打たれて急に動きが鈍くなったのは、意識朦朧としているからかもしれない。
このままでは命の恩人は代わりにあの怪物に食べられてしまう。絶体絶命を誰もが感じた。
ところが、ここからが急展開となる。
「飛べ、魔法のターバンッ!」
アラジン君の声だった。
けれどそれは今まで聞いていた子どもらしい声よりもハッキリしていて…いやそんな事はどうだって良い。今、彼はなんて言っただろう。
声の聞こえた方を見るが、そこにアラジン君の姿はなく。急に影が差したのを不思議に思いそのまま視線を上げると、そこには白っぽい布が浮いていた。その上には大量の樽が乗っていて、良く見ると何故か長い三つ編みを解いたアラジン君の姿もそこにあった。
ぽかんと口を閉じる事を忘れたまま「空飛ぶ布の上に樽と少年」、そんな光景にまだ空気を取り戻したばかりの働かない頭が結論を出せる訳もなく。
「諦めないでよ、おにいさん!」
ただただ呆然としていた周囲に悲鳴とは違う形で再びどよめきが起こる。
「おにいさん、嘘ついたの?お金でもお酒でも買えないもの、もっと僕に教えてよ!」
得意気な笑顔が心なしか力強い。たくさんの樽と青空よりも青く輝く髪が風で踊る姿はどう形容すれば良いのやら。
誰よりも早く我に返ったのはその大量の酒樽の末路にただ一人悲鳴のような声を上げるブーデルだった。
「やめろ!変な気を起こそうとするんじゃない!高い酒だぞ、後悔するぞ!その運転手のガキ300人分よりも高いんだぞぉぉっ!?」
こんな言い方をして、いくら貧乏を見下そうとも今ここで周囲全員を敵に回してどうするつもりだろう。人間を金額で考える意味が分からないし、人の命と酒を比べるなんて本当に馬鹿げてる。
気付いているのかいないのか、周囲から強まる殺気のような視線に、ブーデルはより悲鳴のような声を高める。
「よーくよーく考えろ!こんな小汚い小僧1匹とワシの酒、どっちに価値があるのかを……!」
この頃には気持ちと違って私の呼吸の方は大分落ち着いてきていた。ブーデルの悲鳴が懇願になったのなんか誰も聞く訳がない。
「やっちゃえ、アラジン君!」そう叫ばずにはいられなかった。頭上に上げた手をアラジン君が笑顔で振り降ろすと、それに添うように布が傾き、酒樽が全て砂漠ヒヤシンスの上に降り注いだのだった。
2 / 3 | | |
OOPARTS