凍える聖夜 4 / 4
次に開封したハーマイオニーからのプレゼントは、『グリム童話』というマグルのメルヘン集だった。夏休みにハーマイオニーと本の貸し借りをした際、ユリィの一番のお気に入りだったのが『グリム童話』シリーズで、ハーマイオニーはそれを覚えていてくれたらしい。目次によると収録話数が多いらしく、とても分厚くて読み応えがありそうだった。
実は、最初はユリィもハーマイオニーのクリスマス・プレゼントは本を贈るつもりだった。有名な呪文集にしようと思っていたところ、フレッドとジョージ、それからリーに「ハーマイオニーの場合、それは自分で買うだろうから、彼女が自分で選ばないような役に立たないけど楽しいものがいい」というアドバイスをもらった。このアドバイスがかなり的を得ていると感じたユリィは、最終的に本ではなく手のひらサイズの小さな花瓶をプレゼントに選んだ。水を入れると花が一輪咲くだけのシンプルなインテリアで、その花は水を入れ替えるたびに変わるところがおもしろい。マグル生まれのハーマイオニーは魔法界のものに興味津々なので、魔法界の花があれこれ楽しめる花瓶はきっと楽しいはずだ。
ハリーからのプレゼントは定番のお菓子『百味ビーンズ』の大箱、ロンからはグリフィンドール・カラーの丈夫そうなブックバンドだった。ハリーのプレゼントに添えられたカードには『正直なところ、君は裕福みたいだし、何がほしいのかよくわからなかったんだ』と素直なコメントが書いてあった。
フレッドとジョージからのプレゼントは、包み紙を破った途端、シューシューと白い煙をあげてほんの数秒で部屋を真っ白にしたため、タバサが魔法で別の部屋に隔離してしまった。煙が止まるまで中身の確認はできないだろう。ちなみに、その後開けたリーのプレゼントも赤い煙を噴き出し始めたため、同じように隔離されてしまった。
タバサとクーパーからのプレゼントは毎年同じで、タバサはリボン、クーパーからはハンカチだ。
イネーブラ家は祖父の意向で、魔法界では珍しく屋敷しもべ妖精に金銭を支払っている(ユリィもお小遣いを貰うようになってからそれに倣い、毎年タバサにお金を渡している)。といってもかなり少額で、給金ではなく身支度金という名目だ。そもそも奉仕が生きがいの彼らにとっては無償労働が当たり前で、給金をもらうことは恥と感じられるらしく、『これで当家に仕えるにふさわしい身なりを整えなさい』といって渡さないと受け取ってもらえないからだ。タバサとクーパーのふたりはそのお金を、主に自身の清潔さを保つための石鹸代と、こういったイベントごとでの主人へのプレゼント代に使っているようだった。
ひと通りめぼしいプレゼントを開封し終わったユリィは、タバサにプレゼントのリボンで髪をまとめてもらいながら、ハーマイオニーからの『グリム童話』を試しにロンのブックバンドでまとめてみたりした。
「ねえタバサ、暖炉ってどうやって使うの?」
昨夜のことを思い出し、ユリィはタバサに尋ねた。
「暖炉の使い方でございますか?」
タバサが質問の意図がわからないといった態度で首をひねったので、ユリィは補足した。
「えーと、もしタバサやクーパーがいないときは、どうやって使ったらいいのかなって」
「そうでございますね……、この城の暖炉であれば、魔法で火をくべればちょうどいい強さになるようにできてございます。それでも火の強さが足りないようでしたら、地下の大火蜥蜴に薪か胡椒の瓶を何本か咥えさせれば、より暖かくなります――もっとも、そのようなことは召使いのタバサがいたしますから、お嬢さまが地下に訪れる必要はございませんが」
「待って。この城には大火蜥蜴がいるの?」
初耳だった。ユリィは火蜥蜴について本で読んだことはあったが、まさかこんな近くにいるとは全く知らなかった。
「はい。そういえば、危険ですから、まだお嬢さまに見せたことはございませんでしたね。地下に消えないトーチがあって、そこに棲んでいます。私がこの屋敷に来たときにはすでにいましたから、随分と前から暖房設備として飼われていたようでございますね。この家の暖炉はすべてそこに繋がるよう設計されているのでございます」
「知らなかった……」
今度見せてほしいとタバサに頼みながら、ユリィは考える。
この足の怪我や、起きた時に物置部屋にいたことからいって、昨晩の体験はただの夢だったというわけではないだろう。何らかの魔法によるものと考えるのが自然だが、魔法界でも『寝て起きたらいきなり別の場所にいた』というような体験は聞いたことがない。呪いを受けたりした記憶もないから、イネーブラ家の魔法使い特有の事象だろうか。そして、あの場所は一体何だったのだろうか。間取りはこの城にそっくりだけれど、ぼろぼろで寂れていた。ユリィの夢を具現化したものであるとか、実はまったく関係ない場所だったとか、色んな可能性が浮かんでは消える。
「タバサ、羽根ペンと便箋を持ってきて」
「かしこまりました」
ユリィは昨夜のことについて祖父に手紙を書くことにした。
ユリィひとりで悩んでも埒が明かない。イネーブラ家特有の体験であれば祖父が答えを知っているかもしれないし、そうでなくても、祖父は知識人だから、やはり答えを知っている可能性がある。緊急だと書けば、忙しい祖父もすぐに返答をくれるだろう。
タバサが持ってきた羽根ペンをインクに浸しながら、ユリィは手紙になるべく詳細を書くべく、昨夜の記憶を反芻し始めた。