真夜中に落ちたスピカ
同僚と飲みに行った帰り道のこと。明日が休みだからと言って少し羽目を外してすぎてしまい、時刻はすっかり深夜になっていた。当然終電もなく、たまには気分転換でもと歩いて帰路についていた。こういう時、実家から出て会社に近い家を借りていてよかったと思うが、歩くとなると案外距離があり徒歩で帰ることを選択した事を後悔していたころ、路地裏から一匹の猫が出てくるところを見かけた。丁度自分と同じ方向に向かっているようなのでそのまま後をついていくと、また別の路地裏に入っていった。猫が入っていった路地裏を何の気なしに覗いてみると、そこには先ほど追っていた猫ではなく少女の姿があった。それも着の身着のままの姿で倒れこんでいる。こんな夜更けに倒れている人物を目の当たりにして様々な想像が一瞬のうちに頭を過り、心臓がどきりと跳ねた。一先ず安否を確認するべく近付いて隣で屈んでみると、小さな寝息が聞こえてきた。――寝ているのか?こんな時間に、こんな場所で、こんな少女が。月明かりに照らされ、柔らかな光を孕んだ髪の間から白い肌が覗いている。薄らと紅く染まった頬をつつくと「んん…」とくぐもった吐息が漏れるが起きる様子はない。暫く様子を見ていても全く状況が変わらないので思わず頭を抱えた。
「……え、これ俺どうしたらいいの?」
思わずひとりごちるが何も解決するはずもなく、まずは警察に電話かと携帯電話に手を伸ばしたが、飲んでいる途中で電源が切れてしまったのをすっかり忘れていた。この辺りは住宅街で電話を借りられるような店もなければ公衆電話もない。アルコールが回った頭でこれ以上考えるのも面倒になってしまい、半ば投げやりな気持ちで少女を抱え上げた。とりあえず連れて帰って少女が起きたら事情を聞こう。職質されたらされたでそのまま警察に引き渡せばいいかと呑気に思う反面、どうか捕まりませんようにと心の中で手を合わせる。幸い自宅までそう遠くはない。未だに寝息を立てる少女を抱き、自宅へ向かって歩きだす。どうか、誰ともすれ違いませんように。捕まりませんように。夢でありますように。今の自分を他人から見た姿を想像したらそう願わざるを得なかった。