薬指の光暈
どうやら天への祈りは通じたようで、誰ともすれ違うことなく自宅へ到着した。ほっと胸をなで下ろし、未だに薄い寝息を立てたままの少女をベッドへ寝かせ布団を掛けようとしたところ、左手の薬指に何やらきらりと光るものが付いているのが目に入った。恐らく起きないであろうと彼女の左手をそっと持ち上げると、一粒の石が飾り付けられた指輪が付けられている。左手の薬指に、指輪。
勝手な事をして悪いと思いつつも、指からするりと外し内側を確認するとプラチナでできていることがわかった。飾られた石のサイズも中々に大きく、ダイヤモンドだとしたらそれなりのお値段がしそうである。こんな高価そうな指輪を、まだ幼さが残る顔立ちの少女が着けている意味とは。
アルコールが回った頭でこれ以上考える事は出来ないと判断し、拝借した指輪を元の場所にそっと戻す。どこにも突っ掛からずにはめられた指輪は少しサイズが大きいようだ。細かいことは明日考えようと寝室を後にし、自分はリビングに置かれたソファに横たわった。足がはみ出てしまうが床で寝るよりはましだろう。この良く分からない状況に、朝起きたら夢だった、なんてことになりますようにと願いながら目を閉じる。どうかいつも通りの朝を迎えられますように。
○
中途半端に閉められたカーテンの間から朝日が差したころ、喉の渇きを覚えて目が覚めた。昨晩の記憶と変わらずソファに寝ていた身体を起こし、寝室の扉を見る。確認するのが怖いところだが、やるしかないだろう。誰もいないことを願ってはいるが念のためノックを数回してから慎重に扉を開く。隙間から覗いた部屋には相変わらず少女の姿があった。昨晩の願いも空しく状況は変わっていないようだ。そっと扉を閉じ、目を瞑って自分を落ち着けるように深呼吸を一つ。その時寝室の扉が勢いよく開き、バンっと大きな音が響いた。
「あだっ!」
「え、あ、す、すみません!」
扉の向こうからは相当焦った声が聞こえてきた。先ほどは自分の身体が邪魔して開かなかった扉を代わりに引いて開けると、昨晩寝こけていた少女の姿がそこにあった。
「あの、もしかしなくてもご迷惑をお掛けしたと思われるところ大変恐縮なのですがここは一体どこでしょう…もしかして私自暴自棄でワンナイトなんてことしてないですよ…ね…?」
扉の向こうにいた巨体の男(我ながら空しい物言いではあるが)を見て後退りし、目線を泳がせしどろもどろに聞く少女は明らかにオロオロしている。他人が焦っている姿を見ているとこちらは逆に冷静になり、「生憎ロリコンじゃないのでそんなことしません」と言うと、少女は目を丸くし、え…と零した。
「見たところ君小中学生くらいでしょ、そんな趣味ないデス」
「…え?」
先ほどと同じような言葉の後、少女は自分の身体をぺたぺたと触って青ざめ、鏡を貸してほしいと言った。何が起こっているのか全く分からずに言われるがまま鏡を差し出すと、それを覗き込んだ少女は更に青ざめた。
「嘘でしょ…?」
小さく呟かれた言葉の後、崩れ落ちるように座り込んだ少女を見て、のっぴきならない状況だと理解すると共に勢いで連れて帰ってきてしまった昨晩の自分を呪った。