髪結い

※三臨の姿

絆が十分に深まってきたこともあり、私は平助に何かしたいと考えるようになった。今までも色々物を贈ったり、二人で時間を過ごしていたが、今回は特別である。しかし考えても浮かんでくるのはいつもと同じようなことばかりだったので、思い切って本人に聞いてみることにした。
「僕『が』してほしいこと…?僕『に』じゃなくてか?」
「うん。平助にはいつも頑張ってもらってるし」
 初めはこういったスキンシップに困惑するばかりだった平助も、今となっては素直に受け入れるようになっていた。それでもしてほしいことを聞いたことは滅多にないので、少し戸惑っているようだ。
「まあ、常識の範囲内にはなっちゃうけど。私にできることだったらなんでもいいから」
「…なら。なら…僕の髪を結ってくれないか」
「髪を?」
 平助は自らの後頭部に手を伸ばし、長い髪留めを解いた。そしてその髪留めを私にそっと手渡してくる。
 私は驚いていた。こんな小さなことを請われるとは微塵も思っていなかったからだ。まるで小さな子供が親や兄姉に強請るような、あまりにも小さい願い。そんなことさえも経験がないのであろう彼のことを思うと、なんだかとても寂しくなった。けれどもそれ以上に、平助が他の誰でもない私に髪を結ってほしいと願ってくれたことが嬉しく思えた。
「いいよ」
 そう言うと、平助はどこかそわそわしながら後ろを向いた。私は平助の白くて柔らかい髪に手を伸ばす。できるだけ優しく、愛情を込めた手つきを心がけながら髪をまとめる。
 普通の髪ゴムとは違ってとても長いリボンのような髪留めなので、結い上げるのに少し手間取ってしまった。どんな表情をしていたのかは分からなかったが、平助は私が苦戦していても黙って待ってくれていた。
「…なんか、めちゃくちゃ下手くそになっちゃった…」
「どんな感じなんだ?僕からはよく見えなくて」
 もう浮かれた様子の平助を連れて洗面所に向かう。鏡に映ったその髪は、お世辞にもよくできているとは言えない出来栄えだった。私が手をつける前とは比べ物にならないし、リボンの左右の長さが若干違ってしまっている。
「そうだな、思ったより下手くそだ」
 身を乗り出すようにしてまじまじと後ろ髪を見ながら、平助はちくりと刺してくる。普段から私のことが大好きなのが隠しきれていないのに、こういうところは意外と容赦がない。
「お前、不器用なんだな」
「恥ずかしいからもう元に戻して…」
「なんでだよ。今日はこのまま過ごすつもりだったのに」
「え!?じゃあ他の人たちにそれ見られるってこと?やめときなって!今ならまだ間に合う!」
「僕は嫌だって言ってないだろ。下手なのを見られるのが嫌なら、練習すればいいだけの話なんだし」
「練習って、させてもらう相手いないんだけど…」
「…なんでそうなるんだよ。僕にすればいいだろ。毎日させてやるから、上手くなれ」
 恥ずかしそうに下を向きながら、平助は小さな声でそう言った。白い髪の隙間から見える耳が、真っ赤に染まっていた。