容量は膨大

※相手が複数

休憩の時間になったので、昼食をとるために私は管制室を出て食堂へと向かった。ピークの時間は過ぎていて、人はまばらだった。
 メニュー表の前に足を運ぶ。既に終了しているものがいくつかあったが、それでもまだ残っているメニューはちゃんとある。さてその中から何を選ぼうか、と考え始めたところで、近いところで魔力の流れが歪んだのを感じた。
「何にするんだ」
「あっ、阿礼ちゃん」
 私が召喚したサーヴァントである稗田阿礼がそこに現れた。先程まで霊体化していた様子だが、私が食堂を訪れる時間を予測していたのだろう。私が昼食に何を選ぶのかもきっと予測できているはずなのに、彼は毎日絶対に聞いてくるのだった。
「中華にしようかな。阿礼ちゃんは?」
「僕もそれでいい」
 阿礼は毎回私と同じものを選んでいる。先んじて『何を食べるの』と聞いてみたこともあるが、彼の答えが変わることはなかった。たまにいたずら心で変わった者しか選ばないようなメニューを選んでみたことがあったが、それでも嫌そうな顔をして同じものを選んでいた。意外にも美味だったので驚きながら阿礼の方を見ると、好ましそうな表情をしていた。
 キッチンの番人に注文すると、すぐに二人分が出てきた。私たちはそれぞれの分を持ち、適当な席についた。阿礼は私の正面の席に座ったが、これもいつものことだった。手を合わせ、箸を持って餃子を口に運ぶ。
「あっつ…!」
 できたてだったせいでものすごく熱い。ひとまず箸を置き、口元を手で軽く覆いながら、はふはふと少し熱めの息を吐いてなんとか嚙み砕いていく。食事中のためいつも布で覆われている阿礼の口元が露わになっているせいで、今の私を見て若干口角を上げているのがよく分かった。
「おまえ、何故冷まさずに食すのだ…」
「あっ、泰広…」
 呆れたような声が聞こえてきたと思ったら、阿礼と同じく私のサーヴァントである土御門泰広がそこに立っていた。面布に覆われているので分からないが、どんな表情をしているのかは想像がついた。
 泰広の方はもう昼食を済ませているらしく、そのまま私の隣の席に座ってきた。私たちが選んだ料理を一瞥すると、なぜか小さくため息をついていた。何か言いたいことがあるのかと思ったが、特に何も言ってこなかった。
「阿礼ちゃんってさ、結構ちゃんとご飯食べるよね」
 私とは違い、レンゲで掬った炒飯に息を吹きかけてある程度冷ましてから、阿礼はそれを口に入れた。
「どういう意味だ、それは」
「だって、『前』に何か食べてるところなんて一回も見たことなかったから」
「状況が状況だからな。それに、土御門や霊脈からの魔力供給でも十分だった」
「まあ、それはそうなんだけど」
 セイバー、もといヤマトタケルなんかはものすごく食べていたようだったが、阿礼は何も口にしなかった。あの時は術式や儀の管理で忙しかったし、そもそもサーヴァントに食事なんか必要ないと言われればそれまでのことだが、なんとなく気になってしまう。
「おやつくらいなら差し入れしたら食べてくれた?」
「…それくらいなら、食べたかもしれないな」
 阿礼はそう言うと、目を少し細めてみせた。

 昼食を食べ終えたマスターは、仕事に戻るため一足先に食堂を去っていった。阿礼も少し後に食べ終えたが、食後にすぐ動くことを嫌っているため、まだ動こうとはしなかった。
「よく言うものよな。菓子どころか何も食わないだろう、おまえは」
「僕は嘘など言っていないが?」
 ずず、と熱い烏龍茶をすすりながら、阿礼は白々しく答える。
 阿礼は今でも食事はいらないし、できればとりたくないと考えていた。理由は単純で、面倒極まりないものだからである。盈月の儀の最中に食事をしなかったのもそれが理由だった。もちろんそうでもしないと現界を保てないなら話は別だったが。
「回りくどく媚びおって」
「どうとでも言えばいい。おまえこそ、用もないのに此処を訪れているだろう」
「ふん」
 泰広は懐から紙を取り出すと、それに術式を付与して飛ばした。紙は式神となり、まっすぐ廊下を飛んでいく。行き先はもちろんマスターのもとだった。阿礼の式神は、ストーム・ボーダー内では少し目立ってしまうため、マスターの仕事部屋に既に隠れ住んでいる。阿礼の式神はマスターの行動を逐一監視し続けており、その記録をまとめることで阿礼の一日は終わりを迎える。泰広の式神は、記録ではなくマスターの軽い護衛のような役割を担っている。分かりやすく言えば防犯ブザーのようなものだ。泰広は阿礼が把握しきれないマスターの様子を共有したり、魔術のことで阿礼に力を貸している。その見返りに、泰広は阿礼がまとめたマスターの記録を自由に閲覧できる、といった取引をしていた。
 本当は霊体化して常に側にいてやりたいのだが、それは現実的ではない。普段の仕事部屋ならまだしも、一サーヴァントの立場では干渉が禁じられているようなことをマスターが行う場合があるので、引き離されてしまうからだ。無理に干渉すれば監視の目がついてしまったり、最悪の場合強制的に退去させられてしまう可能性もある。それは非常に望ましくないことなので、泰広と阿礼は可能な限りマスターの行動を見続けることだけを注視していた。
「ところで、先の記録はしっかり取っているのだろうな」
「僕を誰だと思っている?取っているに決まっているだろう」
「ならばよい。疾く見せぬか」
「そう慌てるな」
 阿礼の式神がすすすと移動して、泰広の目の前でふわふわと浮きながら止まった。映像として保存された記録が浮かび上がる。泰広と阿礼のみその映像を見ることができるので、この場所であっても問題はない。
「…おい、これは何だ」
「おっと、僕としたことが、見せる記録を誤ったらしい」
 映し出されたのは、マスターに膝枕をしている阿礼の姿だった。心底愛おしそうな表情で眠っているマスターを見下ろし、優しく頭を撫でている。泰広が眉間に皺を寄せながら阿礼の方を見ると、思い切り小馬鹿にしたような顔をしていた。
「おまえも似たようなことをしてきただろう。これで相子だな」
「あ、あれは不可抗力だったはずだ…!」
「どうだか」