〈番外編〉としこしそば
※現更新時点から数年後のお話です。
今年も残り数時間。本当ならこの年末年始の休暇はジョウト地方に帰省したかったのだが、昨日やっと仕事を納めるという状況だったので諦めてしまった。
ダンデさんも今回は帰省はせずに、シュートシティで年末年始の休暇を過ごすらしい。なので今日から年明け後数日まで、私は恋人であるダンデさんの家で過ごす事になったのだ。
「ダンデさんもうすぐ出来るんでおこたに入っててください」
「オコタ?」
「炬燵のことです」
「コタツか!分かったぜ」
ダンデさんの部屋にはガラルでは珍しい炬燵が置かれている。私の部屋で初めて炬燵を体験したところ大変お気に召した様で、気が付けば導入されていた。
ガラル地方はジョウト地方程冷える訳では無いが、やっぱり冬は炬燵に潜り込みたい質なので置いてあると嬉しくなる。
「お待たせしました〜年越しそばです」
「おお!ありがとう!」
「熱いので気をつけて下さいね」
今回ダンデさんからの熱烈なリクエストで年越しそばを食べる事になった。勉強熱心なダンデさんは他の地方のポケモンだけではなく文化にも興味津々なのだ。別に私は食べても食べ無くてもどっちでもよかったんだけれど。
ラーメンの様に啜って食べるのだと伝えるとすっかり上手に使える様になったお箸でちゅるちゅると食べ始める。
「美味いな!ん?これは何だ?」
「山菜ですね。私が山菜そば好きなんで入れちゃいました。ダメそうだったらこっち入れてください」
あったかいお蕎麦には山菜が恋しくなってしまうのでわざわざ母に冷凍便で送ってもらった。凍らす事によって食感が少し変わってしまうのは仕方がない。
「ん……、不思議な食感だが美味いな!ジョウトではよく食べられているのか?」
「うーん、どうでしょう。私が田舎出身なのでってのもあるかもですね。山に生えてる植物だし」
「山!?」
ダンデさんが驚いた様で勢いよく顔を上げるのにビックリしてお箸から蕎麦が滑り落ちてしまった。ビチャっと熱い汁が飛んできたのをティッシュで拭う。
「山に生えてる草なのか!?」
「草って……まあそうですね。ガラルではきのみやきのこしか食べないみたいですけど、ジョウトでは結構こういうのも昔から食べられてますね」
「そうなのか……」
「あ、でもこれは農家の方が育てたものですからね?変な物は入ってないですよ」
ちょっとショックだった様で恐る恐る山菜を口に運ぶ。だが美味しかった様で今度はちゅるちゅるとお蕎麦と一緒に食べた。
とりあえず一安心。二人分の山菜を食べれるかもと少し期待してしまったのは秘密だ。
テレビでは今年一年を振り返る映像が流れている。今年のジムチャレンジもチャンピオン・ユウリが圧倒的な強さを見せつけた。暫くバトルの映像が続きそうだ。あ。
「ダンデさんですよ」
「ん?」
ガラルスタートーナメントでチャンピオンと組んでいるダンデさんが映し出される。
こんな事を言ってはなんだが、長年チャンピオンであり続けた人物とその人物に勝った二人がタッグを組むのってズルくないだろうか。
「チャンピオン・ユウリ、強いですね」
「そうだな、オレも毎回楽しいんだ」
このままガラル全体で強くなってほしいと言いながら机の上のリザードンが入っているボールを指で転がす。
私はジョウト地方に居た頃からバトルをしないので強い弱いは勝敗でしか分からないが、テレビに映し出されているトレーナー達は結果関係なく皆楽しそうだ。
「……私もバトルしてみようかな」
「っ本当か!」
つい口をついた言葉に瞳をキラキラ輝かせて期待の籠った目を向けられる。
「あ〜、……来年余裕があれば?」
「その時にはオレが特訓してやろう!」
「あ、はは……。お手柔らかに……」
テレビからは間もなくカウントダウンという事で、今年流行した曲をアーティストが演奏し始める。ネズさんも出演している様だ。客席にエール団の姿が見える。
「明日はお雑煮食べましょうね。実家でついた餅も送られて来たんで」
「オモチ!楽しみだ」
来年は彼氏も連れて来なさいよ、と母からの有難い手紙が荷物と一緒に入っていた。実際のところ、会わせろというよりは餅つきの際の人員が欲しいだけなのだ。私は知ってる。
「ダンデさん」
「ん?」
姿勢を正して名前を呼ぶと、すっかりお蕎麦を食べ終わり蜜柑を剥いていたダンデさんがこちらを振り向く。
「今年も一年ありがとうございました。来年も何卒よろしくお願い致します」
「!」
膝の前の床に手をつき座礼をするとダンデさんも炬燵から出て見様見真似で正座をし、そのまま座礼を返してくれる。
「こちらこそ、ありがとうございました。来年も、再来年も、その先もよろしく頼むぜ!」
「ふふ。一年の感謝を伝える挨拶なのに。気が早いですね」
「おっと!つい口が滑ってしまったな」
剥いていた蜜柑に手を伸ばし一房手に取ったかと思うと私の唇に押し当てて来る。暖かい部屋に置いていたので生温い。
「まあ、オレはそのつもりだから問題は無いな」
「……っんぅ」
蜜柑をぐっと押し込まれたかと思うとすぐにダンデさんの唇が追いかけて来た。すぐに舌がぬるりと入って来て二人の舌で蜜柑の果肉を潰す様に動かされる。口の中がじゅわりと甘酸っぱい味でいっぱいになった。
そのまま唇同士が離れてはくっ付き、くっ付いては舌を絡ませあってを何度も繰り返す。
やがてぼんやりと霞みがかった思考で、テレビから三十秒前のカウントダウンが始まっている事に気付く。ダンデさんにも聞こえているだろうに離れてくれる様子はない。
一応折角のカウントダウンだしと抵抗を試みるものの、本心では私もそんな事望んでいないので全く無意味の形だけのものになる。
そしてそのまま日付が変わるまで、いや日付が変わってもダンデさんからの口付けを受け続けるのであった。
・
・
「ちゅ、ちゅっ。……ふふ。明けましておめでとう、だぜ」
「ぷはっ、はぁはぁ……。ふふっ、おめでとうございます。……んぅっ」
改稿:2021/12/31
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