06
「チャンピオン、此方次回ジムチャレンジの概要です。今週中にご一読下さい」
「分かったぜ!」
「チャンピオン、先日の他地方との親善試合についての報告書です」
「ありがとう!」
「チャンピオン!ワイルドエリアにてポケモン同士の激しい衝突が起きていると連絡が」
「分かった!今すぐ行こう!」
ヤバチャは此処で待っていてくれと私の頭の渦巻きを撫で、バタバタとダンデが部屋を出ていく。今日は何故か職場に連れて来られた訳だが、とにかくダンデは忙しそうだ。
朝からひっきりなしにリーグスタッフの人が仕事を持ってくるし、かと思えばダンデ自身が現場へ向かう。ただバトルをしているだけではないんだな。チャンピオンってとても大変。
よくこんな生活を十歳から続けられるな。あと何年あるの?本当すごいや。
ひろーい部屋に一人きり(一匹きり?)。ダンデはワイルドエリアに向かってしまったし、一緒に来ていたリザードン先輩も勿論ダンデについて行った。
暇だ。朝から暇だったけど、本当に暇になってしまった。何もすることがない。部屋も殺風景で難しそうな本が沢山詰まった本棚しか置かれていない。ダンデはこれを全部読んだのだろうか。
惰眠でも貪るかと机の上で大人しくしていると扉が開かれる。
「ダンデくん……、おや、居ないのか」
あー!ローズさんだ!ちょっと若い!初めて見たー!
興奮で気づけばカップから頭を出してしまい、ローズさんが私を見てポカンとしている。
ヤバい、ダンデには紅茶のフリをしている様に言われていたのに。いやでもワンチャンバレていない可能性が。
「きみは……ヤバチャかい?」
「ヤ、ヤバチャ〜……!」
そんな可能性は無い!しかもすぐに言い当てられた!ごめんダンデ!
顎に手を当てながらローズさんが近付いてくる。こ、来ないで〜!
「なんでヤバチャがこんな所に。……しかも普通のカップとは違う様だね」
「バチャ……」
ローズさんがカップの取手をつるりと撫でて持ち上げる。何をされるのかと怯えていると、くるくる回しながら観察された。は、恥ずかしい。
「これは……。ふむ、最近ダンデくんの様子がおかしいのはきみの所為かな」
「ヤバ?」
様子がおかしい、そうなのだろうか。私は当たり前だが私が来てからのダンデとゲーム本編に出てくるダンデしか知らないのでなんとも言えない。
でもローズさんがそう言うならそうなのだろう。ダンデとの付き合いは長い筈だと思うし。
「てっきり良い子でも見つかったのかと思っていたけど、ヤバチャだったとは。いやはやダンデくんらしいね」
「……」
相談されたティーセットは全部君のだったんだねと少し残念そうに言われる。なんかすいません……。女性へのプレゼントではなく私への住処提供でした。
一応私もメスなんですけどね。いやヤバチャに性別無いけど。精神はメスなので!
ていうかダンデはローズさんに教えて貰っていたのか。そりゃ高級なカップばかり渡される訳だ。さてはダンデって好きな人が出来た時、高級ブランド品ばかりプレゼントしてドン引きされる男か?
「君は、……いや、やめておこう」
「ヤバ?」
何かを言おうとして止めるローズさん。気になる。こんな涼しい顔してとんでもない野望を計画している人だ。私を見て何を感じ取ったのだろうか。
今はただの優しいおじさんなローズさんだけど、やっぱり少し苦手意識はあるのかもしれない。
「引き続きダンデくんを頼むよ。じゃあね」
私をゆっくり机に戻し部屋を出て行くローズさん。
ダンデを頼む、か。ただ人間の意識が宿っただけのポケモンに一体何ができるのだろう。
元の世界には戻れないと言われてしまった今、私の世界の中心は紛れもなくダンデだ。何かできるならしたいけど、何をしたらいいのか分からない。
私はポケモンだもん。難しい事分かんなーい。