05
「アンタがダンデのヤバチャね」
「バチャ〜」
ポプラさんが私のことを観察しながら話しかけてくる。ダンデが早々にスケジュールを合わせてくれたおかげで話を聞いて三日後の今日、私はアラベスクタウンに来訪し、あのポプラさんと対面している。
ゲームよりも若いのかなと思っていたけど見た目はそんなに分からなかった。あっ。失言してしまいました。
「本当に違うカップに入っているんだね」
「はい。いろんなカップを与えていますが特に拘りは無いみたいです」
「ヤ〜……」
ダンデの返答に待ったをかけたい。ダンデが買って来てくれるカップはどれも可愛いし綺麗だ。だが何分数が多く、こちらも気を遣って平等に入っているに他ならない。数を減らしてくれ。
私とダンデの意見が食い違っているのに気付いたのかいないのか、ポプラさんが楽しそうに笑う。
「ダンデ。少し席を外しな。ヤバチャと二人きりで話させておくれ」
「ヤバチャと?……分かりました」
扉の前に居ると言うダンデを折角なら舞台でも観ていきなとポプラさんがジムスタッフに案内させる。いいな、私も観てみたい。
ダンデの姿が見えなくなるまで扉を眺めているとポプラさんが話を始める。
「さて、ヤバチャ。アンタにはまず謝罪をしなきゃね」
すまなかったねと頭を下げられる。なんで私は謝られているんだ。戸惑った声を出しながら顔を上げてとふわふわのストールを引っ張る。
「許してくれるのかい。アンタが周りに馴染めて居ないこと、報告は来ていたんだ」
「バチャ〜」
「アンタは優しいね。……いや、それともそんな記憶は無いのかい」
「!」
ポプラさんの雰囲気がガラッと変わった。私が何者なのか分かっているかの様に問われ、身体がぞわりと震える。
魔術師と言われるだけあって、私みたいな人間の記憶を持ったポケモンの話を知っているのかもしれない。
「アンタ、ポケモンじゃ無いね」
「ヤバチャ……」
「アンタは歴としたヤバチャだが、人間の意識が宿っている。間違い無いね?」
ポプラさんの質問に小さくコクコクと頷く。そんな事まで分かるのか。私は思っていたよりもヤバチャにはなれていなかったのかもしれない。まあ実際のヤバチャを知らないし。
「また珍しい事になったもんだ。しかもダンデが拾うだなんて。あの子は本当に人とは違う運を持っている」
「ヤバ」
「アンタもそう思うかい。……さて、今日の本題だね」
長くなるから座らせてもらうよと古めかしい大きな椅子に座るポプラさん。私はふよふよと近付き、近くの机に身体を乗せる。
「アンタ、元の世界戻りたいかい」
「……」
元の世界。私は死んではいないのだろうか。だからといって戻りたいかと言われると、うーん。
勿論家族にだって会いたいし、贔屓にしてたアイドルとか、俳優とか、テーマパークにだって行きたいし、やりたい事はまだまだある。
でも、今の生活は楽しいし、むしろ元の世界よりも自由に過ごせるから精神的にもゆとりがある。あと何よりも安心するダンデの側で送る、ダンデのポケモンたちとの生活は充実さも感じる。
「おや、そうでも無いんだね」
「……バチャ」
「まあ今すぐには決められないのも仕方ないさ。もし戻りたくなったら、おや」
「?」
私に手を翳したポプラさんが深妙な顔つきをする。な、何を感じ取ったのだろうか。
「いや、アンタ。……戻るのは無理かもしれないね」
「ヤバ!?」
えっ、なんで。さっきまでは戻りたかったら言いに来なさいフフフみたいな雰囲気だったじゃないか。
そりゃそんなに簡単な話なのかとは思ってたけど、いざ戻れないと言われてしまうと動揺してしまう。
「……アンタ、ダンデに何かしたかい」
「バチャ?」
「そうだね、例えば……。自分を飲ませたり」
三日前の出来事を思い出す。飲ませてはないけど飲まれた。落ち込んでいたダンデを元気付けようとして紅茶を用意しようとしたらダンデは何故か私を飲み、元気になっていた。
ヤバチャを飲むと生気を吸われる。確かにあれから私は少し体力が付いた。
「バ、ヤバチャ……」
「だろうね、アンタの魂にダンデの魂が入り込んでいるよ」
「ヤッバ〜〜〜!?」
マジでヤバいじゃんか!私の魂に、ダンデの魂が、入り込んでいる!?そんな事あるのか?いやあるから今そうなってんだ。
ダンデが勝手に私を飲んで、私は生気を吸ってしまって。あ〜〜、ダンデのバカバカ。なんで私を飲んだりしたんだ!
「バ、バチャ〜〜!」
「うーん。私もアンタみたいなポケモンを実際に見るのは初めてだしねえ、こればっかりは何とも言えないね」
「ヤ、ヤバチャ……」
落ち込む私を楽しそうにジロジロ見てくるポプラさん。絶対楽しんでるもん、もう私は一生ヤバチャとして生きるんだ。
さよなら人間の私、中々楽しい人生だったんじゃない。あとは気長に余生のポケ生を楽しもうじゃない。はあ。
「ああ、一つだけ忠告をしておくよ。次にダンデに、」
「あれ、ポプラさん」
「……なんでダンデが此処にいるんだい」
ガチャリと扉が開く音と共に現れたのはダンデだ。鋭く睨みつけるポプラさんに、アハハと笑いながら頭を掻く。迷ったな、コイツ。
「御手洗い借りたら戻れなくなりました!」
「はあ、本当にアンタって子は……」
「す、すいません」
ヤバチャ、と声を掛けられふよふよとダンデの元に向かう。ほぼ無意識の行動だった。言うことを聞くってこんな感じなのかな。
ダンデの掌に乗り頭を撫でられる。
「さっきオリーブさんから連絡があって。戻って来いとの事だったんですけど」
「そうかいそうかい。じゃあとっとと帰りな。ヤバチャとはまた話させておくれ」
「分かりました!」
失礼しますと頭を下げるダンデに合わせて私もペコリと下げておく。ポプラさん、忠告って何だったんだろう。聞かなくてもよかったのかな。
チラリとダンデの肩越しにポプラさんを見ると楽しそうな目と目が合う。多分、忠告と言っておきながら本当はそうなるのを見てみたい、そういう目をしていた。
私はこの時、どうにかして忠告を聞いておけばよかったと後々後悔する事になる。