08

 さっきからトゲトゲチクチクとした痛い視線が突き刺さる。ダンデだ。ソファに座らせてもらっているが歓迎されていないのがよく分かる。
 あれから一応服を貸してくれて身に付けさせてもらった。何歳も下の筈なのに少しダボついているとはこれ如何に。

「で」
「!は、はい……」
「キミは何処から侵入した。ヤバチャを何処へやった」
「えっとですね」

 ヤバチャが私ですと言ったところでふざけるなと追い出されて終わりそう。どうすれば良いのか。

「何処から話せばいいのか……。長くなるんですけど、」
「簡潔に」
「う、」

 こ、こわ……。とにかく圧がすごい。プレッシャーだ、ダンデの特性は間違いなくプレッシャー。
 ええい、お前が簡潔にって言ったんだからな……!

「私がヤバチャです」
「は?」

 大きい目を細めて睨みつけられる。こわいよ〜!助けてリザードン先輩!……そうだ!

「リザードン先輩に会わせてください!そうすれば、」
「ダメだ」
「……」
「キミが何者かも分からないのに会わせられる訳が無いだろう」

 まあ確かに……。主人としてそれは当たり前だろうな。流石ダンデ!その年齢の割にしっかりしてんじゃん!どうしよう、困っちゃったな!
 一人頭を抱えているとある人物が思い浮かぶ。

「ポプラさん!ポプラさんはどうでしょうか!」
「ポプラさん……?なんでポプラさんが出てくるんだ」
「ポプラさんならきっと私を分かってくれます!」
「ふーん。だがこんな時間だ。呼び出すわけにはいかない」

 全部却下されるじゃん何!?もういっそ不審人物として殺してくれ。変なヤツが部屋に現れたから殺しましたと言えばローズさんもそれは仕方ないねで終わらせてくれるよ。
 いやでもそれじゃ私が報われなさすぎるでしょ。元の世界で死んだ(多分)かと思うと何故かこの世界に来ていて、知らない内にこの世界に縛り付けられてしまって、人間に戻れたと思ったら殺される。前前世の私は一体何をしでかしたんだろう。徳を全部ぶっ潰したのかな。
 せめて、せめてポプラさんに。

「で、電話も無理でしょうか」
「……」
「ダンデはこのまま不審な女と一晩共にするつもりなの!?」
「な訳ないだろ」

 目元をヒクヒクさせながら苛立った様に電話をかけ始める。よかった、聞き入れてもらえた。ワンチャン警察の可能性もあったけれど、本当にポプラさんの様だ。
 ダンデがスマホを渡してくる。変わればいいのかな。

「も、もしもし」
『おや、貴女が突然現れた変な女さんかい』
「ま、まあ……」
『へー、面白いねえ』

 何も面白く無いんだよなあ。

「あ、あの!ポプラさん、」
『ホホ、分かってるよ、アンタはヤバチャだね』
「っ!そ、そうなんです!」
『アンタ、またダンデに飲ませたね。いや飲まれた、が正しいのかね』

 そう、そうなんですよと只管返事をする。今の私の味方はポプラさん、貴女だけだ……。

「そしたら突然煙がもわもわってなって、そしたらこんな事に……」
『やっぱりね。前に忠告しようとしたのを覚えてるかい?』
「忠告……、教えてもらえなかったやつ」
『ふふふ、あの時分かっていたんだよ』

 次にダンデの生気を吸ったらアンタは人間になるかもしれないってね、と楽しそうに笑うポプラさん。こ、このクソババア……!なんで無理矢理にでも言ってくれなかったんだ!
 拳を握り、ワナワナ震えていると一つ質問をされる。

『アンタ、ダンデのポケモンになったのかい?』
「え、まあ、一応は……」
『そうかい。なら手っ取り早くアンタをヤバチャと信じさせられるね』

 ダンデに変わりなと言われたのでダンデにスマホを返す。相変わらず私を警戒したまま電話に出るダンデ。
 ババア……ポプラさんは一体どうするつもりなのだろうか。

「ボールを彼女に?何故ですか」
『…………』
「ポプラさんまで……。分かりましたよ」

 机の上に置かれていたモンスターボールを手に取り眺めるダンデ。それを私に投げつけた。えっ。
 ゴツン鈍い音を立て見事オデコに的中。痛いと思った瞬間には赤い光と共にボールの中に入っていた。え!?人間の姿でも入れるの!?
 中から見える驚いたダンデの顔。私は、と確認しようとすると外に出される。

「そんな、」
「バチャ!?」

 も、戻ってるー!すっかり馴染んだヤバチャの姿だ!嬉しくて空中でクルクル回ってしまう。
 歌いながら調子が乗ってきたところでガシリと掴まれる。え。

「……ヤバチャが出てきました」
『…………!』

 電話越しにポプラさんの笑い声が聞こえる。ものすごく大笑いしてる。
 チラとダンデを見上げるとただでさえ大きい目を更に見開いて此方をガン見している。こわ。
 ダンデが耳に当てていたスマホをこちらに向ける。

『ヤバチャ、アンタはこれからも時々人間に戻ると思うよ。力を付けたらもっと頻度が高くなるかもね』
「や、ヤバ〜……」
『じゃあね、もう寝るよ』

 ありがとうございましたとダンデが電話を切る。沈黙。どうしたものかと考えているとダンデに抱き締められる。

「ヤバチャ、すまない。あまりの出来事に酷い対応をしてしまった。許してくれるか」
「ヤバチャ〜」

 びっっっくりした。さっき迄の冷酷な対応とは違い元の対応に戻った。きっとポケモンには冷たく出来ないんだろうな。
 身体の形を変えてダンデの腕の中からするりと抜け出す。ボールを手に取って、と。

「どうしたんだ、ヤバチャ」
「ヤバ」

 ダンデに向かって私のモンスターボールを差し出す。流石のダンデもこんな変なポケモンは要らないだろう。ぐいぐいと困惑するダンデの手に押し付ける。
 ダンデの元での生活はとても楽しかった。前の世界合わせても一番快適だったのは本当だ。
 ただ。ポケモンならポケモンとして、人間なら人間として出会いたかったな、なんて。

「ヤバチャ、もしかして」
「ヤバ?」

 また目を細めて怖い顔で見据えられる。どうしたんだろうと不思議に思っていると片手でカップではなく身体をぎゅっと握られた。ひえ。

「ヤバチャ、オレはキミを逃すなんてことはしないぜ」
「ば、バチャ〜……」
「言ったよな、オレの側に居て欲しいって」
「バチャ〜……?」

 だからこれからもよろしくなとそっと違うカップの中に入れられる。また新しいカップ買ってきてる……。
 側に居て欲しいなんて言われたかなあと記憶を振り返りながら、机の上で大人しくする事にした。

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