さわさわ
「わっ、ビックリした!何?」
「いや、なんでも」
「??」
寝る前に水を飲もうとコップに注いでいるとダンデくんに後ろから腰を掴まれた。そしてそのまま何事もなかったかの様にすぐに立ち去られた。
こういう一瞬のスキンシップ(と果たして言っていいのだろうか)は最近よくあり、どういうつもりか聞いても今の様にはぐらかされるのでよくわからない。
自分の一挙一動でどれだけ私がドキドキするのか自覚してほしい。寝る前だというのに心臓に悪い。
「ね、イーブイ」
「ブイ?」
「ふふ。飲みすぎない様にね」
「ブイッ!」
イーブイ用のお皿にも水を入れてやってぴちゃぴちゃ勢いよく飲む背を撫でる。その度に視界に入る物に心が浮き足立ってしまう。
最近肌寒くなってきた事もあり、衣替えを兼ねて新しいパジャマを購入した。模様も何もない薄茶色の生地ににクリーム色の糸で縫製されたシンプルな物で、胸元にはワンポイントでモチーフとなっているイーブイの刺繍が施されている。
完全にデザインに一目惚れし購入した訳だが、これが物凄く肌触りが良い。毎日早く着たくてお風呂の時間が早くなるくらいにはお気に入りとなってしまった。
ポケモンたちにおやすみの挨拶をして電気を消し、先に寝室に行ったダンデくんの元へ向かう。私がお風呂の時間を早くしてしまった事により、ダンデくんを巻き込んで就寝時間も早くなってしまったのだ。
私に付き合わせるのはちょっと申し訳なく思う。だけど、睡眠時間が増えてダンデくんの顔色も、調子も良くなったからラッキーってやつ。
寝室に入ると既に部屋の照明は落とされていて、ベッドライトだけが点いていた。その僅かな灯りでダンデくんが見ていたタブレットに手を伸ばし、没収する。
「こら、目悪くなっちゃうよ」
「少し資料の確認をしてただけだぜ」
「それでもダメー!もう寝る時間ですよー!」
そう言いながらタブレットに充電ケーブルを挿し、ダンデくんの隣に潜り込む。布団の中がダンデくんの体温で少しだけ暖かくなっていて心地良い。
ベッドライトを消したダンデくんが布団を被り直すのに合わせて抱き着き、ちゃっかり肩に顔を埋める。ふふ、同じ柔軟剤の香り。でもその中にダンデくんの体臭が混ざっていて私とは完全に同じではない香り。
私はこの香りが大好きだ。正に至福の時間。
「もう少し力を緩めてくれ」
「はーい。……ダンデくんも抱きしめて良いんだよ?」
腕に抱きつき直して尋ねてみる。まあこれもいつもの事だし、いつも無視されて終わりだ。さて寝るか、と目を瞑りながらもぞもぞ落ち着く場所を探っていると突然身体が動かなくなる。
動かなくなるというか、動かせなくなった。あれ?
「だ、ダンデくん……?」
「……ん?」
「えっと、その」
まさか本当に抱きしめられる日が来るなんて、感動で泣きそうだし羞恥でも泣きそう。どうしようどうしよう。
私が一人でパニックになっている間に背中と腰に回された手がさわさわと動き出す。わ、わ。今日、シたいって事なのかな。でも明日は平日だし、早く起きなきゃだし。
「ダンデくん……っ、す、するの?」
「いや……」
「へ?」
そう言いながらもダンデくんの手は私の背中を撫でる様にゆっくり這い回る。でも確かに、所謂前戯……愛撫?とは違う感じ。もっとこう、何か別の目的がありそうな。
例えば、何か感触を楽しむ様な……あ。
「……もしかして、パジャマ?」
「ん、あぁ……」
「ダンデくん……?……ふふ」
頭上からすーすーと規則正しい寝息が聞こえる。手もいつの間にか止まっていて、パジャマを握られている様だ。これは明日シワになっていそうだな。
そうか、ダンデくんもこのパジャマの触り心地を気に入ってくれて居たんだ。最近の一瞬だけの変なスキンシップはパジャマを触ろうとした結果だったのかもしれない。
言われてみれば全部このパジャマを着ていた時だった。……まあダンデくんが帰ってきてすぐにお風呂に行くようになったから、ダンデくんと居る時は大体がパジャマだったのだけれど。
確かあのお店には男性用のパジャマも売っていた筈だ。気に入ってくれていたんだったらダンデくんの分も買ってきてあげようかな。
お揃い、とか、買ってきたらしてくれるかな。まだイーブイの同じデザインのパジャマ、残ってるかな。残ってるといいな。……ふふ。
楽しみにしててね。おやすみ、ダンデくん。
翌日から隠す事なくパジャマを触って来る様になったダンデくんに、早急にダンデくんの分も用意しなければと決意するのは別のお話。私の心臓が爆発する。