「そう、今夜ね」
近界民の世界への遠征から帰った数時間後、太刀川隊作戦室で束の間の休息を楽しんでいた色巴に城戸司令に呼ばれて帰ってきた太刀川さんが藪から棒にそう告げた。
「随分と急な話ですね」
同じ隊の出水も私ほどでは無いが驚いている様子だ。
「うん、相手はあの玉狛だしね。それに、迅が絡んでるから」
「あーなるほどー」
出水が納得するようにつぶやく。
黒トリガーといえば優れたトリオン能力を持つ者が、命と全トリオンを注ぐことで作られるトリガー。希少価値は相当なもので、このボーダーにも3つしかない。
「それってつまり…迅くんのトリガーを…?」
声が震えているのが自分でも分かる。しかし確認しないといけない事だ。
「いや、迅のじゃない」
「えっ…?」
色巴の緊張を余所に太刀川がしれっと答える。どういう事だろうか。玉狛支部が所有している黒トリガーは迅の物のみのはず。色巴は内心少し安心したが、依然状況が飲み込めず黙り込んでしまった。
「迅さんのじゃない…となると、新しい黒トリガーが見つかったって事ですか?」
口を開いたのは出水だった。
「そうだ、しかも持ってるのは近界民らしい」
「「近界民が!?」」
出水と色巴の驚愕の声が重なる。
黒トリガーが見つかっただけでも一大事だというのに、その上近界民が所有する黒トリガーを玉狛から奪うとは、一体どういう事だえろうか。一体私達が遠征に行ってる間に、三門市に何が起こったというのだ、色巴は一層不安になったが、何とか平静を保ち太刀川からの説明を聞いた。
聞くところによれば、その近界民はボーダーのB級隊員と一緒に行動しているらしい。それを美輪隊が発見。戦闘に発展し、美輪隊は苦戦を強いられたらしい。それだけでも規格外なのに何故か迅くんが関与しており、ここ数日は玉狛支部に近界民は通っているらしい。今までの常識とはかけ離れた出来事に色巴も出水も驚いたが、色巴は
あそこはボーダーの中でも特に近界民に好意的な組織だ。色巴も親交の深い場所であるがゆえに余計に今回の件への不信感が増した。
それに黒トリガーを奪うなどという暴挙を色巴が二つ返事で了承できるわけがなかった。
「私、嫌だよ」
「………」
太刀川の目を真っ直ぐに見て言った。
太刀川は黙って聞いている
「黒トリガーを持ち主から奪うなんて…そんなの私は絶対嫌!!黒トリガーはただのトリガーじゃ無いんだよ?死んじゃった誰かなんだよ!?それなのに…慶くんだって嫌じゃ無いの?」
「悪いが上からの命令だ。従ってもらわないと困る。」
「そんな…」
太刀川の顔を色巴はじっと見つめた。こういう風に私に強く言ってくる時の慶くんの色は透明で、でも少し黒くて…怖い。
「まあまあ、そんな重く受け止めないでさ、色巴。持ってるのは近界民だよ。俺たちの敵。」
あまりに色巴が切羽詰まってるからか、出水が横からフォローしてきた。
「は?」
が、この一言が火に油を注いだ。
「相手が近界民だって関係ないよ!それとも何?2人は私から黒トリガーを奪えって命令が来たら、従うっていうの!?!?」
そう言って色巴は自分の胸元をぎゅっと掴んだ。
ボーダーには3つの黒トリガーがある。
一つは迅悠一の持つ風刃、
もう一つは天羽月彦の持つ黒トリガー、
そして最後の一つは、色巴が持っていた。