忍田色巴の持つ黒トリガーは彼女の父が作ったものだった。5年前の同盟国での戦争で死亡し、黒トリガーだけが色巴の下に戻ってきた。適合者は色巴のみとされるも、彼女は未だこの黒トリガーを使用した事は無かった。
色巴が黒トリガーを所持していながらS級にならずに太刀川隊に所属しているのもそれが理由だ。
ボーダー上層部の派閥的に玉狛支部が所持する黒トリガーが2つになる事で派閥の均衡が破られてしまう事を城戸派は恐れているのだ。城戸派閥には天羽と色巴の2つの黒トリガーがあるが、今まで一度も起動していない色巴のトリガーはあってないようなもの。玉狛所持の黒トリガーが増える脅威は大きいのかもしれない。だがそんな事は色巴には関係ない。
「どうなのよ!」
暫く黙っている太刀川に問いただす。サイドエフェクトで感情を読み取ろうにも、こういう時の太刀川は自分を隠すのが上手い。伊達に色巴と長く付き合っているわけではない。
「やるよ、俺は」
「っ…」
太刀川は今まで黙ってた割にあっさりと答えた。
なんでこいつはこういう事を平然と言えてしまうのだろうか、色巴の張り詰めてた糸がぷつんと切れた。堪忍袋の尾が切れたともいう。
「〜〜っ、もういいっ!!!!私は絶対に行かないから!!!!!どうしても連れて行きたきゃ、力づくでやってみなさいよ!!!!私は私の好きなようにさせて貰うわ!!!!!」
色巴は怒鳴り散らかした。目には若干涙が溜まっている。そしてドカドカとドアまで歩いて行き去り際に、
「慶くんのバーカバーカ!!!単位落として留年しろ!!!」
と捨て台詞を吐いて勢いよく飛び出していった。遠くで出水が怪訝そうに太刀川に話しかけている声が聞こえた。
「あーあ、もう何でそうやって色巴をわざと怒らすんですか」
色巴が部屋を飛び出して足音も聞こえなくなると、出水がため息混じりに声をかけた。
「いや〜黙って俺ら2人で任務にいって後から知った色巴に怒られるよりはマシでしょ」
そう言う太刀川は飄々とした物言いだったが、さっきまでとは違い、肩の荷が降りたような、何処と無く疲れているように見える。色巴に感情を読まれない様に気を張っていた所為だろう。
「そんな事あったら俺まで殺されちゃいますよ」
出水もつられてへらっと答えた。
「だからってあそこまで怒らせなくても良かったのに」
「俺だってあそこまでする気はなかった。というよりも、お前が焚きつけたんじゃないか」
少しむっとされて出水は少したじろぐ。確かに色巴をあそこまで怒られたのは、出水の発言の所為でもある。
「えー、だって俺は色巴も任務に連れてくんだと思ってましたもん。」
それに出水の発言は間違ってない。太刀川隊は完全に城戸派とはいかないまでも、基本的には「近界民は敵」という考えで活動している。だが色巴は違う。太刀川隊に所属はあるが、考え的には全面的に忍田派や玉狛寄りの考えだ。それが原因で隊員間で衝突する事は珍しい事じゃない。
「とにかく、今回はウチからは俺とお前の2人で行く。色巴はお留守番だ。」
「はいはい、色巴荒れてそうだな〜大人しく留守番してくれますかね?」
「どうせそのうち泣き疲れて眠って、次の日にはケロっとしてるよ」
そうだといいんですけどね、と出水は心の中で呟いた。この隊長は未だに色巴を幼稚園児か何かだと思ってる節ある。忍田本部長といい太刀川といい、色巴の保護者らは過保護すぎる。いつもの喧嘩なら太刀川の言う通りになるかもしれないが、今回は黒トリガーが掛かっている分、色巴の気持ちの入りようが違う。出水は漠然と嫌な予感を感じていた。