話を整理すると、件の近界民は空閑遊真という名前で、遊真の父は旧ボーダー創設に関わった最初期メンバーの1人、空閑有吾という人物で、城戸司令の同期、林道支部長や忍田の先輩にあたる人物だという。有吾はすでに死亡しており、遊真の持つ黒トリガーが有吾である。遊真は、最上宗一を訪ねて近界民から三門市にやってきて、そこで当時ボーダーの訓練生であった現B級隊員三雲修と知り合い、幾度かトリオン兵と戦闘。その際のトリガーの痕跡から三輪に怪しまれ遊真の存在がボーダーに露見してしまった。
「後は太刀川さんから聞いたろ?」
迅は色巴に問う。
「うん、大体はね」
ここまでの事情を把握した色巴は今夜の強奪を何としても止めたいと強く感じていた。自分と同じ父親の黒トリガーを持つ少年、これを放っておけるはずがない。
「それで?今遊真くんと三雲くんは玉狛に出入りしてるって聞いたけど」
「そう、もう1人女の子もいて、その子と遊真、三雲くんの3人で玉狛支部に入隊、隊を組んでA級を目指すことになった。今は玉狛支部で特訓中」
「ボーダーに入隊!?そっか…なるほどね」
玉狛支部は全員A級クラスの実力派。玉狛での指導は必ず彼らの成長に繋がるだろう。
聞くところによれば、遊真は玉狛支部の隊員である小南から直接指導を受けているそうだ。色巴は小南と同時期にボーダーに入隊しており、親友と呼べる関係だ。色巴自身、玉狛支部とは縁深いが…
(キリちゃんちゃんと指導できてんのかな〜〜心配だ…)
木崎や烏丸には色巴もいろいろ指導を受けてるので納得だが、直感型で騙されやすい小南が指導に向いている性格では無いのは親友である色巴はよく知っていた。心配だ。
そんな事を考えていると忍田本部長が口を開く。
「私としても、恩師である有吾さんの子と争うのは反対だった。城戸さんが強行手段を取ると迅から聞いて、協力すると話していたところだったんだ。」
「そ、嵐山隊をお借りしたくてね」
城戸派から向けられる刺客は太刀川隊、風間隊、冬島隊の遠征チームと三輪隊。
「ふうん…人数としては互角…だけど」
太刀川隊は太刀川と出水、冬島隊からは当真のみの参加とはいえ、この3人はチームでの連携というよりは個人での技能が卓越している。
「勝てるの?」
色巴は迅に尋ねた。色巴の直感では、迅と嵐山隊が勝てる見込みは五分五分といったところだ。
「俺的にももう一押し欲しいところなんだ」
尋ねられた迅は少し口角を上げて答えた。
「それって…」
「そう、俺がここに来た目的は忍田さんだけじゃない」
迅の瞳がまっすぐ色巴を見据える。
「お前の力が必要なんだ、色巴」
俺のサイドエフェクトがそう言ってるーー
迅の瞳はそう語っているように色巴には見えた。
色巴にしてみれば願っても無い話。事情を聞いた時点で一緒に止めに行くつもりでいたくらいだった。
「私としては、断る理由はないわね。そんな事頼まれなくても勝手に着いていくつもりだったわよ」
「ははっ、まあそうだろうな」
「それに」
色巴はニヤリと笑って続ける。
「慶くんと本気で戦えるなんて久しぶりだし…慶くんをけちょんけちょんにして、今日のこと末代まで詫びてもらうわ!」
今日日「けちょんけちょん」なんて表現は使わないだろ…と忍田は我が姪ながらなんとも言えない気持ちに晒されていた。
「…という訳なんですが宜しいですか?忍田さん?」
迅は忍田に尋ねる。忍田の色巴への過保護ぶりは知る人ぞ知るボーダー名物、一応許可が必要だと迅は思った様だ。
『私だって守られたい訳じゃないの』
忍田は先程色巴が言っていた言葉を反芻する。色巴が泣いて入ってきたときは気が気でなかったが、あの言葉を聞いてはっとさせられた。色巴が忍田の元を離れ、一人暮らしをするようになって数年経つ。
(大きくなったな…)
上官としても保護者としても、ここは彼女の意思を尊重するべきだと判断する。
「分かった。忍田色巴隊員の参加を許可しよう。」
「おじさん!」
色巴は反対されると思っていたのか驚きながらも嬉しそうな声を上げた。
「ただし」
忍田は表情を厳しくする。
「無理はするな、慶には後で俺からも説教だと伝えておいてくれ」
最後のは明らかに私怨であるが、色巴には好都合だ。
「任せて、絶対止めてみせるから」
色巴は力強く返答した。
「よし、そうと決まれば準備準備!迅くん、詳しい作戦聞きたいから場所変えよう!おじさん!またね!!」
やる気に満ち溢れている色巴はもうじっとしていられない様子で足早に本部長室を後にした。
「じゃあ忍田さん、大事な姫様をお預かり致します。」
迅は少し戯けた様に言った。遠くから色巴が迅を呼ぶ声がする。
「ああ、色巴の事よろしく頼むよ」
忍田の表情こそ穏やかだったが、迅には色巴に何かあったら承知しないぞと言う様な重い圧を感じていた。
「はい、まあ俺、天才なんで任せて下さい」
そう言って迅も本部長室を後にした。
(ひ〜怖、太刀川さんといい忍田さんといい、お姫様の周りは鉄壁だな〜〜)
迅は思わず身震いした。
(ま、壁は高い方が攻略しがいがあるからな)
そう心の中で呟くと、迅は口角を上げ、遠くで自分の名前を呼ぶ色巴のもとへ急いだ。