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(バカバカっ!!慶くんのアホ!!!)
太刀川に怒鳴り散らした色巴はボーダーの廊下を大股で歩きながら泣きじゃくっていた。
色巴はまっすぐにある場所を目指していた。先程の愚痴を言いに行くためと、この件に関する別視点での見解が欲しかったからだ。しばらく歩くと見知った名前のある扉が見えてきた。『本部長室』と書かれた横には『忍田真史』の名前が立てかけられている。色巴の叔父にあたる人物だった。

「おじさん!!!」
ノックもせずに勢いよく扉を開けた。そこにはお目当ての色巴の叔父、忍田真史とこの騒動の中心人物と言える迅の姿があった。
「色巴!?一体どうしたんだ!?」
忍田は色巴が泣いている事に動揺している様子で、柄にもなくおろおろしている。
「よぉ色巴、遠征お疲れ。ぼんち揚食う?」
対照的に迅は落ち着いた様子でいつものようにぼんち揚を勧めていた。
「ぼんち揚嫌いだっていつも言ってるじゃん〜〜なんで迅くんがここに居るのよ〜」
泣きながらも迅の行動に突っ込む色巴。色巴は煎餅などの硬いお菓子は好んで食べない。赤ちゃん煎餅やすあまみたいな柔らかい和菓子を好む。
そんな事より、なんでこいつはこんなのんびりしてるんだと色巴は思った。自分は今夜玉狛に奇襲を仕掛けると言われて飛んできたというのに、当の本人は困難だから拍子抜けである。まあこの事態も、迅にしてみれば見えている未来なのかもしれないが。
「まあ落ち着けって、太刀川さんに泣かされて愚痴りに来たんだろ?」
「何?慶に何かされたのか!?」
やはり迅は色巴がここに来るまでの一連の出来事を見ていたようだ。忍田本部長は大事な姪がここまで泣く事を太刀川が行ったということに驚いていた。
「だって慶くんが!!!黒トリガー奪うって…私嫌だって言ったのに、来いって言うから〜〜じゃあもし、私の黒トリガーを奪えって命令されたらするのかって、言ったの!!そしたら……奪うって、あっさり言うんだもん…」
初めこそ色巴はは怒鳴っていたものの、先程のやりとりを思い出していくうちにだんだんと声が小さくなって、言い終わる頃にはひくひくと静かに泣いていた。

忍田と迅は色巴の話を黙って聞いていた。2人の考えてることは概ね一緒だった。
(相変わらず不器用な人(奴)だな、太刀川さん(慶)…)
忍田も迅も、或いは色巴でさえも、この言葉が太刀川の本心ではないことは理解していた。色巴の父が亡くなり、黒トリガーの所有者となった彼女の苦労を間近で見ていた1人だ。それ故に色巴も太刀川も感情的になってしまったのだろう。
少しの沈黙の後、色巴がそれよりも、と顔を上げた。
「私が泣くって分かってて止めないとか迅くんほんとサイテーだから!」
「あー…はは」
迅はばつが悪そうに頭を掻いた。迅からすれば止めたかったのは山々なのだが、それをする訳にはいかなかった。太刀川隊のいざこざに迅が介入するのもおかしいし、止めていれば色巴に今回助っ人を頼むに当たっての色巴の覚悟が弱くなってしまう可能性があった。
「それを言われると弱いな、ごめんな。」
そう言うと迅は色巴の頭を撫でた。
「いい、私だって守られたい訳じゃないの。もう子供じゃないのよ」
色巴は少し顔を赤らめると、拗ねた様に言った。
そう、私はもう子供じゃない。守られてなくても、自分で決断して、戦えるんだから。そう自分に言い聞かせると色巴は迅と忍田を交互に見つめた。
「それで?一体どう言う事なのよ!!迅くんがいるならもう全部説明してもらうから!伯父さんも知ってることは全部話して。」
そう言うと色巴は2人をきつく睨んだ。
東西南北